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◇小品 琥珀に溶ける熱【R18】
窓の外はやわらかな橙に染まり、部屋の中にも静かな余韻が満ちている。
書き上げたばかりの二重奏の譜面が、夕方の風に揺れていた。
一通りの作業を終え、一段落ついた頃。
七音の同居の祖母は避暑地へ旅行に出ており、家の中には二人きりだった。
七音はありあわせで手早く焼きそばを作り、暁輝に振る舞った。
暁輝は、差し出されたソース焼きそばを、それはもう美味しそうに頬張った。
七音は、大口を開けて食べ進める暁輝の様子を眺めるのが好きだった。
華やかな舞台に立つ彼が、気の抜けたときに見せる無防備な姿。
それがたまらなく愛おしいと思う。
食後、暁輝はリビングのソファに身体を預け、手足を投げ出してくつろぎはじめた。
「先輩、帰らなくていいの?」
「んー、夏休みだし。明日はオケの練習もないし」
だらけた声のまま、暁輝は上目遣いで七音を見上げた。
「なおは俺に帰って欲しいの?」
湿り気を帯びた低い声。
七音は抗うことなく、そのまま暁輝の体に覆い被さった。
「そんなわけないじゃん」
自然に顔が寄り添い、触れるだけの軽いキスを何度も繰り返す。
唇の端が触れ合うたび、お互いの肺から甘い吐息が漏れた。
――もっと深く。
七音がそう思った瞬間、暁輝が耳元で低く囁いた。
「……なおの部屋、行こ」
七音は笑って暁輝の腕を取り、起き上がらせる。
立ち上がると、暁輝が後ろから背中にぴたりと貼りついてきた。
「歩きにくいよ」
「いいじゃん」
二人羽織のような格好で、くすくす笑いながら二階の部屋へ移動する。
扉を閉めた瞬間、笑い声は途切れた。
背中から回り込んできた暁輝の腕が、七音を強く抱き寄せ、性急に唇が合わさる。
先ほどまでの穏やかさは消え、互いの舌を深く、貪るように絡み合わせた。
「なお、脱いで?」
暁輝の指先が七音のシャツの裾を捉える。
七音が素直に腕を上げると、暁輝は手慣れた、けれど少し荒い動きで服を脱がせた。
自分も同じようにTシャツを放り出し、剝き出しの肌同士が触れ合ったまま、暁輝は七音をベッドへと押し倒した。
暁輝の手のひらが、七音の体を自由奔放に愛でていく。
左手の指先が敏感な箇所をなぞると、思ってもみないような高い声が溢れた。
「……あ、っ……はぁっ」
旋律を編むときでさえ予想ができなかった、まだ知らない七音の「音」。
零れる声はまさに未知の旋律で、暁輝の胸をくすぐった。
やがて、暁輝の熱が七音を深く穿った。
二人の境目が溶け出し、熱だけが確かにそこにある。
暁輝は目を細め、七音の柔らかな粘膜と、内側から締め付けられるような感触を存分に堪能した。
暁輝は波打つように体を揺らしながら、七音の全身を確かめるように手のひらを這わせる。
締まった細い腰、骨張った肩、小さくすべらかな尻。
そして、触れるたびに漏れるあえかな吐息。
――知っているのは、俺だけがいい。
七音の琥珀色の瞳が潤み、涙の幕を張って宝石のように煌めいている。
熱に浮かされながら、じっと自分を見つめるその瞳と目が合った時、七音がふにゃりと笑った。
「……あは、先輩……っ。気持ち、よさそ……」
その全てを見透かすような瞳。
冷静さを失った暁輝は、獣のような呼吸で強く腰を押し付け、齎される快楽に耽溺した。
七音の喉から悲鳴に近い声が上がり、やがて二人の間に、火花のような絶頂が爆ぜた。
静まり返った部屋に、肩で息をする音だけが重なる。
しばらくして、互いの息がゆっくりと落ち着いていく。
心地良い余韻に浸りながら、暁輝は七音の白い胸元に顔を埋めた。
高みからようやく戻ってきた七音が、胸元の違和感に気づき声を出す。
「……先輩、なにしてんの」
「んー。痕つけてる」
七音が自分の胸を見下ろすと、そこには痛々しいほど鮮やかな、赤いしるしが浮かんでいた。
「俺もやりたい」
「え、やだよ。キスマとかはずいじゃん」
「はあー?」
むきになった七音が暁輝に覆い被さり、その尖った喉仏に嚙み付く。
二人は子供のように笑いながら、シーツの上で転げまわった。
結局、夢中になって付け合った赤い痕は、二人の胸元を埋め尽くすほどの数になっていった。
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