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第7話 仮面を脱ぐ瞬間
「……さて。班長。」
レオンが、静かに口を開いた。
その呼び方はいつも通りだが、
声のトーンには5年前のあの夜と同じ、
逃げ場のない熱が宿っている。
「美月さんは、無事に自立しました。
……あの日、僕が言ったことを覚えていますか?」
男は、無言で若者を見つめ返した。
5年前は「余裕がない」と逃げた。
けれど今は、心の中にぽっかりと空いた穴を、
目の前の男の体温だけが埋めてくれている。
「……忘れるわけないだろう。
お前が、本当に5年も俺の横で、何もせずに待ってるなんて
……正直、思ってなかった」
「何もしていないわけではありませんよ。
……毎日、あなたの隣で機体を見ている間も
、この家であなたの手料理を食べている時も。
僕は、あなたのすべてを奪い去りたいという欲望を、
必死に理性で抑え込んでいたんです」
レオンは一歩、
また一歩と距離を詰める。
その碧い瞳は、
もはや「部下」や「隣人」のものではない。
5年間の渇望を解き放とうとする、一人の雄の眼差しだ。
「班長。
……直人さん。
……5分でも、1年でもありません。
僕は、1800日以上の夜を、
あなたを想って耐えてきました。
……もう、いいですか?」
レオンの長い指先が、男の頬をなぞり、
そのまま後頭部へと回り込む。
直人は逃げなかった。
いや、逃げる理由がもう、どこにもなかった。
「……勝手にしろ。……お前の気が済むまで、付き合ってやる」
男の諦めたような、
けれど深い信頼を込めた言葉を合図に、
若者は貪るように唇を重ねた。
5年という長い月日が、
一瞬で溶けていくような熱い口づけ。
ここから先は、
階級も、立場も、親子の絆も関係ない。
ただ、狂おしいほどに愛し合う二人の男の、
本当の物語が始まろうとしていた。
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