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◇小話 帰りのバス

 帰りのバスの車内は、行きとはまるで違っていた。  出発したころは騒がしかった部員たちも、連日の練習で疲れたのか、皆静かだ。  窓にもたれて眠る者。  イヤホンをつけて目を閉じている者。  そんな中、前の席の二人が目に入る。  暁輝と、後輩の七音だ。  行きのバスでは微妙に距離を空けていたのに、今は普通に隣同士に座っている。 (あれ、仲直りしたのかな)  部員らが乗ったバスは、サービスエリアで休憩を挟んだ。  出発直前、部員たちが次々とバスに戻ってくる。  その中でひときわ目立つ人物がいた。  暁輝だ。    両手いっぱいに食べ物を抱えている。  唐揚げ。  おにぎり。  ポテト。  袋のお菓子まである。 (またやってる……)  弦楽部の中では有名だった。  暁輝はめちゃくちゃ食べるのだ。  席に戻ると、暁輝はさっそく袋を開けた。  そして――  隣の七音に差し出す。 「これうまいよ。食べな」  唐揚げ。  七音が少し戸惑う。 「先輩、それ自分のじゃないんですか」 「いいから」  暁輝は気にしていない。 「これも」  おにぎり。 「あとこれ」  お菓子。    次々と七音の膝に乗せていく。  それを見ていた部員たちが、目を丸くする。 (ちょっと待って) (暁輝くんが、自分の食べ物あげてる)  全員が同じことを思っていた。  ……ありえない。  暁輝は大喰らいだ。  そして――  食べ物に関してはかなりシビアだ。  食い意地が張っているとも言う。  なのに今、普通に七音に分けている。 「なお、細いんだからもっと食べろ」  そう言って、また唐揚げを渡す。  七音は困ったように笑いながら受け取った。  その光景を、周囲は呆然と見ていた。 (え……) (どういうこと……) (暁輝くんが……?)    ──そして、しばらくして。  ふと前を見ると、二人の様子が変わっていた。    七音が寝ている。  窓側の席で、すっかり眠り込んでいた。  体が少し傾き、暁輝の肩にもたれている。    暁輝はというと、片手でスマホをいじりながら、おとなしく座っていた。  七音を起こさないようにしているのか、じっと同じ姿勢のままだ。  後ろの席の部員が、小さく言った。 「……あの暁輝くんが」  別の部員が続ける。 「自分の食べ物分けて」  少し間を置いて、 「しかも肩貸してる」  車内の何人かが、同じ方向を見た。  皆一様に、意外なものを見たという目をしていたのだった。

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