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◇小話 夫婦
合宿二日目の朝、時刻は7時にさしかかるころ。
ペンションの廊下は、まだ少し静かだった。
七音はすでに起きていた。
顔を洗い、歯を磨き、部屋に戻り着替える。
布団を見る。
暁輝はまだ寝ていた。
完全に寝ていた。
布団をかぶり、微動だにしない。
「……先輩」
七音が声をかける。
反応なし。
「先輩」
少し揺する。
暁輝がうっすら目を開ける。
「……なお」
「はい」
「今何時」
「七時です」
暁輝は一瞬考える。
「……無理」
また目を閉じた。
七音は少し笑う。
「朝練ありますよ」
「……なお行ってきて」
「だめです」
七音は布団を少し引っ張る。
「起きてください」
暁輝がむずかる。
「五分」
「もうじゅうぶん寝てます」
七音はため息をつく。
「ほら」
暁輝の枕元に置いてあったペットボトルを渡す。
「水飲んでください」
暁輝がぼんやり受け取る。
少し飲んで、それからようやく体を起こした。
髪は完全に寝癖だ。
しかもすごい方向に跳ねている。
七音は思わず声をかける。
「先輩」
「はい」
「髪すごいよ」
暁輝を共用の洗面室に連れて行き、鏡を見せる。
「やば」
七音は小さく笑う。
「ちょっとじっとして」
水を手につけて、寝癖を押さえる。
暁輝はされるがままになっている。
洗面室にやってきた紗矢先輩が、その様子を見て動きを止める。
「なにそれ」
部長も覗く。
「え、夫婦?」
七音が振り向く。
「違います」
暁輝はまだぼんやりしている。
「なお」
「はい」
「ありがとう」
普通に言う。
女子たちが顔を見合わせる。
「夫婦……いや、おかんか?」
七音は少し困った顔をする。
暁輝はまだ半分眠りの世界にいるようだった。
窓の外では、湖の朝が静かに広がっていた。
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