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第8話 蜜獄の調教、職人の陥落
1. 策略の刻印:鏡の中の「所有証明」
美月が旅立って二日目の朝。
官舎の洗面所に、直人の怒声が響き渡った。
「……おい、レオン!! ちょっとこっち来い、今すぐだ!!」
寝癖もそのままに、
鏡の前で凍り付いている直人の首筋から鎖骨、
さらには胸元にかけて――。
そこには、まるで縄張りを主張する猛獣に噛みつかれたかのような、
鮮やかな赤紫の「独占の印」が無数に散らばっていた。
ドタドタと廊下を駆けてきたレオンは、
実に晴れやかな、一点の曇りもない笑顔で現れた。
「……おはようございます、直人さん。朝から元気ですね」
「元気なわけあるか! これを見ろ、これ! お前、昨日何て言った!? 『無理やり挿入はしない』とか『優しくする』とか、殊勝なこと抜かしてただろ!」
直人はTシャツの襟ぐりを大きく広げ、
自身の肌に刻まれた「愛の代償」をレオンの眼前に突きつける。
整備士として長年鍛え上げた、無駄のない、
しかしどこか色気を帯びた直人の白い肌。
そこに浮かぶ濃淡さまざまなキスマークは、
昨夜のレオンがいかに理性を失い、
貪欲に直人を味わい尽くしたかを無言で物語っていた。
「……ああ、綺麗ですね。僕の色に染まっていて」
吸い寄せられるように、レオンは背後から直人を強く抱きしめた。
「……っ、お、おい、離せ!」
「離しませんよ。……僕のつけた跡が、こんなに鮮やかにあなたの肌に馴染んでいる。……たまらない」
レオンの逞しい腕が、
直人の腰をがっしりとホールドし、
熱い胸板が直人の背中に密着する。
レオンはその大きな手で、
自身が刻んだ赤紫の跡を愛おしそうに、
そして執拗になぞった。
「……っ、ふ、ぁ……やめろ……」
直人の制止を無視し、
レオンは首筋の最も濃い印に顔を寄せた。
そして、
上書きするようにその場所を熱い舌でゆっくりと舐め上げ、
再び強く吸い上げる。
「……んっ……あ、れおん……っ」
「いいじゃないですか。誰に見られても。……『この人は僕のものだ』と、基地中の男たちに思い知らせてやりたいくらいです」
「……っ、この……変態野郎が……!!」
直人は結局、
その日一日、ツナギの襟をきっちりと締め、
同僚たちからの
「班長、今日風呂行きます?」という誘いを
「……あー、家でやることがあってな」と苦渋の表情で断り続ける羽目になった。
レオンの策略通り、直人の生活圏は着実に「官舎の中だけ」へと絞り込まれていく。
2. 職人の譲れない一線:洗浄の攻防
夕方、逃げるように帰宅した直人を待っていたのは、
エプロン姿で夕食を運ぶレオンだった。
だが、その表情はかつてないほど悲痛で、
国防の危機に直面しているかのように深刻だ。
「直人さん。僕は一日中、任務の合間に考えていました。あなたの肌を他人の目に晒されるのは耐えがたい。ですが一方で、僕のものだと誇示したい欲望も捨てきれない。……僕は、どちらを選べば正しいのでしょうか」
「知るかバカ! 相談する内容が不毛すぎるだろ!」
直人は呆れ果てて、
浴室へと逃げ込もうとした。
そこをレオンが静かに、
だが威圧感を持って呼び止める。
「直人さん、洗浄は僕が――」
「それだけはダメだっつってんだろ! 自分でやる!」
直人は必死の形相で浴室のドアをロックした。
どんなに愛し合っていても、
そこだけは直人の「大人としての自尊心」が悲鳴を上げる。
内側から必死に自分を清め、整える直人。
だが、ドアの向こうからは、
すべてを見透かしたようなレオンの低く、熱を帯びた声が響く。
「……必死に自分を清めている姿を想像するだけで、堪らなくなります。いいですよ、今は。ですが、後でたっぷり、僕の色に上書きさせてください」
「……っ、黙れ、エロ犬!!」
3. ポリネシアンセックス:熱帯の夜
「今夜からは、拡張にもチャレンジしましょうね。美月さんの入校式前には、あなたの『すべて』を僕がもらいます。それが、僕たち親子の新しい門出の儀式ですから」
浴室の曇りガラスの向こう側、
レオンの影がじっと動かずに立っている。
直人の心臓が、跳ね上がった。
これまで「挿入」をあえて避けてきたレオンの、明確な最終通告だった。
風呂から上がった直人を待っていたのは、
飢えた猛獣のようなレオンの腕だった。
今夜のレオンは、激しく突き上げるのではなく、
粘膜の一切を指先と舌で、這いずるように、
執拗になぞり上げる。
ポリネシアンセックス
――それは、挿入というゴールをあえて遠ざけ、
互いの肌を極限まで擦り合わせ、
快楽の波を幾重にも重ねていく「拷問に近い慈しみ」。
「……ぁ、レオン、……っ、もう、……だし、た、い……っ」
「ダメです。まだ、あなたの全部が僕の熱で溶けきっていません。一箇所たりとも、僕を知らない場所を残さないように」
直人の敏感な場所を、吐息で、あるいは湿った舌先で、狂うほどに焦らしていく。直人の体温は上昇し続け、頭の中はレオンという存在以外、何も考えられなくなっていく。絶頂の波が何度も押し寄せ、意識が遠のく中、直人はレオンの碧い瞳に映る自分を見た。
そこには、かつての厳格な「班長」の影はなく、ただ一人の男に愛され、崩れ落ちる「一人の人間」の姿があった。
翌朝、
制服に着替えたレオンは、不機嫌を装う直人のつむじに、
羽毛が触れるような甘いキスを落とした。
「今晩も、楽しみですね。直人さん」
「…………勝手にしろ」
吐き捨てるように言いつつも、直人はレオンの胸に自分から額を預けた。
入校式まで、あと数日。
直人の身体は、ゆっくりと、けれど着実に「レオンだけのもの」へと作り変えられていった。
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