9 / 14

第8話 蜜獄の調教、職人の陥落

1. 策略の刻印:鏡の中の「所有証明」 美月が旅立って二日目の朝。 官舎の洗面所に、直人の怒声が響き渡った。 「……おい、レオン!! ちょっとこっち来い、今すぐだ!!」 寝癖もそのままに、 鏡の前で凍り付いている直人の首筋から鎖骨、 さらには胸元にかけて――。 そこには、まるで縄張りを主張する猛獣に噛みつかれたかのような、 鮮やかな赤紫の「独占の印」が無数に散らばっていた。 ドタドタと廊下を駆けてきたレオンは、 実に晴れやかな、一点の曇りもない笑顔で現れた。 「……おはようございます、直人さん。朝から元気ですね」 「元気なわけあるか! これを見ろ、これ! お前、昨日何て言った!? 『無理やり挿入はしない』とか『優しくする』とか、殊勝なこと抜かしてただろ!」 直人はTシャツの襟ぐりを大きく広げ、 自身の肌に刻まれた「愛の代償」をレオンの眼前に突きつける。 整備士として長年鍛え上げた、無駄のない、 しかしどこか色気を帯びた直人の白い肌。 そこに浮かぶ濃淡さまざまなキスマークは、 昨夜のレオンがいかに理性を失い、 貪欲に直人を味わい尽くしたかを無言で物語っていた。 「……ああ、綺麗ですね。僕の色に染まっていて」 吸い寄せられるように、レオンは背後から直人を強く抱きしめた。 「……っ、お、おい、離せ!」 「離しませんよ。……僕のつけた跡が、こんなに鮮やかにあなたの肌に馴染んでいる。……たまらない」 レオンの逞しい腕が、 直人の腰をがっしりとホールドし、 熱い胸板が直人の背中に密着する。 レオンはその大きな手で、 自身が刻んだ赤紫の跡を愛おしそうに、 そして執拗になぞった。 「……っ、ふ、ぁ……やめろ……」 直人の制止を無視し、 レオンは首筋の最も濃い印に顔を寄せた。 そして、 上書きするようにその場所を熱い舌でゆっくりと舐め上げ、 再び強く吸い上げる。 「……んっ……あ、れおん……っ」 「いいじゃないですか。誰に見られても。……『この人は僕のものだ』と、基地中の男たちに思い知らせてやりたいくらいです」 「……っ、この……変態野郎が……!!」 直人は結局、 その日一日、ツナギの襟をきっちりと締め、 同僚たちからの 「班長、今日風呂行きます?」という誘いを 「……あー、家でやることがあってな」と苦渋の表情で断り続ける羽目になった。 レオンの策略通り、直人の生活圏は着実に「官舎の中だけ」へと絞り込まれていく。 2. 職人の譲れない一線:洗浄の攻防 夕方、逃げるように帰宅した直人を待っていたのは、 エプロン姿で夕食を運ぶレオンだった。 だが、その表情はかつてないほど悲痛で、 国防の危機に直面しているかのように深刻だ。 「直人さん。僕は一日中、任務の合間に考えていました。あなたの肌を他人の目に晒されるのは耐えがたい。ですが一方で、僕のものだと誇示したい欲望も捨てきれない。……僕は、どちらを選べば正しいのでしょうか」 「知るかバカ! 相談する内容が不毛すぎるだろ!」 直人は呆れ果てて、 浴室へと逃げ込もうとした。 そこをレオンが静かに、 だが威圧感を持って呼び止める。 「直人さん、洗浄は僕が――」 「それだけはダメだっつってんだろ! 自分でやる!」 直人は必死の形相で浴室のドアをロックした。 どんなに愛し合っていても、 そこだけは直人の「大人としての自尊心」が悲鳴を上げる。 内側から必死に自分を清め、整える直人。 だが、ドアの向こうからは、 すべてを見透かしたようなレオンの低く、熱を帯びた声が響く。 「……必死に自分を清めている姿を想像するだけで、堪らなくなります。いいですよ、今は。ですが、後でたっぷり、僕の色に上書きさせてください」 「……っ、黙れ、エロ犬!!」 3. ポリネシアンセックス:熱帯の夜 「今夜からは、拡張にもチャレンジしましょうね。美月さんの入校式前には、あなたの『すべて』を僕がもらいます。それが、僕たち親子の新しい門出の儀式ですから」 浴室の曇りガラスの向こう側、 レオンの影がじっと動かずに立っている。 直人の心臓が、跳ね上がった。 これまで「挿入」をあえて避けてきたレオンの、明確な最終通告だった。 風呂から上がった直人を待っていたのは、 飢えた猛獣のようなレオンの腕だった。 今夜のレオンは、激しく突き上げるのではなく、 粘膜の一切を指先と舌で、這いずるように、 執拗になぞり上げる。 ポリネシアンセックス ――それは、挿入というゴールをあえて遠ざけ、 互いの肌を極限まで擦り合わせ、 快楽の波を幾重にも重ねていく「拷問に近い慈しみ」。 「……ぁ、レオン、……っ、もう、……だし、た、い……っ」 「ダメです。まだ、あなたの全部が僕の熱で溶けきっていません。一箇所たりとも、僕を知らない場所を残さないように」 直人の敏感な場所を、吐息で、あるいは湿った舌先で、狂うほどに焦らしていく。直人の体温は上昇し続け、頭の中はレオンという存在以外、何も考えられなくなっていく。絶頂の波が何度も押し寄せ、意識が遠のく中、直人はレオンの碧い瞳に映る自分を見た。 そこには、かつての厳格な「班長」の影はなく、ただ一人の男に愛され、崩れ落ちる「一人の人間」の姿があった。 翌朝、 制服に着替えたレオンは、不機嫌を装う直人のつむじに、 羽毛が触れるような甘いキスを落とした。 「今晩も、楽しみですね。直人さん」 「…………勝手にしろ」 吐き捨てるように言いつつも、直人はレオンの胸に自分から額を預けた。 入校式まで、あと数日。 直人の身体は、ゆっくりと、けれど着実に「レオンだけのもの」へと作り変えられていった。

ともだちにシェアしよう!