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◇小品 バンドサウンド

 文化祭、午後の陽光が降り注ぐ中庭。  特設の有志ステージでは、多種多様な演目が入れ替わり立ち替わり披露され、生徒たちの熱気は最高潮に達していた。  そのステージの中央に、制服姿でギターを肩にかけた七音が立っていた。  同級生から粘り強く頼み込まれ、文化祭限定で結成された即席バンド。彼の担当は、あろうことかギターボーカルだった。  去年の七音であれば、このような誘いは一顧だにせず断っていただろう。  大勢の前で声を張り上げること、ましてやギターでステージを牽引することなど、想像の範疇にすらなかったはずだ。  しかし、今は違う。  眩しい陽光の下でネックを握りしめながら、七音は自分の中に起きた決定的な変化を、皮膚に触れる空気の震えとして確かに感じ取っていた。  客席のざわめきが、潮が引くように静まっていく。  短いカウント。  空気を切り裂くドラムのキック。  アンプから唸りを上げたギターの重低音。  狂乱のアンサンブルが、幕を開けた。  選ばれたのは、誰もが知る有名ロックバンドの代表曲だった。  七音がマイクへと唇を近づける。  スピーカーを通じて放たれた歌声は、甘く、それでいてどこか愁いを帯びたやわらかな響きを持っていた。  その瞬間、ステージの下が目に見えてざわめき立つ。弦楽部での端正な彼を知る者も、そうでない者も、その声の持つ魔力に一瞬で射抜かれたようだった。  演奏が加速し、サビの手前で空気が一変する。  七音のギターが、一歩前へと踏み出した。  原曲のラインをなぞるだけではない、独自の解釈が込められたアドリブのリフ。  鼓膜を鋭く切り裂くような、攻撃的なフレーズが中庭を支配する。  観客の熱気が爆発するように膨れ上がる。  ギターが慟哭し、ベースとドラムがそれに共鳴するように地を這うリズムを刻む。  それは、聴く者を圧倒する苛烈な演奏だった。  七音が紡ぐ音は、チェロを弾くときとは決定的に異なっていた。  聴き手を優しく包み込む包容力ではない。  剥き出しの感情を真っ直ぐに胸へと突き立てる、強靭で強烈な「個」の音楽だった。  客席の最後列で、暁輝は腕を組んだまま、その光景を凝視していた。  微動だにせず、ただステージ上の恋人を見上げている。  ギターを抱え、咆哮するように歌う七音。  その姿は、弦楽部の後輩という枠組みを軽々と飛び越え、一人の完成された表現者としてあまりにも堂々として見えた。  最後の一音が消え、七音は小さく、けれど不敵な余韻を残して頭を下げた。  直後、地鳴りのような歓声が巻き起こる。  逆光を浴びて立つ七音の輪郭は、眩いほどに輝いていた。  暁輝は、胸の奥から湧き上がる熱い衝動を抑えるように、小さく独りごちた。 (……やば)  認めたくないほどの敗北感と、それ以上の高揚。 (かっこよすぎ)  その横顔に浮かんだのは、独占欲すら置き去りにされた、純粋な称賛の笑みだった。

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