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第15話 春陽の微睡、「二人の聖域」

1. 宵闇の熱帯:ダイニングから「主室」へ 離れの専用ダイニングで、 最高級の和懐石を心ゆくまで堪能した二人。 仲居が最後のお茶を下げ、完全に二人きりになった静寂の中、 直人とレオンは食事の余韻に浸りながら、 寝室である主室へと続く短い廊下を歩いていた。 レオンは一歩前を歩く直人の浴衣姿をじっと見つめていた。 提灯の明かりに照らされた、少し乱れた裾から覗く逞しい足首。 そして、白いうなじに微かに残る、昨夜自分が刻み込んだばかりの赤い痕跡。 (……この人は、自分がどれほど無防備か分かっていない) 込み上げる愛おしさと、静寂に煽られた独占欲に突き動かされ、 レオンは思わず声をかけた。 「……直人さん」 「ん、なんだよ」 振り返った直人の腕をぐいと引き寄せ、 レオンはその額にそっと、慈しむように唇を寄せた。 「……っ、おい、レオン。……急に何だよ」 「……早く、あっち(寝室)に行きたくて、もう我慢できないんです」 直人は顔を真っ赤にして視線を逸らしたが、 その繋いだ手には、拒絶ではない力がこもっていた。 主室の重厚な襖を開けると、 そこには既にふかふかの布団が隙間なく並べられている。 直人はレオンの逞しい肩を強引に押し込み、 まだ新しい草の香りが残る畳の上へと沈めた。 驚きに目を見開くレオンを見下ろし、 直人は少しいたずらっぽく、けれど熱を帯びた瞳で、挑戦的な笑みを浮かべる。 「……レオン。お前、いつも俺を自信たっぷりに可愛がってるけどよ。……今夜は、俺がお前を可愛がってやるからな」 直人の指先が、レオンの浴衣の合わせに指をかけ、 ゆっくりと左右に割り開いた。 喉仏の鋭い突起を親指でなぞり、 そのまま鎖骨のラインを辿って、厚い胸板へ。 指先から伝わるレオンの体温は、驚くほど熱く、 直人の指を焦がすようだった。 (……いつも、お前にばっか良いツラさせてたまるかよ) 直人の胸に灯った火は、年上としての意地でもあり、 一人の男としての、レオンに対する深い愛情でもあった。 自分より一回り以上若く、 すべてを兼ね備えた「王子様」。 そんな男が、今は自分と同じ屋根の下で、 自分だけを見つめ、翻弄されている。 その事実に、直人の身体もまた、甘い疼きを覚えていた。 2. 精密な翻弄:剥がれ落ちる「王子」の仮面 「……っ、あ……。直人、さん……。その、目……っ」 レオンの喉から、苦しげで、けれど甘い呻きが漏れる。 直人はその声を合図に、さらに下へと指を滑らせた。 腹筋の起伏をひとつずつ指先で確かめるように、 そして下腹部の、最も熱を孕んだ場所へと、じりじりと時間をかけて。 直人の攻めは、執拗だった。 レオンが絶頂を求めて腰を浮かすたびに、 直人はピタリと動きを止め、わざとらしく視線を逸らした。 「……あ……。……なんで、止めるんですか……!」 「……まだだ。お前、気が早すぎるだろ。……もっと、俺を見てろよ」 直人はレオンの耳たぶを甘噛みし、 そのまま喉筋をねちっこく吸い上げる。 レオンが「っ、あぁ……!」と声を上げるたびに、 直人はその熱い吐息を自分の肌で受け止めた。 普段は冷静沈着なエリート軍人が、 自分の指先ひとつでこれほどまでに乱れている。 その事実が、直人の征服欲をさらに加速させた。 「……直人、さん……。お願い、です……。もう、……っ!」 潤んだ瞳で自分を仰ぎ見るレオン。 直人はその姿に、ゾクりとするほどの愛おしさを覚えた。 いつもはかっこよく、自分をエスコートしてくれる騎士。 だが、今目の前にいるのは、 ただ一人の男に翻弄され、愛を乞う一人の青年だった。 (……このツラを見れるのは、世界中で俺だけなんだよな) その確信が、直人の胸を熱く焦がす。 直人は再び、レオンの熱が一番集まっている場所へと顔を埋めた。 3. 口腔の檻:視覚と体感のシンクロ 直人の熱い口腔が、 レオンの昂りを根元から、一気に包み込んだ。 「……ん、……っ、ぅ……! ……なお、と、さん……! ……っ、は……!」 直人は一度口を離すと、唾液で濡れた唇で不敵に笑った。 「……どうだ。……気持ちいいか?」 「……っ、最高、です……。でも、……直人さんが、……そんな風に僕を、見て……っ」 レオンにとって、今の光景はあまりにも刺激が強すぎた。 自分をリードしようと躍起になっている直人が、 汗を滲ませ、上目遣いに自分を睨み据えながら、必死に奉仕してくれている。 直人にとっては 「同じ男なんだから、どこがどうなりゃ気持ちいいかくらい分かる」 という現実的な判断に基づいた行動だったが、 レオンにとっては、それが何よりもエロティックな「視覚的衝撃」として 脳に焼き付いていく。 直人はわざとレオンの反応を確かめるように、 さらに深く、その熱を喉の奥へと迎え入れた。 喉を鳴らし、レオンの熱を深く、深く飲み込もうとする。 そのたびに、レオンの体は弓なりに跳ね、布団を掴む指先に力がこもる。 「……あ、が……っ! ……直人、さん……! ……あぁぁっ……!!」 レオンの喉から、悲鳴に近い艶やかな声が漏れる。 直人はその振動を自分の口腔で受け止めながら、 興奮の頂点へとレオンを導いていった。 4. 嫉妬とパニック:班長の誤算 情けなくも甘い声を上げて果てたレオン。 直人は「これで一回満足させて寝かせてやろう」という 淡い期待を込めて唇を拭った。 (……よし。これだけ執拗に焦らして、最後にあんな声出させたんだ。これでもう満足して、今夜はこのまま寝かせてくれるだろ) だが、直人の計算は、 レオンという男の「執着」の深さを見誤っていた。 直人の唇を、強引な口づけが塞ぐ。 レオンは直人の後頭部を大きな手で固定し、 逃げ場を奪うように深く、深く舌を侵入させる。 直人の口内には、 まだレオンが吐き出したばかりの熱い残滓が微かに残っていたが、 レオンはそれを気にするどころか、 むしろ自分のすべてを直人が受け入れている事実に酔いしれるように、 執拗に絡め取った。 「……っ、ちょ、直人さん……! 今の、何ですか!? どこで、どこでそんなこと覚えたんですか!? 誰かに教わったんですか!?」 「教わるわけねえだろ! ……同じ男なんだから、どこがどうなりゃ気持ちいいかなんて、……分かるだろ……!」 「……っ、直人さん……」 「お前の、その……気持ちよさそうなツラ見てたら、……俺だって、止まらなくなるんだよ、バカ……!」 直人の照れ隠しの告白を聞いた瞬間、レオンの動きがピタリと止まった。 先ほどまで自分のモノを熱心に、愛でていた直人の姿。 その「視覚的な暴力」とも言える色気が、 レオンの独占欲を限界まで跳ね上げた。 「……許しません。僕以外の誰かに、あんな……あんなに心を溶かすような真似を……想像しただけで気が狂いそうです! 不届き者は誰ですか!」 「だから俺だって言ってんだろ! 落ち着けレオン!」 「……落ち着けません。…………あんなに可愛くて、エロい直人さんを見せつけられて、一回で満足できるわけがないでしょう?」 直人の「寝かせてくれ」という願いは虚しく散り、 レオンの熱烈な報復に飲み込まれていった。 5. 清浄の儀式:温泉マナーと「最終整備」 明け方、ようやく激しい時間が終わった。 直人はレオンに肩を借りてテラスの露天風呂へ向かう。 身体の節々が、まるで重労働の後のように悲鳴を上げている。 「……おい、レオン。まさか風呂の中で……っ」 「まさか。温泉は汚しません。まずは洗い場で綺麗にしましょう」 直人は真っ赤な顔で洗い場の椅子に座り、 レオンに背を向けた。 温かいシャワーの音。 レオンの大きな掌が、泡立てた石鹸で直人の肌を優しく、 けれど執拗になぞっていく。 昨夜の激しさを物語る「印」を、愛おしむように一つずつなぞりながら、 指先が内側の残滓を丁寧に、一滴残らず洗い流していく。 「……んっ、……れ、レオン…………もう、いいだろ……」 「いいえ。僕の痕跡がまだ残っています。……ほら、力を抜いて……」 粘膜に触れる、レオンの熱い指先。 直人は鏡越しに、自分の身体を甲斐甲斐しく、 けれどどこか欲深そうに見つめるレオンの姿を見て、再び顔を熱くさせた。 ようやく「清掃」が終わり、 二人で檜の露天風呂へと身体を沈めた。 朝の澄んだ空気と、混じり気のない源泉の熱が、疲れた身体に染み渡っていく。 6. 二度寝の誘惑:重なる鼓動と将来への微睡 風呂上がり、 ダイニングにお部屋食として運ばれてきた遅い朝食を二人で平らげた。 炊き立てのご飯、出汁の香る味噌汁、小鉢に盛られた地元の旬菜。 「……あー、食ったら……猛烈に眠くなってきた……」 「いいですよ。今日は一歩も外に出ない贅沢をしましょう。……明日の朝まで、まだ時間はたっぷりあります」 二人はまだ昨夜の香りが微かに残るシーツの上へと滑り込んだ。 レオンは直人を背後から抱きしめ、 自分の胸の中にすっぽりと収める。 直人の耳元には、レオンの規則正しい鼓動が響いていた。 「……お前、くっつきすぎだろ……」 「離しませんよ。……愛しています、直人さん。……一生、こうしていたい」 直人は文句を言いながらも、 レオンの腕の中に自分の身体を預け、その心地よい重みに身を委ねた。 ミツキが巣立ち、二人きりになった未来。 不安も少しはあるが、この温もりがある限り、 きっと大丈夫だという確信が、眠りの淵で直人の胸を満たした。 温泉の余韻と愛する男の体温に包まれ、 二人は重なり合ったまま、深い、深い眠りへと落ちていった。

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