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整備士のナンパ

横須賀の喧騒を少し離れた、落ち着いた街。 きっかけは、前日の夜に二人で眺めていた情報番組でした。 画面に映る、目にも鮮やかな旬の食材が並ぶ和懐石。 「……美味そうだな。こういうの、日本酒と一緒にやれたら最高だろうな」 直人の何気ない独り言を、レオンの鋭い耳が逃すはずもありません。 「直人さん、次の休みに行きましょう。予約、入れておきますね」 「おい、早いな……。まあ、たまにはいいか」 そうして決まった「外食デート」。 どうせなら新鮮な気分を味わおうと、 当日は朝から別々に行動し、 店の最寄り駅で待ち合わせることになりました。 【駅前:待ち人の誤算】 約束の時間の十分前。 駅の広場、街灯の下で直人を待つレオンの姿は、 ひときわ目を引いていました。仕立ての良いコートを羽織り、 背筋を伸ばして立つその佇まいは、 まるでファッション誌の撮影のようです。 時計を確認するレオンに、二人の女性が近づいてきました。 「こんにちは! お兄さん、お一人ですか?」 「誰か待ってるんですか? すごいかっこいいですね」 屈託のない笑顔で声をかける女性たち。 「もしよかったら、この後一緒にお茶でもどうですか? ……あ、飲みに行ってもいいし!」 レオンの美貌に惹かれた、明らかなナンパです。 少し離れた柱の陰からその光景を目撃した直人は、 「おいおい、やっぱりアイツ、モテるんだな……」と苦笑しながら、 しばらく様子を見ることにしました。 レオンは困ったような、けれど丁寧な微笑みを崩さずに口を開きます。 「お誘いありがとうございます。ですが、僕は今、彼氏を待っているところなんです。ですから、ご一緒することはできません」 「……えっ、カレシ?」 直球すぎる断り文句に、女性二人は顔を見合わせ、驚いたように足早に去っていきました。 【駅前:恋の駆け引きごっこ】 一部始終を見届けた直人は、少しいたずら心が芽生え、 彼女たちの真似をしてレオンに声をかけることにしました。 「こんにちは。お一人ですか?」 後ろから声をかけられ、レオンがゆっくりと振り返ります。 直人はニヤニヤしながら、ナンパ風に言葉を続けました。 「誰かと待ち合わせですか? お兄さん、かっこいいですね。今から一緒に、和懐石食べに行きませんか?」 からかってやろうと仕掛けた直人でしたが、 レオンは一瞬でその意図を読み取り、 潤んだ瞳で「乗って」きました。 「困りましたね。僕、彼氏と待ち合わせしてるんです」 「へぇ。彼氏がいるんだ?」 直人は少し声を低くして、わざとらしく続けます。 「でも、お兄さんみたいな美人がここで一人ぼっちなんて、その彼氏も薄情だねぇ。俺ならもっと早く来て、あんたを抱きしめて離さないけどな」 レオンは一瞬、直人の積極的な「ナンパ」に耳を赤くしましたが、 すぐにエリート軍人らしいポーカーフェイスで(無理やり)取り繕いました。 「……彼は薄情ではありませんよ。ただ、少し不器用で、僕の独占欲を煽るのが上手いだけです」 レオンは困ったように眉を下げつつも、 直人の手に、自分の手をそっと重ね、 指を隙間なく絡めました。 「お兄さん、手が震えてるぜ。本当は口説かれ慣れてないんじゃないの?」 「……直人さん、もう勘弁してください。あなたのその瞳でじっと見つめられると、演技を忘れてここ(駅前)であなたを押し倒してメチャクチャに求めてしまいそうです…。あぁ…。キスだけでも少し…いいですか?」 「っ、……バカ! 声がデカいんだよ!」 直人は慌ててレオンの口を塞ごうとしましたが、レオンはその手を優しく掴み、掌に深く唇を落としました。 「とても大切な人なんです。……僕にとって、少しでも不安にさせるようなことは万に一つもしたくない、そんな人なんです。僕の全てを捧げても足りないくらい、心から大切に思っています。ですから、あなたの誘いには応じられません。……ただし、僕の彼氏があなたであるなら、話は別ですが」 衆人環視の駅前。 真顔で愛の告白を重ねられ、直人は一気に顔が熱くなるのを感じた。 「……っ、バカ! 恥ずかしいわ!……っ」 「ふふ、そんな風に照れる直人さんも、可愛くて大好きです。愛していますよ。ナンパは成功ですよ、お兄さん。僕の全ては、あなたのものですから」 直人の「ナンパ」は、 本人の予想を遥かに超える熱烈な反応を伴って大成功(?)しました。 「……もういい、おれの負けだ! 行くぞ! 酒だ!美味い酒と、美味い料理が待ってる!」 「はい、直人さん。ふふ、そんなに急がなくても、僕はどこにも逃げませんよ。いつでもあなたの隣にいます。」 直人はレオンの手を強引に引き、 逃げるように店の方へと歩き出しました。 背後でクスクスと楽しそうに笑うレオンの気配を感じながら、 繋いだ手は離さないまま、二人は極上の和懐石が待つ店へと幸せそうに消えていきました。

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