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◇小品 勧誘大作戦

 桜が舞う四月のキャンパス。新入生勧誘の喧騒の中、一際異彩を放つ一角があった。  大型モニター三台を連結させ、爆音でサイケデリックな映像を流しているのは、映像音楽研究会のブースだ。 「諸君!脳を焼かれたいとは思わないか!」  拡声器を手にした崇峰が、教祖のような立ち居振る舞いで新入生たちを煽っている。大学院生という肩書きを得た彼の狂気は、さらに洗練(悪化)していた。 「映像と音楽。この二つの毒が混ざり合った時、人間の認識は破壊され、再構築される!我々が求めているのは、単なる『動画』ではない!視神経から直接脳髄に叩き込む、純粋な快楽と絶望の体験だ!凡庸な日常を捨て、僕と一緒に銀幕の奴隷になろうではないか!」  崇峰の背後のモニターでは、幾何学模様が脈動し、心臓に響くような重低音が鳴り響いている。足を止めた新入生たちは、感銘を受けるどころか、あまりの「闇」の深さにじりじりと後ずさりをしていた。 「……あの、映像音楽って、もっとこう……アニメの劇伴とか、そういうのだと思ってたんですけど」 「甘い! 甘すぎるよ子猫ちゃん!それはただの『添え物』だ!音楽こそが映像を支配し、映像こそが音楽を具現化するんだ!」  崇峰の理解不能な理論がヒートアップし、ブースの周りには見えない壁ができていく。新入生たちは「関わっちゃいけないタイプの先輩だ」と目を逸らし、足早に去っていく。 「おい、いつまで一人劇場してんだ。新入生が逃げてんだろうが」  背後から現れた仙川が、崇峰の後頭部を無造作にひっぱたいた。 「いたっ。仙川くん、芸術のプレゼンに暴力は不要だ!」 「うるせえ。お前は黙って弾いてろ」  仙川はため息をつくと、陰で待機していた七音の背中を押した。 「朝波くん、頼むわ」 「え。あ、はい……」  七音がチェロを抱えて椅子に座る。仙川は、暴れる崇峰を力技で電子ピアノの前に座らせた。崇峰は、不満げな顔をしていたが、目の前に鍵盤が現れた瞬間、生き物が呼吸をするように指が動き始めた。  始まったのは、猟奇的ともいえる激しいピアノ・ソロだった。  不規則なリズム、叩きつけられるような不協和音。崇峰の「闇」がそのまま音になったような旋律に、通りがかった学生たちが思わず足を止める。恐怖と好奇心が混ざり合った視線。  そこに、七音のチェロが入り込んだ。  荒れ狂う嵐を包み込むような、深く、温かい低音。  崇峰の鋭い音の角を、七音の弦が優しく削り取っていく。ぶつかり合うのではなく、融合していく二つの音。闇の中に一筋の光が差し込むような、奇跡的な融和。  崇峰の表情から狂気が消え、純粋に「音」を楽しむ子供のような顔に変わる。七音もまた、崇峰の自由奔放な旋律を追いかけ、チェロを歌わせた。  演奏が終わった瞬間、ブースの周りには大きな拍手が沸き起こった。 「今の、すごすぎ……!」 「ここに入れば、あんな曲が作れるようになるんですか?」  学生たちが次々と入部案内を手に取る。仙川が「あいつは奇人ですが、音楽は本物です」と丁寧にフォローに回る中、崇峰は満足げに七音に詰め寄った。 「朝波くん!素晴らしい、今の第六音の解釈、鳥肌が立ったよ!今度の僕の作品のメインテーマ、君のチェロで全部書き直していいかな!」 「絶対嫌です」  きっぱりと断る七音の横で、外部の人間なのになぜか現れた暁輝が「今の演奏、録音しておけばよかったね」と笑っている。彼らの新しい一年が、また騒がしく幕を開けた。

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