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第4話 俺のせいかなぁ?②

「どーぞ、上がって」 「お邪魔しまーす。わー、上条さんのおうちだー」  下瀬の運転で途中コンビニに寄り自宅アパートまで送られて、1LDKの玄関で二人靴を脱ぐ。ゴルフバッグを立て掛けていることもあり、二人で入ると玄関はギチギチだ。 「部屋汚ねーから、お前シャワーでも浴びてろ。そこ風呂場。その間に部屋片付けとく。ジャケット預かるから脱いで」  玄関を上がると十二畳のLDKに続く短い廊下があり、廊下の左側にトイレと洗面所のドアが二つ並んでいる。LDKの左側には八畳の居室があって、そこに四畳のWICが付いているというよくある間取り。漁られるとまずいもんが置いてあるから会社のやつを家に招くことはない。 「はーい。じゃ先お風呂もらいまーす」 「ごゆっくりー」  下瀬は素直にジャケットを脱ぎ、俺にジャケットとビジネスバックを手渡した。下瀬を脱衣所に送り込んだところで荷物を手に持ちリビングのドアを開ける。  部屋は汚いという程じゃない。壁掛けテレビ、本棚とかの収納、大体の物はあるべき場所に片付いている。  カウンターキッチン正面に置いた二人用ダイニングセットの上には朝飲んだコーヒーのカップとビジネス書。リビングのソファにはドラム式洗濯機で乾燥まではしてあるものの、取り込んだだけで放置したタオル数枚とシーツが乗っかっている。床はまあ綺麗。出勤直前にロボット掃除機のスイッチ入れるようにしてるから、床に物置かないようにしてるし。だけどやる気満々とか思われたくなくて、シャワーにぶち込むために少し盛った。  上慶苑でどエロいキスをぶちかましてきたくせに、その後の下瀬の態度はいつも通りの犬っころだ。こいつ本気でこの後やる気なのかと少し疑ったが、道中寄ったコンビニでカゴの中に歯磨きセット、替えの下着、それからゴムが入っているのを見てしまったからマジらしい。  とは言えまだ疑っている。俺は自他共に認めるくらい顔が良い。から、ノンケでもキスまでは出来るかもしれない。でも身体はどこからどう見ても男で、タッパがある方だから小柄で可愛いというタイプではなく、同じモノが付いている訳で。男相手の経験が無いという下瀬にはハードルが高い気がしてならない。  そんなことを頭の中で考えながら「……マジでやんのかなあ?」と独り言を口にしつつ、放置していたタオルを畳む。小さいだろうなと思いつつもクローゼットから上下のスウェットを見繕い、先ほど畳んだタオルと一緒に脱衣所まで持って行く。 「着替えとタオル、洗濯機の上置いとくぞ」 「あざっす!」  風呂場の曇った折戸越しに下瀬に声を掛け、寝間着とタオルをポンと置く。下瀬がシャワーを浴びている音が聞こえてきて、じわじわと緊張してきた。  なんてったって、久々だ。前に付き合ってた奴とした以来。男に抱かれる良さを知ったのは二十歳の時で、その後は遊びのワンナイトだとかもしてたけど、そういうのはとっくに落ち着いた。だからここ半年ちょいの間は抱かれていない。  脱衣所から出てドアを閉め、はあ、と溜息混じりに息を吐く。リビングに戻り、テーブルの上に置きっぱなしだったコップを洗い、ソファに座って壁掛けテレビの電源を点けたところでリビングのドアがガチャっと開いた。 「わ、部屋めっちゃ綺麗じゃないすか。おしゃれー。俺の部屋と大違い」  ダボッと着るタイプのスウェットを寝間着として渡したが、下瀬が着るとジャストサイズだった。髪を洗ってヘアセット無しだと普段以上に若く見える。大学生と言われても信じるだろう。 「今綺麗にしたの。俺もシャワー浴びてくる。適当に暇潰して待ってて」  そう言ってソファから立ち上がり、下瀬が立つリビングの入口へと足を向ける。下瀬はその場に立ったまま動かず、何だと思って顔を見上げた。下瀬はへらりと嬉しげに笑う。 「はい。良い子で待ってまーす」 「あっ、いや、別に変な意味じゃなくて、あー、さっきコンビニでビール買ってたろ。上がったら一緒に飲もう的な意味で……」  やる気満々な内心が言葉に滲み出ていたことに気付き顔が熱くなる。あれこれ言い訳を並べ立ててみるが、下瀬は笑みを浮かべて俺の頬にちゅっと軽く口付けた。 「待ってるから、後でいっぱいキスしましょーね」 「やめろ。恥ずい。やっぱ無理かも」 「えー、無理とか言わないでくださいよ。ね?」  ぎゅっと抱き締められて、首筋に頭が擦り付けられた。髪がこそばゆくて擽ったい。背中と腰に腕を回され抱き締められて、それだけで身体がぞくっとする。 「や……ほんと、マジで、お願い。恥ずいって……」 「上条さん、首まで真っ赤。かわいー」  ちゅ、ちゅ、と首筋を軽く啄まれ、耳朶にもちゅっとキスされる。リップ音が鼓膜に響いて「あっ」と小さく声が漏れた。下瀬が少し屈んで、正面から顔を覗き込んでくる。 「後で、って言いましたけど、その前に一回チューしましょ。待ちきれない」 「ちょっと、待っ……ん……ぅ……んむっ……」  口唇を塞がれて、舌に舌が絡み付く。ぞくぞくした。やっぱり下瀬は、キスが上手い。今にも腰が砕けそうで、下瀬の腰に腕を回してぎゅっと抱き締め返した。しつこく絡み付く舌に興奮させられて、俺からも舌を絡め返す。下瀬の舌は、ミントの歯磨き粉の味がした。 「ぷはっ……も、だめ……腰が、抜ける……」 「じゃ、俺が身体洗ってあげましょっか?」 「やだよ、ちょっと大人しくしてろ。振りじゃねーからな、くそ……」  頭を振ってキスから逃れたものの、既に足から力が抜けかけている。腰から背にかけて布越しに撫でられただけでも背筋が痺れて、本当に腰が砕けそうだった。あまりに手慣れた下瀬の調子に少し腹が立つ。下瀬は口角を上げて、悪戯っぽく目を細めた。 「じゃあ、お風呂場まで送ります。それなら良いでしょ? ね、行きましょ」  ――そう、契約が取れる営業マンとは、下手に出ていると見せかけて九割方強引なものである。日常生活にもドアインザフェイスが染み付いているのだ。 「お前、営業が上手くなったな……」 「あざっす! 上条さんのおかげです!」 「……俺のせいかなぁ?」  ぽつりと呟き、首を捻る。  そういう訳で、半ば強引に腰を抱かれたまま風呂場に連行されたのだった。

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