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第6話 巣立ちの朝

春の気配がようやく北の空に届き始めた頃、 家の中は段ボールで溢れていた。 「……忘れ物はないか? 困ったことがあったら、 すぐに電話するんだぞ」 男は、すっかり大人びた美月の荷物を車に積み込みながら、 何度も同じことを繰り返した。 寂しさを隠しきれない父親の姿を、 美月は少し困ったような、 けれど優しい微笑みで見つめている。 「大丈夫だよ、父さん。 ……それに、私がいなくなっても、 父さんにはレオンさんがいるでしょ?」 「……えっ」 不意を突かれた男が固まると、 美月は傍らで静かに微笑んでいた若者——レオンに視線を向けた。 「レオンさん。ずっと待っててくれてありがとう。 ……父さんのこと、これからもずっと支えてあげてね。 あ、たまにはわがまま言ってもいいけど、泣かせすぎちゃダメだよ?」 「……。ええ、約束します、美月さん」 レオンは深く、 誠実に頷いた。 娘はすべてを分かっていたのだ。 この5年間、 レオンがどれほどの想いで自分たち親子を支え、 そして父を待ち続けてきたかを。 車が遠ざかり、 静かになった家の中に、二人の呼吸だけが残る。

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