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14小節目 行く先のメヌエット

 文化祭が終わった翌週。  放課後の練習室は、いつもより少し静かだった。  大きなイベントが終わると、部活は少し気が抜ける。  七音はチェロをケースにしまう。  指先を軽く押さえる。  まだ文化祭の演奏の感触が残っていた。 「なお」  声がして振り向く。  暁輝がヴァイオリンケースを肩にかけて立っていた。 「帰る?」 「はい」  二人で校舎を出る。  夕方の空気は少し冷たかった。  校門の横には、文化祭の装飾がまだ残っている。  しばらく歩いてから、暁輝が言った。 「文化祭さ、楽しかった」    七音は笑う。 「先輩、めちゃくちゃ目立ってましたよ」 「そう?」 「女子すごかったです」  暁輝は少し笑った。 「まあ、慣れたよ」  それから少し間が空く。  歩きながら、暁輝がふと思い出したように言った。 「そういえばさ、進路調査出た?」  七音は頷く。 「ああ、ありましたね」 「なお、何書くの」  七音は少し考える。 「まだ決めてないです」  暁輝は小さく頷いた。 「そっか」  七音が聞く。 「先輩は?」  暁輝はあっさり答えた。 「国立」  七音は少し驚く。 「理系?」 「うん」  七音は少し迷ってから聞いた。 「音大じゃないんですね」  暁輝は首を少しかしげる。 「なんで?」 「だって先輩」  七音は言葉を探す。 「ヴァイオリン、すごいし」  暁輝は笑った。 「音楽はやるよ。ずっと」  軽い口調で言う。 「当たり前じゃん」  七音は黙る。  暁輝は続けた。 「でもさ、別に大学でやらなくてもいい。  どこ行っても弾くし」  七音は歩きながら考える。  暁輝は本気でそう思っている。  音楽は、この人にとって特別なものじゃない。  呼吸みたいに、当たり前にあるものだ。  暁輝が言う。 「なおは?」  七音は顔を上げる。 「進路、考えてる?」  七音は少し笑った。 「いや、俺は……」  言葉が止まる。  今まで、ちゃんと考えたことはなかった。  音楽は好きだ。  最近は作曲も、やりがいを感じ始めている。  でも、それを「将来」にするなんて。  考えたことがなかった。  七音は少し視線を落とす。  頭の中に、いくつかの音が浮かんだ。  自分の曲。  暁輝のヴァイオリン。  七音はゆっくり言う。 「……わからないです」  暁輝は軽く言った。 「まあ、まだ一年だし」  七音は頷く。    胸の奥に、小さな灯がともっていた。  さっきまで無かったもの。  音楽。  将来。  その二つが、初めて同じ場所に並んだ気がした。  七音は空を見上げる。  夕焼けが広がっていた。  胸の奥に、まだ言葉にならない感覚が残っている。  その感覚は、まだ名前のない旋律みたいだった。

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