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第25話
数分経ってもひっついたまま鼻を鳴らしている雪丸の背中を撫でながら、道慈は投げやりにぼやいた。
「もう今日は終わりにするから、嘘泣きやめろ」
雪丸が間を置いて顔を上げた。目が赤くなっている。感情の一部が欠落していたんじゃないかと思うほど悲しみを表に出さなかった昔と比べたら雪丸の感情表現はかなり豊かになっていた。しかし結局本質は変わっておらず、重要な場面では疲れた顔で空笑いしてるくせに、こんなどうでもいい時にはこれみよがしに涙を見せてくる。そもそも男が男相手に泣いてもしょうがないだろう。
「嘘泣きじゃない」
「そうかよ」
いい大人二人が張り型を挟んで何やってんだかと道慈は思った。
「俺道慈のじゃなきゃやだ……道慈の挿れたい。だめ?」
「ダメに決まってんだろ」
人の気も知らないでねだってくる。ここで誘いに乗って挿れたら負けだ。いろいろと今まで通りにはいかなくなるし、雪丸のことを本気で好きな女達にも申し訳ない。
「さっきご褒美くれるって言ったのに」
「張り型我慢できたらな」
「俺、今道慈とセックスできんならゲイビ出んのもう辞めてもいいぜ」
雑に背中を撫でていた手が止まる。軽く口にされた交換条件は、最近の道慈の苦悩を半分ほど解決するものだった。
「俺の身体全部道慈にあげる」
具合いいぜと雪丸が笑った。
「お前言ったな?」
雪丸の肩を掴むと、掴んだ体がぴくりと揺れる。僅かに赤くなった目が面食らったように瞬いた。
「俺の全部もらってくれんの?」
「ゲイビ出るの辞めんだな? 金輪際」
とんでもないことを言われているが、最重要事項は不愉快極まりないゲイビデオの方だ。
「ああそっち……うん、今ちょうど次の撮影決まってねぇし」
一瞬この拡張の目的である巨根との撮影はどうなったのか疑問に思ったが、都合よく話が進んでいるこの機会をみすみす逃すわけにはいかない。
雪丸の女達には悪いがそれよりもゲイビを辞めさせることのほうが重要だった。
「約束だぞ。嘘ついたら針千本飲ますぞ」
「本当にやんの? それだけのために?」
俺のゲイビに親殺されたの? お前。呆然と呟いている雪丸の体を組み敷いて、枕を腰の下に敷き直す。
急に動き出した展開に、雪丸の方が動揺しているようだった。
「ちょっと慣らすぞ」
乾きかけた穴を湿らせるように濡れた指で撫でると、雪丸の身体が大袈裟にびくついた。
丁寧にローションを中に塗りたくられ、雪丸は興奮のあまり浅くなる息を抑えられなかった。
道慈が自分相手に勃ったというだけでも快挙なのに、道慈がセックスに対してやる気を見せている。奇跡だ。
雪丸は嬉しさと興奮で滲んだ視界の中で見下ろしてくる顔を見上げる。暑いのかTシャツを脱いだ体から目を離せない。浅黒い肌に盛り上がった僧帽筋、ふっくらとした胸筋、割れた腹筋、男が羨む身体。
下から眺める肉体美、たまんねぇ。雪丸は手を伸ばした。
「おれも、脱ぐ」
道慈の手がシャツのボタンを外してくれる。片腕ずつ脱いで寝転がると、道慈の手がサイドテーブルの引き出しを開けた。スキンを取った手に心臓がどくりと高鳴る。
袋を破って着ける姿を目に焼き付けるかのように凝視する。かっこいい。ゴムつけてる道慈かわいい。ちゃんと勃ってる。嬉しい。
まるで夢を見ているかのような気分だった。
手に取ったローションをそそりたったものに塗りたくる姿に、勝手に穴がひくつきだす。この大きな一物が中に入るところを想像して、前からひっきりなしに先走りが溢れた。
「どうじ、はやく、」
もう待ってるこの状況だけで逝きそうだった。道慈の手が前髪を撫であげてくるのに、背筋がぞくぞくとくすぐったくなる。
「ゆっくりやるから、痛かったら言えよ」
こくこくと頷く。腿裏に手を置かれると、道慈にまで聞こえてしまうんじゃないかと思うほど心臓がばくばくと音を立て始めた。
先端が穴にあてがわれ、その質量に口の中に唾液が滲んでくる。
「いけそうか?」
「いける、から、どうじの、はやくほし……!」
太ももを押さえられたまま、押し込まれる。圧倒的な質量がめり込んでくる感覚に、雪丸の口から喘ぎが漏れる。
「ぅあ゙……っ」
十分に広げられていたからか痛みはないがひどい圧迫感だった。馬に突っ込まれるとしたらこんな感じだろうか。
「きついか?」
「ん゙ん、い、いけっ、から……っ、とまんな、」
ずぼ、と音を立てて引っかかっていたところが抜けた。次の瞬間中を満たすそれが良いところを抉り、呼吸が止まる。
「かはっ――」
目を見開いたまま固まる。神経を直接舐るような快感と息ができないほどの圧迫感に目の前が真っ白になった。パタパタと顔に液体が飛んでくる感覚を最後に、視界がブラックアウトする。
ぱちぱちと頬を叩かれ、はっとして起きた。
道慈の姿がぼんやりと見える。息しろ。吐け。言われた言葉に従って、やっと酸素が身体に入ってくる。
はぁっ、はぁっと自身の呼吸が聞こえる。異常なほどの圧迫感が中にあった。動いてもいないのに良いところに当たっているせいで、呼吸に合わせて中が収縮する度に身体が跳ねる。休む暇もない。
「ぅぐ、はっ、あて、あてな」
一回当てないでと言いたいのに、口が回らない。そもそも大きすぎて当てないことができないのかもしれない。
「一回抜くか?」
聞かれた言葉に頭を振って手を伸ばすと、道慈が覆い被さってくる。変わった角度にむせながら必死に首に腕を絡めて抱きつく。何かにしがみついていないと下半身の衝撃に耐えられそうになかった。
「うぅッ、ハァッ……っく、」
耳の中で脈打つ音が聞こえてくる。
「大丈夫か?」
道慈が見下ろしてくる。ぼやけて顔もよく見えない。
「ま、まて、まって、」
「待ってるから焦んなくて良い。息はけ」
道慈の手が頭を撫でてくる。頭頂部を包む手の体温に安心して身体から僅かに力が抜けた。そこで初めて自分の全身がガチガチに緊張していたことに気づいた。意図して吐く息とともにさらに下半身から力を抜く。呼吸の度にいいところに熱が当たり、きゅうきゅうと腹の奥から切ない快感が湧き起こった。
「んっ、ん、ハァッ、どうじ……も、だいじょぶ……」
「じゃあもうちょっと入れるぞ」
雪丸は頷いて足を道慈の腰に絡めた。共有される体温が幸せすぎて目頭が熱くなる。中を割り開くようにして押し入ってくるものに、全身が震えた。
道慈の熱が入ってくるのが嬉しい。体温が溶け合うのが気持ちいい。苦しいのに気持ちよくて幸せだ。
「あッ……ぅあ――ッ」
身体がガクガクと震え出し、中が勝手にうねる。全身を駆け巡る快感にひっきりなしに目から涙が溢れた。
快感が上がったまま降りてこない。はくはくと必死に息を継いでいると、あやすように頭を撫でられる。
「ん……上手に逝けたな」
耳元で掠れた声に褒められて、耳から脳が溶けるような感覚に陥る。多幸感に体の震えが止まらなくなる。
「どうじ、あ、また、ひっ――」
腰ががくんと揺れて、強く締め付けて中の熱をさらに鮮明に感じる。
重なった胸が汗でぐっしょりと濡れていた。道慈の若干荒くなった吐息と唾を飲み込む音が耳元で聞こえる。幸せすぎて死にそうだ。
馴染むのを待っているのか、道慈は動かないでいてくれている。しかしもうこの一つになった感覚だけで嬉しくて気持ちよくて若干キャパオーバーだった。
「はぁっ、すき、どうじ、すき」
中のものが更に大きくなった。重なった身体が一層熱くなる。
「っ、ゆっくり動くから、辛かったら言え」
ずるりと中の熱が抜けていく。凄まじい排泄感に全身が粟立つ。必死に太い首に抱きついて耐えると、今度は良いところを抉って中に押し入ってくる。
「あぁッ、」
熱い楔を押し込まれる度に身体が、心が歓喜する。
道慈とセックスしてる。道慈が俺相手に腰を振ってる。
何度も頭の中で想像したことがあるのに、現実はもっと生々しい。道慈の身体がこんなに熱いのは知らなかった。抱かれると汗でぐしょぐしょになるのも、腹に感じる衝撃も、芯から溶けそうなほど気持ちいいのも知らなかった。
「どうじ、あッ――……!」
奥を穿たれると全身に震えが走る。道慈が動きを止めて見下ろしてくる。奥に当たる感覚が気持ちいい。何よりも満たされる感覚が嬉しい。
「ぁ、はぁっ……どうじ、みて、ここに……どうじのある」
臍の下の蓮の絵を撫でると、道慈の視線が釣られるように落ちた。見られるのが嬉しくて、中を締めてしまう。すると反応するかのように中の熱がまた硬度を増した。
「んッ……」
「……痛くはねぇのか?」
道慈が少し苦しそうに眉を寄せながら確認してくる。顔の横に肘がつかれ、至近距離で見下ろされる。ちょっと腕で引き寄せればキスできる距離だ。
「……きもちよすぎて……怖い、から……ちゅーして」
障害の対処法として提示すれば、道慈は案外簡単に乗ってくることを最近学んだ。
ちゃんと勃っているし、なんなら多分道慈は痛みを確認するために動きたいのを我慢している。たまに中でぴくぴくと動くのが可愛い。今ならキスしても萎えなそうだ。
道慈が顔を傾けて唇を合わせてきた。心臓がうるさいくらいに音を立て始める。合わせた唇が離れないように腕で頭を固定して、分厚い下唇を舐め回したい衝動を必死に抑える。ここで強行したら、逃げられる。どうにかして道慈からちゃんとしてもらわないと。
誘うようにわずかに口を開いても、思った通り乾いた唇は触れるだけですぐに離れた。離れた体温が名残惜しくて、恨めしげに唇を見つめてしまう。
「もっと、」
「だめだ」
いっそキスして行為を続けるよりも、躊躇っている方が焦らされて興奮してくる。道慈はディープキスを断ったくせに見つめ合っている状況に気まずくなったのか、深いため息をついて肩口に額を埋めてきた。
素肌に湿った前髪が触れるのがくすぐったい。
「……なんでお前は……そんな普通なんだよ……」
道慈がくぐもった声で呟いた。
「……普通に見えんの?」
ここに耳当ててみて。自身の胸の中心を指すと、道慈が抵抗なくそこに耳を乗せた。頭の重みに反応するかのように、先ほどからうるさいほどに響いている鼓動がさらに増す。
「俺道慈に触られるといつもこうなってんの。これって普通?」
「……普通ではねぇな」
湿った髪を撫でても道慈はそのままおとなしくしていた。
「ふは、だろ? 続きしようぜ。俺上乗りたい」
横たわる道慈の裸体を馬乗りになって上から見下ろしながら、雪丸は唾液をごくりと飲み込んだ。
「道慈、すげぇエロい……」
ローションをたっぷりと塗り直した先端を後ろに当てがいながら、焦らすように腰を僅かに上下すると、僅かに入っては外に出る。その感覚だけで、大きすぎて背中に鳥肌が立つ。
道慈の凛々しい眉がしかめられ、腰を掴まれた。
「……こら、」
「挿れてほしい?」
「……ゆっくりでいいから、できるか?」
挿れてくれとおねだりして欲しかったのに、まるで素人扱いだ。確かにこれだけのものは初めて自分で挿れてみるので素人でも相違ないのかもしれない。
「俺を誰だと思ってんのよ」
腰を落とした瞬間、重力に従って先端が中に入ってくる。あまりの圧迫感に一瞬固まりかけたのを、息を吐いて力を抜く。ずぼ、と先端が後孔を貫いた音に全身が歓喜する。この苦しいほどの圧迫感が道慈である証拠だと思うと、苦しさすら愛おしい。
「ぐっ、んッ」
熱の塊が中を押し広げるようにして入ってくる。すぐに前立腺を抉られ、びくびくと身体が震えた。
「ぅあッ、やば、」
思わず丸まりそうになる背筋を必死に立てて、震える手で組み敷いた腹筋を掴みながら腰を落としていく。ずるずると熱が入ってくる感覚に歯が噛み合わなくなる。
「うっ、アッ、はぁっ」
奥に突き当たった感覚に、背筋が痺れるような快感が走る。
「あっ、はぁッ、んんッ――!」
内股で道慈の腰を強く挟んでしまい、我慢できず達してしまう。道慈の胸まで飛んだ白濁を見下ろし、呼吸を整える。
「はっ、ァッ、はぁッ」
達した余韻にひたりながら、浅黒い肌の上に散った液体を親指で引き伸ばす。自らの手で汚されていく道慈を見下ろすのは最高の気分だった。どんな形でも良いからずっとこうしてみたかった。清潔感のある服を脱がせて、この手で汚して、丸裸の欲望を味わわせてやりたい。
道慈は出会ってこの方雪丸の欲望に気づいたことがない。誰に対してもこうしているのだと思っている。欲望の中にこんなに汚くてねっとりとした執着が隠されていることを道慈は知らないのだ。
本当はこの腐った欲望が渦巻く胸の内を見せて、丸ごと抱きしめてほしい。おんなじ所まで堕ちてきてほしい。でもそんなことをしたら逃げられてしまうので、少しずつ当たり前の顔をして侵食していくしかない。
腹についた手に体重をかけて、意図して腰を上下に動かす。抜く時にじんわりと締めるのが好きらしい。締めるとこっちも結構キツい。唇の内側を噛んで快感に耐えながら、道慈の顔を観察する。汗の滲んだ顔は眉が寄っている。雄臭い顔がかわいい。
徐々にタイミングを合わせて突いてくれるようになり、奥を穿たれる度に腰のコントロールを失いそうになる。
「あっ、アッ、うぁッ、おく、やば……!」
腰から尻を簡単に覆ってしまう手に腰を掴まれ、ぐちぐちと水音を立てて突き込まれる感覚に背筋に快感が走る。
奥だと思っていたところが開きかけている感覚に、目の前がちかちかしてくる。
「あッ、くるッ、また、だめ……!」
今中イキしたら自分で動けなくなる。慌てて道慈の腕を掴んでも離してくれない。その事実に興奮してわけがわからなくなる。
「雪丸、ッ、俺も出そ……」
道慈が自分の中で達しそうになっているのが嬉しくて、中が勝手にうねる。薄いゴム越しに奥に熱が迸ったのを感じて、雪丸は多幸感に身を任せた。
「ぁッ――!」
どくどくと中でいまだに感じる放流に、内股が震える。
身体を支えているのが億劫になり、胸の上にずるずると倒れ込んだ。汗と白濁で湿った胸に頰をつけたまま、波のように続く気持ちよさに目を瞑る。胸も中の熱もあったかくて気持ちいい。ずっとこのままでいたい。
いまだに硬度を保ったままのものが愛おしい。
頭に手が置かれて、重みに安心すると眠気がやってくる。
「どうじ、もっかい……する……?」
「眠いだろ、寝て良い」
「ん、まだいける……」
どんな顔をして頭を撫でているのか見たかったが、瞼が落ちてくる。
気持ち良くて幸せで、今死んだら悔いは残らないと思った。欲望がまた大きくなる前に、この幸せの中で死んでしまいたい。そして次は道慈のペットに生まれ変わるのだ。もう猫でもカブトムシでもなんでもいい。そしたら目標達成だ。セックスはできなくても、何不自由なく一生可愛がってもらえる。親友相手に腐った欲望を抱かないで済む。3日くらいならエサを忘れられても俺なら許せる。
バカなことを考えながら雪丸は眠りについた。
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