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第24話

 中学卒業後、道慈は大学を卒業するまで雪丸と疎遠になった。高校に行く前に最後に挨拶でもしようと思い、軽い気持ちで家に電話したら電話が繋がらず、会いに行ったら雪丸の家の表札が無くなっていた。  衝撃だった。動揺のままにインターホンを押しても、プラスチックのボタンがかちりと音を立てただけだった。郵便受けからは詰め込まれたチラシが溢れていた。  雪丸は神奈川に会いにくると軽く嘯いていたが、そもそも連絡手段がない。雪丸は携帯すら持っていなかった。よく考えたら雪丸の就職先の名前すら聞いていなかった。  雪丸は自分の具体的な未来の話をすることを嫌がる節があった。気持ちはわかる。普通の家に生まれてさえいれば、雪丸は野球を続けていただろう。どんな下手くそでも持っている選択肢を、十分に才能がある雪丸だけは持っていなかった。  そのまま春休みは引っ越しの準備に追われて、気づいたら地元を離れて高校の寮に入っていた。  高校1年の秋頃、教室で昼食後に友達と話していたら女子の先輩から呼び出された。神楽雪丸って知ってる? よく知る名前に一瞬で食後の眠気が吹き飛んだのを覚えている。先輩は道慈の変化に気づくことなく話を続けた。昨日校門前で声かけられたんだよね。金髪だしヤンキーかと思ったら結構優しげな感じで。柔道部の大会の日程知りたいって。私が知るわけなくない? まあでもすごいイケメンに頼まれたから、私もぞんざいに扱えなくてさ。誰の試合見たいのか聞いたら君のって。  連絡先持ってるんですかと思わず小さな先輩の肩を掴んだら、明らかに怯えられたので慌てて手を離して謝った。  結局この先輩から連絡先を教えてもらい、スマホで雪丸にメッセージを送った。しかし既読はつくものの返信は来ず、もはやその連絡先が雪丸のものなのか確信もできないまま直近の新人戦の日程をとりあえず送った。  試合中は試合に集中していたのでそれどころじゃなかった。終わってまばらに残っている観客席を確認したが、それらしい姿は見つからなかった。  その後も大きな大会がある度にメッセージを送った。  雪丸の姿を見つけたのは冬になってからだった。高校に入って初めてできた彼女が応援幕を作って友達と見にきてくれた時、ちょうどその隣に椅子に浅く腰掛ける態度のでかい金髪の姿が見えた。  話には聞いていたが本当に金色の髪になっているのに少し驚くとともに、生きている姿を確認できて安心した。  先輩からもらった連絡先は本当に雪丸だったらしく、その後も大会の日程を送り続けたら時折姿を見せた。しかし大学に入っても返信がくることはなかった。  試合の度に観客席を確認することが道慈の癖になっていた。  その後社会人になって初めて開かれた同窓会で、7年ぶりにまともに雪丸と喋った。二次会から来たにも関わらず雪丸はすでに酔っ払っていて、石倉に肩を支えられていた。  目が合った瞬間抱きつかれた。咄嗟にタバコとほのかなムスクの匂いがする身体を支えた。相変わらずデケェなぁ道慈。雪丸は嬉しそうに胸に顔を埋めてきた。  成人式で会った時よりもさらに太った石倉が疲れたように肩を回していた。雪丸今ホストやってるらしいぜ。今日も同伴の予約入ってたからそれだけ片付けて早上がりしたらしい。とりあえずそいつよろしくな。俺佐藤のとこ行ってくる。今日しかチャンスねぇから。  残された道慈のもとに今度は竹田と三川がやってきた。竹田がにやにや笑っている。雪丸べろべろじゃん。良かった、雪丸来たら女全員持ってかれるかと思ったぜ。いや成人式の時も思ったけどみんなきれいになりすぎじゃねぇ? 三川がお前彼女いるだろと竹田に突っ込んでいた。  なんやかんやとくだらない話をしたあと、二人が誰かに呼ばれて去っていくと、雪丸が呟いた。気持ち悪い。トイレ行くかと聞いたら、帰ると首を振った。お前滞在時間15分だぞと声をかけたら、道慈も帰ろうと手を握られた。上目遣いで整った顔に見上げられながら、雪丸の客はいつもこうやってねだられているのだろうと思った。大人になった雪丸は中学時代の危うさが妖しい色気に変わっていた。  聞きたいこともあるしちょうど良いかとタクシーを呼んで雪丸を乗せたら、そのままタクシーの車内で寝こけたので家に連れて帰った。  寝て起きたら酔いも覚めたのか、道慈の家に着いてからしばらくして雪丸は復活した。家で酒を飲み直しながら雪丸と喋ってみると、雪丸が相変わらずバカで無鉄砲なまま元気に生きていたようで安心した。再会して感じたのが雪丸の体温と成熟した色気だけで尻の座りが悪かったのだ。  安心したら、なんで何も言わずにいなくなったのかとか、なんで7年も返信一つしなかったのかとか、聞きたかったことが全部どうでも良いことのように感じて結局聞かなかった。  その後何度か飲みに行ったり遊んだりしていたら、いつのまにか雪丸が家に居座るようになり、今では半分線を越えかけている。しかしそれも今日までだ。  道慈はパッケージを開けた張り型に目を落としながら絶対に今日で終わらせると自分に誓った。  道慈宛に届いた記憶にない小包に、一瞬詐欺の類かと思ったが、開けてわかった。雪丸が通販で買ったディルドを横着して道慈の家に届けたのだ。せめて自分の名前にしろと思った。  グロテスクな形の真っ黒のそれは、たしかにかなり大きかった。カリ首が大袈裟に張り出ているそれに、抜けなくなったらどうするんだろうかと少し心配になった。  洗面所でそれを手洗いしていると、雪丸が手の中を覗き込んできた。 「今どんな気持ちでそれ洗ってるの?」 「……やっと解放される」 「俺から?」 「ああ」  雪丸がじっと見つめてくる。たまに雪丸は何を考えているのかわからない顔でこんな風に見つめてくる。  雪丸が腕に頭を擦り寄せてきた。 「道慈の手がそれ洗ってるとすげぇエッチに見える。ちょっと舐めてみて」 「ふざけんな」  洗い終えた張り型を振ってから寝室に向かうと、雪丸が後ろをついてきた。  この前拡張した時から時間が経っているからどうかと思ったが、そこまで硬くはなっていなかった。雪丸も仕事で使っているからだろう。この前職場で見たばかりの新作が頭に浮かび一瞬気分が悪くなる。  壁に背をもたせかけながら後ろから雪丸の身体を抱いて、たっぷりのローションと共に三本の指を後孔に含ませる。良いところをゆすってやると、雪丸が体を震わせて腕に抱きついてくる。 「ぁ、んん……!」  長めのシャツの裾が先走りをこぼす先端にかかりそうになるのをシャツを引っ張ってどけてやる。どうせそのうち汗やいろんな液体で濡れてぐちゃぐちゃになって洗う羽目になるのはわかっているが。 「どうじ、まえ、まえも……」  見上げてくる潤んだ目に名を呼ばれて、一瞬道慈は固まった。まずい。もう何回も見たことあるはずの蕩けた顔なのに。  触れ合った体温がいやに熱く感じる。身体は熱いのに冷や汗が額に滲むような感覚だった。 「アッ、そこ、好き、どうじ……!」  もう呼んでくれるなと思った。甘えた声で呼ばれてもうダメだった。  雪丸が目を見開いた。腰を引いてももう遅いし、そもそも隠せるサイズじゃない。  雪丸の顔が見る間に染まっていく。誤魔化すように雪丸のシャツの裾を持ち上げ、何か言いかけた口に咥えさせる。雪丸は真っ赤な顔のまま困惑したように見上げてきながらも、大人しくシャツの裾を咥えていた。  くっきりと割れた腹筋と涙をこぼしてそそり立つもの、濡れた会陰とその奥で指を咥える穴まですべてが電気の灯りの下に晒されている。  自分でやらせておいて、腰に来るその姿に一瞬自分を殴りたくなった。  要望通り前も扱いてやる。あんまり前で逝かせると体力が持たなそうなので中だけを弄っていたのに、動揺のあまり手順がめちゃくちゃだ。 「んっ! んんっ」  中の前立腺をとんとんと撫でながら、前を扱くと雪丸がくぐもった声を上げて身を捩らせた。  中がうねり始める。雪丸の腰ががくんと動いた。 「ンンッ……!」  ティッシュで白濁を受け止めながら、必死に腕に抱きついてきている雪丸の口からシャツの裾を退けてやる。さすがに呼吸がしづらそうだった。  息を整えた雪丸は、道慈を見上げて恍惚とした顔で笑った。 「挿れる気になった?」 「なんねぇよ」 「なんねぇの……? これ、俺に勃ったわけじゃねえの?」  雪丸がわずかに腰を押し付けるようにして座り直したのに、喉が鳴る。 「っ……、……そっちは気にすんな」  雪丸が目を瞬いて続きを再開しようとした腕を撫でてくる。 「俺、いまお前のちんこ挿れてもらうの期待して濡れてんだけど」  雪丸が達したばかりの自身を自分で撫でながら見上げてくる。いまだ勃ちあがったものの先端から透明な液体が漏れている。  前までは雪丸のしどけない姿を見てもそこまで何も思わなかったはずなのに、今はやたら色が滲んで見える。 「……挿れねぇよ」 「じゃあ先にお前の抜いてあげる。腰にこんだけでかいの当てられたら道慈の指に集中できない」  そう言って身を起こして向かい合わせに座った雪丸の肩を押す。上から見下ろすと、雪丸が不思議そうな顔で見上げてきた。 「この体勢で触った方がいい?」  触ってこようとする両手首を頭上でひとまとめにして掴みあげる。雪丸がきょとんとしながら見上げてきた。 「俺のことは気にすんな」 「気にするよ。親友だもん」  へらず口を無視して枕を掴み、腰上げろと指示すると雪丸は大人しく従った。 「両手で手組めるか?」  こう? 雪丸が手首を掴まれたまま自分の両手同士を繋いだ。 「そのままでいろよ」  手を離しても雪丸は言われた通りにそのままでいた。ローションを手に取り、指に絡める。指を差し込んで拡張を再開すると、雪丸はようやく自分の意見が通らなかったことに気づいたようだった。 「俺も触りた――アッ、ふう……!」  毛一つ生えていない太ももを開かせて入り口を広げていく。押さえた腿裏から体温が伝わってくる。刺激を受け止めて震える身体を見下ろしながら、道慈は額に滲んだ汗をTシャツの肩で拭った。冷房をつけているのに身体が異常に暑い。  いままでどんな顔してこの作業をしていたのか思い出せない。 「どうじ……! あっ、やだ……! やさしくして、」 「悪い、痛かったか?」  手荒にしたつもりはなかったが、心が乱れているのが伝わったのかもしれない。手を止めて見下ろすと、雪丸がはぁはぁと息をつきながら見上げてきた。 「ぎゅってしたい……」  雪丸が繋いだままの両手を見せてきた。これ取っちゃダメ? 律儀に言いつけを守っていた頭を撫でながら、肘を顔の横につくと、雪丸が首に抱きついてきた。体温が一気に共有され、身体がさらに熱くなった。  近すぎる。胸までべったりとつき、しまいには雪丸の足が腰に絡んでくる。 「おい、何もできねぇ……」 「どうじのからだ、すげぇ熱い……ふは、汗だく、かわいい」  至近距離で顔を覗き込んできたかと思ったら、雪丸が笑っている。  休憩したいのかもしれないと思いそのまま横に寝転がると、雪丸が人の腕を枕にして片足を掛け直してくる。 「俺、やっぱ張り型いれんの怖いかも」 「……ああ。……は?」  汗で湿ったTシャツの胸に雪丸が顔を埋めてくる。よく汗だくの男の胸にそんなに引っ付けるなと思いつつ頷いてから、我に還った。  今耳を疑うようなことを言われた気がする。 「また抜けなくなったらどうしよう」  雪丸は顔を上げないままぼそりと呟いた。 「そうならねぇように広げたんだろ。甘えたこと言ってんじゃねぇよ」  思わず後輩に言うかのような口調になる。ここまで来て何言ってんだこいつは。そこまで考えてから、休憩したのが怖気つく暇を与えてしまったのかもしれないと思った。  手にローションを取り、胴体にかかっている膝を上げさせて穴に指先を添える。雪丸は体をぴくりと反応させながらも大人しく指を受け入れた。 「もうすぐ入るぞ。あとちょっと頑張れ」  勃ち上がった互いのものが若干触れ合っていたが、道慈はもはや気にならない程度には焦っていた。ここでいやだと駄々を捏ねられて挿れられなかったら、また次回ができてしまう。そうなったらまた幼馴染に欲情している自分と向き合わなきゃいけない。勘弁してくれと思った。  初めての体勢だったが存外に分かりやすくなっていた前立腺を撫でると、雪丸がさらにくっついてくる。 「あっ、そこ……!」  雪丸の腰がゆれ、勃ち上がったものがハーフパンツ越しに押し付けられる。直接的な刺激に道慈の萎えかけたものが再び硬くなり始める。道慈は遠い目をした。どんどん悪い方向に進んでいる気がする。 「どうじ、きもちいッ、どうじ……っ」  雪丸が抱きつきながら見上げてくる。その頭を撫でてやりながら、一方の手では性感帯をひたすらに弄る。もうどう考えてもこれは前戯としか思えなくなりつつある自分がいた。 「アッ、いく、出る、どうじ……!」  腰を震わせた雪丸が果てる前に指を引き抜き、穴をマッサージする。雪丸が混乱したように見上げてきた。 「ぁっ、おれ、いけてな――んっ」  指を入れて入り口の広がりを確かめる。そろそろ入りそうだった。サイドテーブルから張り型を取って、雪丸の背後でローションを塗り込める。 「どうじ、」  物欲し気に腰を擦り付けてくる尻を掴んで抑える。 「勝手に逝こうとすんな」 「だ、だってぇ……道慈のちんこ熱くて固くて気持ちいい……」  言葉選びが完全にアホの淫乱だ。そう呆れる一方でいちいち反応してしまう自分がいた。 「我慢しろ」 「我慢したらご褒美くれる?」 「……ああ」  指を再び挿れて、浅いところで僅かに曲げて3本の指で良いところを挟む。雪丸が背を逸らした。 「アッ……ああ、うぁッ」  びくびくと身体が断続的に揺れ、ハーフパンツにまで濡れた感覚がしみてくるのがわかった。恍惚とした顔のまま雪丸が抱きついてくる。  人肌を感じると安心するのか、雪丸は密着すればするほど力が抜けて達しやすくなる。これなら入りそうだと十分に広げた入り口に張り型の先端を押し当てる。  ぎくりと雪丸の肩が大袈裟に強張った。 「やだ、どうじっ、やだ……!」  雪丸が首を振って足を下ろそうとするのを抑え込む。  そのまま先端を挿れようとしたら、怯えたような顔で雪丸が縋り付いてきた。 「やだぁ……!」  見る間に大きな目の中に涙がたまりだす。しがみついてくる腕が震えていた。  なんでこっちがレイプしてるみたいな気分になんねぇといけねぇんだよと思いながら、道慈はため息をついて張り型を尻から離した。  雪丸の背中をあやすように叩きながら、道慈は行き場を失った張り型をベッドに放った。  やってらんねぇ。   

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