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第31話

 ドロドロの体のままとりあえず湿ったパンツだけ履いてベランダに出ようとすると、道慈にスウェットを着せられた。 「もう流石に風邪ひくぞ。ズボンも履け」  投げられたスウェットのズボンをのろのろと履く。裾が長すぎる。手首にもたついた袖で裾の状態もよく見えないまま、無理やりズボンを引き上げる。すると裾を踏んでいたらしくベッドに前から倒れる。 「うおっ、」  腰の疲労のせいで、身体を支える足すら出なかった。 「何やってんだよ」  ゴロリとひっくり返ってベッドに腰掛けると、道慈が膝をついて裾を捲ってくれる。 「道慈、こっちも」  手を差し出すと、袖もまくられる。 「先にシャワー浴びればいいだろこんな手間かけてないで」 「タバコ吸いたい」 「そうかよ。風呂溜めたら入るだろ?」 「うん。一緒に入る?」 「……いや、いい」  道慈がぐちゃぐちゃに濡れたシーツを回収して部屋を出て行った。 「いいってなんだよ……」  雪丸は口を尖らせた。どうやら道慈は完全に賢者モードに入ってしまったらしい。片付けのことしかもう頭になさそうだ。  一緒に湯船に浸かりながらエッチの反省会とかしたいのに。どこが気持ち良かったとかこうされんのが好きとかここは嫌とか聞きたい。そのままできればもう一回くらいしけこみたい。  そんなことを考えながら雪丸は床に落ちたズボンのポケットからタバコとジッポを取り出した。  道慈のサンダルを下敷きにしてベランダに座り、タバコに火をつける。  灰皿がない。思った瞬間に横からアルミホイルが差し出された。 「お前そろそろ本当に携帯灰皿持ち歩けよ。この前炎上したんだろ」 「よく知ってんじゃん」  SNSにタバコのポイ捨て動画を投稿されてしばらく炎上していたが、謝罪動画を公開して一週間もすれば落ち着いた件だ。道慈が知っていることにびっくりする。  灰皿の形にして、と道慈に言うと、太い指がアルミホイルの切れ端をちまちまと成型しだす。 「謝罪動画見た? あのスーツカッコ良くね。新しいやつ」 「何も反省してねぇじゃねぇか」 「俺がいるだけでしみったれた道路に華が追加されんだから多少のゴミが出てもプラマイゼロだろ」 「どうしようもねぇな……」  呆れたような顔をしている道慈の顔を見上げる。 「俺がいない間俺の配信見てたんだ?」  道慈が無言で目を逸らした。カマをかけただけだったが、まさか本当とは思わず雪丸は口が緩むのを止められなかった。 「寂しかった? 俺がいなくなって。自分で追い出したくせに」 「……しょうがねぇだろ。気づいたら見てたんだよ」  道慈が気まずそうにお皿の形にしたアルミホイルを渡してきた。そのまま部屋に引っ込んでいった道慈の背中を呆然と見送る。  気づいたら見てた。道慈が。自分のメッセージに通知が来るニュースでくらいしかSNSの情報を見ない道慈が。  雪丸はタバコを咥えたまま俯いた。   夜風で指先は冷えているのに、じわじわと耳が熱くなる。 「あー……たまんねぇ……」  可愛い。愛おしい。キスしたい。  唇を合わせすぎて僅かに熱を持った唇に指の関節で触れる。  キスもセックスも幸せすぎて現実味がない。本当に身体のどこかに名前を刻んでほしいくらいだった。  タバコの灰をアルミホイルの皿に落とす。  中学の頃に道慈への欲望に気づいてから、この気持ちをどうしたらいいのかわからなくなってしまった時期があった。  相続放棄して父との苦い記憶の残る家を捨てたとき、道慈との繋がりがいとも簡単に消えてしまったことに気づいた。道慈の実家に行けば連絡先なんて簡単に手に入るのはわかっていたが、下心を抱いている分際で道慈の親に合わせる顔がなかった。結局気持ちに折り合いもつけられないまま時間だけが過ぎていった。  鳶職のストレスで手の皮が剥け続けていた時に、ちょうど池袋でキャッチにメンズコンカフェを紹介された。この頃は稼ぎ方もよく知らず、その日の給料が客とのアフター代に消えるという本末転倒な日々を過ごしていた。  貯金も底を尽きて、店のソファで寝泊まりして客のオーダーと差し入れで食い繋いでいた時期もあった。そのうちオーナーの女に拾われて半分ヒモのような状態になった。  髪を染めたらもっと売れるとオーナーに言われるがまま金髪にした。そんな風に生きながら、どうにかして道慈の柔道の試合だけでも見に行こうとしていたら、道慈の方から連絡が来た。初めは生きてんのかとメッセージをくれた。何度も返信しようとアプリを開いたのに、結局どの面を下げて会いたいと言えばいいのかわからなくて何も返信できなかった。そうこうしているうちに大会の日程が送られてきたのには驚いた。返信すらしていないのに道慈は試合があるたびに連絡してくれた。   肌寒い試合会場で見た道慈は、遠目でもわかるほどにでかくなっていた。  観客席の隣には道慈の活躍にやたら盛り上がっている女子高生がいた。  道慈にも彼女ができていた。  彼女くらいできるだろう。道慈は気が利くし面倒見がいい。前に竹田に冗談めかして言われたことがあった。道慈に彼女ができねぇのは雪丸の世話で手一杯だからだろ。  なるほど面倒なのがいなくなったら順当に彼女もできるわけだ。  雪丸は座席の背もたれに腕をかけたまま、ぼんやりと白い道着の巨体を目で追っていた。  この日の大会も道慈は優勝していた。絵に描いたような青春。スポーツも恋愛も学生生活も、全部うまくいっていた。一年前まで一緒にキャッチボールをしていたとは思えなかった。こんなにきらきらした世界の住人にどう声をかければいいのかわからなかった。  その後も何も返信しなくても道慈からは大会の日程が送られ続けてきて、雪丸は不思議だった。どうしてあんなに順風満帆な人生を歩んでいる人間がただの幼馴染の存在を忘れないのか。  そして大学卒業と同時にぱったり連絡がやんだ。もう試合に出ないからだろう。たまたまその時雪丸の職場のホストクラブに中学時代の同級生が客としてきて、同窓会の開催を教えてくれた。  雪丸はこの時ようやく道慈に会う覚悟ができた。なぜなら道慈はもう学生じゃない。親の手を離れた大人だ。手を出されても全部自己責任だ。  久々に近くで見た道慈は死ぬほどかっこよかった。酔ったふりして腕を首に絡めると簡単に受け止めてくれる。そのまま道慈の家にお持ち帰りしてもらい、既成事実まで作ってしまおうと狙っていたら、久々の会話が楽しすぎて気づいたら飲んで喋ってぐっすり寝ていた。  初手をミスった結果、今度は親友の枠から踏み出すのに二の足を踏み続けることになった。  そんな道慈に今日好きと言われて、キスして、セックスして、今に至っては湯船に2人で浸かっている。こんなバカップルみたいなことができる日が来るなんて奇跡だ。神様が間違えたとしか思えない。  道慈の胸板に背中をもたせかけて顔を見上げる。道慈が見下ろしてきた。かき上げられた短髪が色っぽい。  はじめは一緒に風呂に入るのを散々渋っていたが、腰が辛いから一人じゃ入れないと言ったら、道慈は簡単に一緒に入ってくれた。なんなら身体まで洗ってくれた。 「なぁ、男抱くのってぶっちゃけどう?」 「どうって……気持ちよかったよ」  優等生の解答をされた。そういう曖昧な感想じゃなくてもっと具体的な感想が欲しいのに。  しかし頭を撫でられて道慈の顔が柔らかくなると、悪い気はしない。 「俺も気持ち良かった。薬キメるよりも百倍良かった」 「……薬はもうやめろ」  道慈が眉を顰めた。 「もうやってねぇよ。一斉検挙される前の話だし」  言いながら雪丸は道慈の手を引っ張って自身の腹を抱かせた。 「挿れた時ちんこ痛くなかった?」 「痛くなかった。お前は?」 「痛くはねぇけど苦しいなやっぱ。まぁ次は即ハメできるようにしてやるよ」  道慈に男同士の醍醐味を教えてやろう。そう思って言ったのに、道慈は複雑な顔をしていた。 「いや、必要ねぇ」 「即ハメしたくねぇの?」  雪丸は確かに女相手なら前戯に時間をかけるが、男相手なら手っ取り早く性器をいじって挿れてしまうことの方が多い。挿れられる時もそうだ。相手がそう望んでいるからだった。自分以外の男はビャッとやってビャッと出したい生き物なのだと思っていた。  道慈も狭いと言っていたのでそこが引っかかっていたのかと当たりをつけていたが、そういうわけじゃないらしい。 「別にそんな急いで挿れる必要ねぇだろ。俺が拡げんのもやる」 「でも一回入ったから、もう自分でも慣らしとけるぜ」 「俺がやりてぇんだよ。やられんの嫌か?」  逆に聞かれて、雪丸は眉を下げた。これは優等生の返事をしているのか本当に好きなのかわからない。前戯が好きだったとしても道慈のやり方ではいずれ女が恋しくなりそうだ。ノンケが男の硬い身体をあんなに時間かけて触ったところで女の柔らかい身体と違って楽しいわけがない。穴だって拡張しても疲れるだけだ。散々やらせといてなんだが、もう一線を超えることができた今、道慈がそこに手間をかける必要はない。  さっさと飽きられてしまったら困る。 「やじゃねぇけど……俺は早く挿れて欲しい……」  別に道慈が構ってくれんならどんだけ焦らされようが乳首イキさせられようがなんでもいいが、飽きられるのは避けないといけない。 「ああ、悪い。疲れたか?」 「疲れたっつーか、気持ち良すぎて頭おかしくなりそうだった」 「それがやだったのか?」 「やじゃない。でも道慈が挿れてくんないのはやだ。今日何回も無視しただろ、俺の言うこと」 「……確かにな。悪い。ちょっと楽しくなってた」 「……楽しかったの……?」  雪丸は宇宙に放り出されたかのような衝撃を受けた。  道慈は男の体を撫で回して焦らすのに楽しさを見出せるらしい。ちょっとした特殊性癖だ。雪丸は道慈相手なら何時間でも撫で回せるし舐めてられるが、道慈の場合もともとノンケだ。  しかし雪丸にとっては好都合だった。 「……ちんこ触んないでいかせんのも趣味なの? 女にもやってんの?」 「……いや、まあ人によるが」  道慈の視線が考えるように上に上がった。その顎を掴んで下を向かせる。 「俺の前で女のこと考えてんじゃねぇよ」 「いやお前が話題にあげたんだろ……お前が嫌ならもうやんねぇから安心しろ」  道慈が頭を撫でてくる。突っ込みはしてくるものの顔はやさしげだ。いつもの仏頂面も好きだがこのやさしい目も好きだ。彼女に向ける目みたいで胸の奥がくすぐったくなる。 「やじゃない。けど、俺もコンディションとかあるから……毎回上手くいけるかわかんねぇ……」  乳首責めや耳責めだけのAVは出たことが無いので経験も浅い。そこを鍛えた方が良いのだろうか。 「や、別に逝かなくていい。焦ったそうにしてんの見るの好きなだけだから」 「……勃ちが悪くなってきた中年のジジイみてぇな性癖だな」 「うるせぇな」  実際道慈は大きすぎて挿れるまでにも時間がかかるだろう。前戯を好きになる他無かったのかもしれない。 「結局お前が嫌なのは焦らされすぎんのってことでいいか?」  聞かれて考える。道慈がそういう性癖なら強いて止める必要はない。いっぱい構ってもらえるし、イケなくてもがっかりされないなら別に良い。満足したら道慈も適当に切り上げるということだろう。  即ハメの良さだけ道慈に今度教えてやれば、しばらく持ちそうだ。 「やじゃない。道慈の好きにして良いよ。俺の身体全部」 「お前な……本当に好きにするぞ」  道慈の手が顎を撫でてくる。くすぐったくて笑みが漏れた。  結局2ラウンド目にはもつれ込めなかった。少し悪戯したら道慈はやれそうな感じにはなっていたが、これ以上やったら腰かケツいわすぞと止められた。こうなるから一緒に風呂入りたくなかったんだよ。今日は大人しくしてろ。困ったようにそう言われて興奮したが、尻をやってしまいそうなのも事実だったので、抜き合いっこだけして風呂から出た。  だけどなんだか道慈とくっついてたくさん喋れて嬉しかった。風呂から出たら道慈が髪の毛まで乾かしてくれた。すごいサービスだ。  ソファに座ってテレビをつけると、道慈が隣に座りながらお茶の入ったグラスをくれる。お茶を飲んでから、ごろりと道慈の膝に頭を乗せる。 「なぁ今度スポッチャ行こうぜ。この前撮影で行ったら結構楽しかった」 「懐かしいな。週末行くか」 「うん。誰か他捕まんねぇかな」  スマホの連絡先を辿り始める。去年スノーボードに行ったメンバーなら道慈も知っている。それか地元にもどって中学のメンツを集めても楽しいかもしれない。草野球でやらかして以来会っていない。みんな元気だろうか。 「道慈タケ達の連絡先持ってる? 俺一人も知らねぇわ」  ホストに遊びにきたことのある同級生の女子何人かしか登録していなかった。 「連絡しとく。雪丸、さっきの話の続きしよう」 「道慈が好きなプレイの話?」 「その話はもう良い。どうしたら俺一人でお前が足りるか、考えるって言っただろ」  雪丸は道慈を見上げたまま目を瞬いた。確かにさっきそんなことを言っていた。そもそも見当違いの話だ。  しかし道慈は真剣に考えてくれているらしいので、これを利用しない手はない。 「毎日一緒に寝る。今日も」  道慈の大きなベッドでイチャイチャしながら寝たい。 「そんなことで良いのか? 家にいるなら一緒に寝るだろ」  道慈が当然のことのように言ってきた。ベッドに寝る権利は手に入れられた。 「……毎日好きって言って」  好意を口にするのは重要だ。繰り返し口にすれば、仮に好きじゃなくても脳が勘違いして好きになる。道慈が今日言ってくれたことを信じていないわけではないが、人の感情は変わるものだ。刻みつけておいて損はない。  それに単純に言われたらものすごく気分がいい。 「ああ。他は? して欲しいことあるか?」  道慈が頭を撫でてくる。あっさり了承された。  腕を引っ張ると、背中を折ってくれる。顎と頭を両手で掴んで引き下げ、唇を合わせる。 「毎日ちゅーして」 「ああ。できる日はな」 「毎日じゃなきゃやだ」  道慈の眉が少し困ったように下がった。凛々しい眉を親指で撫でて元に戻してやる。 「毎日触って、エッチして」 「……お前が壊れるぞ」 「壊れてもいい」  道慈が顔を上げて頭をかいた。 「良くねぇよ。それに会えない日もあるから現実問題毎日は無理だ」 「じゃあハメ撮り撮らせて。会えない日はそれ見て我慢する」 「撮るかバカ」 「ならテレフォンセックスする?」 「無理だ。俺はお前のそういうのが電波に乗るの嫌なんだよ」  電波に乗るって何だと思いながら、雪丸は口を尖らせた。 「じゃあ代案出せよ」  道慈が考え込んでいる。 「……その分会った時にたくさんするんじゃだめか?」  ただの誤魔化しでしかないが、ずいぶん可愛い代案をくれた。 「……しょうがねぇな。まあ俺もなるべく会えない時に撮影入れるわ」  AVでやってれば一応性欲はどうにかなりそうだ。 「雪丸、AVはもう辞めろ」 「……? なんで?」 「俺だけにしぼんだろ?」  ああその話かと思った。確かに道慈はしぼることにこだわりがある。 「でも仕事だし……」  というよりやれない日があるのがきつい。配信だけでそれなりに稼いでるのでAVなんてほぼ趣味みたいなものだが、辞めたくはない。女も男も作るなと言われてしまったのでそこくらいしか道慈がいない日に性欲を処理できない。  ほぼセックス中毒みたいなやつを捕まえてそんな酷なこと言うかと思った。 「俺本当に毎日くらいやんないときついんだよ。寝れねぇ時あるし」 「一人でしてもか?」 「一人ですんの虚しい」  「ハメ撮り撮ってどうする気だったんだよ」 「シコるに決まってんじゃん」  思わず正直に答えてしまった。道慈が意味がわからないというような顔をしている。 「人肌感じた日の方が寝れるんだよ。そういう日ねぇ?」 「あったとしても誰でも良くはねぇよ……。要は今んとこお前の性欲と不眠の二つ問題があるってことだな」 「どっちも同じことだろ」 「性欲は一人で解消できるけど、人肌の方は一人じゃどうにもなんねぇだろ。わかった、大五郎と寝ろ。少なくとも同じ部屋には居てくれるぞ」 「猫かぁ……」  大五郎が名前に反応してキャットタワーから視線を向けてきた。 「大五郎とエッチしても良いの?」 「良いわけねぇだろ。本気でぶっ飛ばすぞ」 「他のやつとやるのだめ、ハメ撮りもテレフォンセックスもダメ、AVもだめ、大五郎とエッチもダメ……お前結構わがままじゃねぇ?」 「そこに大五郎を入れんなよ……。ほんとに触らせねぇぞこれから」 「大五郎が俺に触ってほしがるもん」  タイミングよく大五郎がキャットタワーから降りてきた。茶色の毛が頭上に乗ったのが見えた。道慈の膝の隙間に入り込んできたようだ。自分の名前が何回も出たのでおやつをもらえると思ったのだろう。  手を上げてふっくらとした塊を撫でると、顔を擦り付けてくる。 「ほら、両思い」 「黙れよ」 「まあいいよ。道慈が嫌ならAVも辞めてやるよ。最悪寝れなくなったら薬でも飲むわ」 「……合法の薬にしろよ。量も守れ」 「だからもうやってねぇっつうの」  昔極まった状態で道慈の家の玄関の前で倒れていたのを根に持っているらしい。 「……なんか俺ばっかダメなこと多い気がする」 「お前は俺にしてほしくないことあるか?」  雪丸はチャンスだと思った。ここで道慈に強く言っておかないといけない。 「追い出すの禁止、彼女作るの禁止、今日は予定あるってメッセージ禁止」  道慈は見下ろしてきたまま黙り込んだ。  そのうちに背もたれに頭をもたせかけて大きなため息をついた。 「……お前いったい今まで何の話をしてたんだよ……?」  呟くような疑問が道慈の口から漏れた。 「別に俺そんなに無理なこと言ってねぇだろ。……無理なの?」  俺だけ愛すって言ったのに。寝返りを打って道慈の腰に鼻先を埋める。 「無理云々の前に、雪丸、俺ら付き合うんだぞ。俺もお前も他に彼女を作ることはねぇんだよ」 「……俺ら付き合うのか」  「そっからかよ。逆に何だと思ってたんだよ」  道慈が頭上でまたため息をついたのが聞こえた。 「わかんねぇ。なんでもいいだろ名前なんて」 「お前がそうやって関係をぼやかしてるから無限に女ができる事態になんだろうが」 「道慈の一番が毎日俺で、俺だけ愛すならなんでもいい」 「そうなれば俺だけで足りるか?」 「……うん」  道慈の手が髪を撫でてきた。時折耳に触れるのがくすぐったい。 「なら問題ねぇな」  難しいことなのに道慈はなんでもないように言った。そんな簡単に言うなと思う反面、道慈が簡単に結論づけられる事実に、じわじわと胸が温かくなる。 「追い出すのはまあ……なかなかないだろ。大五郎に手ぇ出したら追い出す」 「じゃあ我慢する」  じゃあじゃねぇんだよ、と道慈が吐き捨てた。 「あとはメッセージか。予定ある日はあるだろさすがに」  道慈は順を追って禁止事項を確認していた。律儀なやつである。 「でもやだ」  今回一ヶ月近く誘いを振られ続けたのもあるが、彼女ができそうな時やできた時も道慈はこうやって断るのだ。親友なのに。 「じゃあ予定ある日は何の予定か言う。これで良いか?」  雪丸は考えた。確かに何の予定か言われれば想像上の女を羨まないでも良いかもしれない。名案だ。 「……うん」 「じゃあもう寝るか」 「一緒に?」 「ああ」  雪丸は起き上がった。 「なぁ、今度ファンタジスタ行こ。ママに報告しないと。道慈とセックスしたって」 「もっと言い方あんだろ」  寝室に入ると、道慈が電気を消した。道慈の脇の下に頭を乗せて足を絡める。  道慈の匂いがする。圧倒的な安心感と同時に眠気がやってきた。  

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