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第4話 5年間の猶予

「……僕のことが、嫌いだから断るんですか?」 若者の問いに、男は弾かれたように顔を上げた。 「違う! 嫌いなわけないだろう。 お前は……俺にとって、誰よりも信頼できるパイロットだ。 ……人としても…、その…、好ましく思って…る」 それを聞いた瞬間、若者の顔に、絶望ではなく柔らかな微笑みが浮かんだ。 「それなら、十分です。 僕が嫌われていないのなら、何も諦める理由はありません」 「二尉……?」 「待ちます。美月さんが大人になるまで、 あるいは、あなたが僕を受け入れてもいいと思えるまで。 5年でも、10年でも。 ここまで来るのに15年、今更諦めませんよ。」 若者は一歩、また一歩と男に近づき、 その冷えた手を自分の両手で包み込んだ。 そこにはただひたむきな「祈り」だけが宿っていた。 「あなたが独り立ちする娘さんを笑顔で送り出せる、 その日まで。僕はあなたの最高のパートナーとして、 隣に居続けます。 ……だから、僕を遠ざけないでください」 「……お前は、本当に馬鹿だな。 選び放題だって言うのに…。 俺みたいなおじさん…。」 男は困ったように笑い、溢れそうになる何かを堪えるように空を見上げた。 
 「そうですね。本気になっちゃったから仕方ないですよね。」 白銀の世界の中、二人はクスッと笑い合っていた。
 それが、 長い「待機」の時間の始まりだった。 若者は宣言通り、 その後5年間、 決して一線を越えることなく、 誰よりも誠実に、 誰よりも深く、 男を支え続けることになる。

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