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第18話 残響のフライト、「完璧な甘えん坊」

1. 聖域への帰還:黒いSUVの密室 地方空港の喧騒を離れ、レオンの黒いSUVへと辿り着いた。 重いドアが閉まり、外界の音を一切遮断する車内。 それは、世界から切り離された二人だけの空間の完成だった。 だが、エンジンをかけるより先に、 レオンの「エリートの仮面」が音を立てて崩れ去った。 「……っ、レオン!?」 シートベルトを締める間もなく、 レオンが助手席の直人に覆いかぶさるように抱きついた。 それは捕食者の動きというより、 待ちわびた飼い主に全力で飛びつく大型犬のそれだった。 「……もう、限界です。空港であなたが僕から一歩離れるたびに、心が千切れそうでした」 レオンの声は甘く、切実な響きを帯びている。 「あんなに不安そうに僕を探して……。あんなに無自覚に僕を頼っておいて、ここで『おやすみなさい』だけで済むなんて、そんなこと言わないでください」 レオンは直人の首筋に顔を埋め、すりすりと頬を寄せた。 レオンの声は甘く、切実な響きを帯びている。 彼は直人の首筋に深く顔を埋め、深く、深く、その匂いを吸い込んだ。 「……少し、こうさせてください。あなたの匂いを嗅いでいないと、脳がどうにかなりそうなんです。……ねえ、直人さん。あなたの熱を、僕に分けてください。僕が、僕自身を安心させるために……」 レオンは喉を鳴らすようにして直人の項に鼻を寄せ、甘えるように何度も擦り付けた。 「……あなたを補充させてください。……直人さんでいっぱいにしてください。」 レオンは直人の喉元に深く顔を埋め、 丁寧に、そして熱烈にその肌を吸い上げた。 直人はその微かな痛みと、レオンから溢れ出す圧倒的な「 懐き」の熱に当てられ、呆れながらもその柔らかい髪を、 どこか愛おしそうに撫でた。 2. 計画された「お持ち帰り」と新居の正体 「……満足したか。さあ、宿舎に送れ」 直人が赤くなった顔を隠すようにぶっきらぼうに命じる。 レオンはパッと顔を輝かせ、嬉々としてエンジンをかけた。 「もちろんです! ……あ、でも、向かうのは宿舎じゃありませんよ。新居にあなたの荷物はすべて運び込ませておきましたから」 たどり着いたのは、 基地からほど近い、セキュリティの厳重な高級マンションだった。 エントランスを抜け、最上階の重厚なドアが開く。 広々としたリビングには、 直人が独身寮へ持っていくはずだった荷物が整然と並び、 それどころか二人で使うための上質な家具がしつらえられていた。 「……おい、レオン。ここ、賃貸か? それとも分譲か?」 呆然と室内を見渡す直人に、レオンは事も無げに微笑んだ。 「購入しました。……あなたと一生一緒に過ごすための場所ですから。安いものです。」 「……購入……だと?」 金額は想像もつかない。 実はレオンにとって、このマンションを即金で払うことは造作もないことだった。 ローンを組んだのは、単に控除などの税金対策という事務的な理由に過ぎない。 彼にとって、直人と住むための家を「負債」と考えたことなど一度もなかった。 直人は少し考え、レオンの目を見つめた。 「……いくらかは聞かないが、毎月、家賃としていくらか渡させてくれ。……それが俺の家としての、筋だ」 レオンは一瞬、きょとんと目を丸くした。 彼からすれば、直人がここに居てくれるだけでお釣りがくる。 金銭を受け取るつもりなど毛頭なかった。 だが、「自分の家」と言い切った直人の言葉が、レオンの胸に熱く響いた。 「……ふふ、嬉しいです。あなたがここを『自分たちの家』だと思ってくれようとしていることが。……ええ、喜んで頂戴します」 レオンは満面の笑みで頷いた。 受け取ったその「家賃」は、すべて直人のための美味しい食材や、 彼が心地よく過ごせるための何かに使おう——。 レオンの頭の中は、すでに直人への「還元計画」でいっぱいになっていた。 3. 新しいベッド:甘える大型犬の独壇場 リビングで一息ついたのも束の間、 レオンは「一番見てほしい場所があるんです」と、 直人をマスターベッドルームへと誘った。 扉を開けると、そこには二人が並んでも余裕があるほどの、 特注のキングサイズベッドが鎮座していた。 「……おい。これ、いくらなんでもデカすぎないか?」 「いいえ、最適解です。僕があなたの隣でどれだけ寝返りを打っても、あなたが落ちないように計算されていますから」 レオンはそのまま、吸い寄せられるように直人をベッドへと押し倒した。 真新しいリネンの清潔な香りと、レオンの体温が混ざり合う。 実は、直人の心の中にも深い安堵があった。 ミツキを送り出し、一人で戻るはずだった独身寮。 あの狭い部屋で一人、冷えた空気を吸い込むのは、想像以上に寂しかったのだ。 だから、こうして強引にレオンに連れてこられたことが、本当は、たまらなく嬉しかった。 「……待て、レオン。……今日はもう、限界だ……」 「そうですね。僕も、あなたを独占したくて限界です。独身寮のシングルベッドなんて、僕が潜り込む隙間もなかった。……でもここでは、誰に遠慮する必要もありません」 レオンは直人の上に覆い被さると、 首筋から胸元にかけて、丹念に、そして執拗にキスを落としていった。 その瞳は、日中の「氷の王子」の面影など微塵もなく、 ただただ愛を乞う、甘えん坊な大型犬の潤みを湛えている。 「……直人さん。あなたが寂しかったと言ってくれて、本当に嬉しかった。……僕は、あなたがいない夜、自分がどうなっていたか想像もしたくない」 レオンは直人の手のひらに自分の頬を擦り付けた。 「このベッドで、これから毎晩、あなたの体温を感じて眠れる……。それだけで、僕の人生の目的は半分以上達成されたようなものです」 レオンは直人のシャツを丁寧に脱がせると、 露わになった肌を慈しむように、しかし深く、自分の存在を刻み込んでいった。 「……っ、……あ、……レオン、……っ」 「いい声……。もっと、僕の名前を呼んでください。……この新しい家で、僕だけがあなたのすべてを管理して、僕だけがあなたのそんな顔を見ることができる」 レオンの甘えっぷりは、直人の不器用な拒絶をすべて溶かしていく。 直人はレオンの柔らかい髪に指を差し込み、 溢れ出す多幸感に翻弄されながら、この男の「重すぎる愛」が、 自分にとって最高に心地よいものであることを認め、 その大きな身体を抱きしめ返した。 4. 露見:整備場に漂う「情事の毒」 翌朝。新居でレオンが淹れたコーヒーを飲み、 二人は別々の車で基地へと向かった。 直人は峻厳な「班長」として部下を律していたが、 大型エンジンの複雑な配線を確認しようと身を乗り出した瞬間、 つなぎの襟から「それ」が覗いた。 (……えっ?) 隣でライトを掲げていた若い隊員、岸本は息を止めた。 直人の白いうなじから鎖骨にかけて、鮮やかで大きな「朱い印」が覗いたのだ。 それは、昨夜レオンが直人を「甘く食らった」動かぬ証拠だった。 (……班長を……あんな風に愛している『誰か』が、この基地に……) 5. 氷の王子の「宣戦布告」 岸本の視線が、吸い寄せられるように直人の首元に釘付けになる。 その時、背後からいつもの、あの礼儀正しく爽やかな声が響いた。 「……何か、気になることでもあるのかな? 岸本隊員」 振り返ると、そこには完璧な微笑を浮かべたレオンが立っていた。 「……君のその目は節穴かな。それとも、僕がつけた『所有印』に、何か不都合でもあるのかな?」 レオンの声は岸本だけに聞こえる低い、けれど逃げ場のない響きだった。 「……これ以上、彼を汚れた目で見ないことだ。次にその視線を向けたら、君のキャリアごと、僕が責任を持って『整備』してあげるよ。……ね?」 「ひっ、……失礼します!!」 岸本は本能的な恐怖に突き動かされ、その場を走り去った。 6. 所有の証明と、静かなる日常 「……おい、レオン。あいつ、何で急に逃げてったんだ?」 作業を終えた直人が、不思議そうに顔を上げた。 「さあ。自分の至らなさを自覚したのではないでしょうか」 レオンは瞬時に「有能な部下」の顔に戻り、直人の襟元に手を伸ばした。 「直人さん、襟が折れていますよ。折角隠しているのに、これでは『見てください』と言っているようなものです」 レオンの指先が、わざとらしく直人の首筋の印をなぞり、そのまま指を絡める。 「心配なんですよ。僕が磨き上げたあなたの色気が、ああやって変な羽虫を寄せ付けてしまうのが。……ああ、早く帰りましょう、直人さん」 レオンは周囲を威圧する「捕食者」の顔を隠し、直人の前では「早く帰って甘えたい」という大型犬の顔を全開にする。 「今夜は何を食べましょうか、直人さん。……『僕たちの城』で」 直人はため息をつき、襟を立て直した。 明日からの日常は、完璧な「エスコート」と、重すぎるほどの「甘え」に守られた、最高にスリリングで幸せな生活の始まりなのだ。

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