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◇小品 音の引力
休日の部活練習が終わった午後。
二人は駅へと向かう足を少し変えて、海の方へと歩いていた。
きっかけは、暁輝が何気なく溢した一言だった。
「俺たち、一緒に行く場所が音楽に染まりすぎじゃない?」
確かに、振り返れば部室か防音室か、あるいは楽器店やコンサートホールの客席か。
たまには「普通の高校生」らしいデートをしようと、デートスポットで有名な海辺の公演を制服のままぶらつくことにしたのだ。
潮風が通り抜ける遊歩道を、とりとめもない話をしながら歩く。
クラスの話題から、昔やっていたモンスター狩りゲームで何の武器を使っていたか。
音楽の理論を解くときのような鋭さは影を潜め、暁輝はキッチンカーを見かけるたびに「あ、これ美味そう」と足を止めては、ホットドッグやソフトクリームを幸せそうに頬張っていた。
けれど、街には常に音が溢れている。
広場から聞こえる軽快なBGM。
道端に座り込み、枯れた音でブルースを奏でる老ギタリスト。
会話の合間、二人の意識は無意識にその「音」へと吸い寄せられてしまう。
リズムが揺れた。
今のダブルストップ、少し高い。
言葉にせずとも、二人の足取りがわずかに重くなる。
結局、どこまで行っても耳が音を拾い、指先が勝手にフレーズをなぞってしまうのだ。
日が傾き始め、オレンジ色の光が海を染める頃。
地下鉄の駅へ向かうと、改札近くの広場に一台のストリートピアノが置かれていた。
二人は、どちらからともなく足を止めた。
顔を見合わせる。
言葉での相談は、もう必要なかった。
七音が静かにピアノの椅子に座る。
その隣で、暁輝が迷いなくヴァイオリンケースを開けた。
弓を張り、弦に置く。
暁輝が第一音を奏でた瞬間、駅の空気が一変した。
七音が即興で厚みのある和音を添え、豊かな響きがコンクリートの壁を伝って広がっていく。
透明感のある旋律が、家路を急ぐ通行人たちの足を次々と止めていく。
数曲を重ね、最後の一曲。
暁輝が弓を大きく動かし、情熱的な導入部を弾き始めた。
誰の耳にも馴染みのある、激しく、力強い旋律。
暁輝のサービス精神に応えるように、七音の左手がピアノの低音を力強く叩き出す。
ヴァイオリンが叫び、ピアノが唸る。
駅の広場は、気づけば小さなコンサートホールに変わっていた。
最後の一音が鮮烈に鳴り響き、余韻が空気に溶ける。
一瞬の静寂の後、湧き上がるような拍手が二人を包み込んだ。
楽器を片付け、人混みを離れたところで、暁輝が可笑しそうに肩を揺らした。
「結局、俺たち音楽から離れられないね」
そう言って笑う恋人の横顔を見ながら、七音も小さく頷いた。
この引力からは、きっと一生逃れられない。
けれど、それが酷く心地よいのだと、七音は心の中で静かに思った。
――
暁輝は太刀とかアックス使いそう。かっこつけだから
七音は遠距離武器が好きそう
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