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第7話 ハッピーメーカー

「やっぱ松鷹鮨は美味いっすねー! ご馳走様でした! 恋人と行く松鷹鮨って余計に美味く感じます!」 「そりゃ良かった。やっぱ美味いよなーネタが新鮮で……あ痛っ、お前の大はしゃぎのおかげでまだ腰いてぇ~……」  夜九時、運良く予約が取れた松鷹鮨を食って家まで下瀬の運転で送られている道中。助手席から下瀬に文句を垂れつつ、ヘッドレストにぼすんと頭を凭れた。松鷹鮨はやっぱり美味い。 「上条さんだってノリノリだったじゃないっすかぁ! お互い様っすよ!」 「それはそーだけど、夜中まではしゃぎ倒して昼間もはしゃぎ倒して流石に疲れた。明日は午前も午後も打ち合わせだし座ってられっからまあいーけど……」  昨晩は深夜三時までノリノリで五回戦までして、狭い風呂場で一緒にシャワーを浴びて、抱き締められつつ下瀬を寝かしつけた。  で、今朝は十時起きで展示場まで一旦俺の車を取りに行って、その後はスポーツアミューズメントだ。バッティング、フットサル、キックターゲット、ダーツとか。んで予約時間に松鷹鮨行って、約束通り奢ってやって、からの今。俺も体力はある方だが、こいつと付き合うならもう少し運動量を増やした方が良い気がする。 「俺は明日十三時から十五時までの打ち合わせ以外予定無いんで、テレアポ掛けまくってみまーす」 「おー、どうにか新規引っ掛けろ。俺も契約見込みにプラス二件行きてえなー」  腕を伸ばし、わしわしと髪を撫でてやると下瀬は擽ったそうに笑った。可愛いやつだ。  明日の仕事の話をしたり今度行きたい場所の話をしたりしているうち、あっという間に俺の自宅近くに差し掛かる。 「あ、そこのコンビニで駐めて」 「はーい」  目先のコンビニを指差して言うと、下瀬はコンビニに車を駐めた。店舗の真ん前じゃなく、店舗横の影に入る方。ここから自宅アパートまでは徒歩三分だ。 「ここでいーよ、ありがと。また明日な」 「俺のスーツ、上条さんちに置きっぱですよ。まだ帰りたくねーっす。上条さん家泊まっちゃダメ?」  シートベルトを外すと、眉を下げた下瀬に見つめられた。シャツは洗濯かけたし、スーツもあるし、近くのコインパーキングが空いてりゃ駐めさせて家に泊めてやっても良いけど――いやいや。とりあえず今日はやめとけ。腰痛が悪化する。 「今日は腰痛いからナシ! 明日に響く!」 「何もしないっすからぁ~」 「何もしないつもりでも一緒に寝たら確実にその気になんの! 俺が!」 「もー、上条さんのエッチ~」  太ももをすりっと撫でられて、顔が近付く。ちゅうっと軽く吸うように口唇を啄まれた。そっと口唇が離れ、じとりと下瀬を見上げる。 「……その気にさせようとすんな、バカ。スーツは来週着る用としてうちに置いとけ。今度は服とかも持ってこいよ。俺の服じゃ袖が短いだろ」 「はい、一週間分くらい持ち込みますね!」 「お前どんだけ連チャンで泊まる気だよ……」 「毎日一緒に居たいっす!」 「展示場で毎日顔合わせてんだろーが」  ちゅっ、と俺からも軽いキスを返して、助手席のドアを開けた。 「じゃあな、おやすみ。また明日」  ドアから降りて、閉める前に軽く手を振る。 「はい、おやすみなさい!」  満面の笑みが向けられて、ふっと軽く笑みを返してドアを閉じる。発進する前、助手席側の窓が開いた。 「また明日、展示場で! あっ、上条さん、大好きです!」 「おー、寝坊すんなよー」  下瀬の車が走り去っていくのを見送って、自宅アパートへと一人で戻る。家には下瀬が居た痕跡があちこちに残っていて、昨日今日が夢ではないらしいことを示していた。  上条四季、三十歳。藤原ハウス中央展示場店長。うちのエースに契約を取られましたと。  住宅ローン基本三十五年、最近は五十年とかで組む人も多いけど――まあ、こいつとの契約は返済期限なしで抱えてやろうと思う。さっき分かれたばっかりなのに、もう会いたいし。やっぱり泊めてやれば良かった。いや、それは腰が終わる。  さっさと寝支度を済ませて眠り、翌朝いつも通りに起きて、身支度を整えて出勤する。  九時二十分頃展示場に着いてドアの鍵を開けようとすると、大抵鍵を開けるのは俺なのに既に鍵が開いていた。ガチャリとドアを開けて事務所の敷居を跨ぐ。 「上条さん! おはよーございます!」 「珍しく早いじゃん。おはよ、下瀬」  フリーデスクで既にノーパソに向かっていた下瀬が勢いよく立ち上がり、俺に笑みを向けて寄ってくる。 「上条さんに早く会いたくていつもより早く着いちゃいました!」 「おっまえ、ここ職場。やーめーろ」  靴からスリッパに履き替えて事務所に上がったところで戯れるように抱きつかれて押し退ける。 「その職場でオナニーしてた人誰ですか~あ痛っ! 本気の肘鉄! DV彼氏!」 「正当防衛! お前絶対言うなよ、フリじゃねーぞ! 俺は打ち合わせの準備すっから邪魔すんな」  しっしっと手を払い自分のロッカーへ向かって始業の支度をする。ノートパソコンを取り出して、下瀬の隣に腰掛けた。 「えへへ、席めっちゃ空いてんのに珍しく上条さんから隣に座ってくれるじゃないっすかぁ~」 「うるせー、嫌なら移動すんぞ」 「嫌なんて言ってないっす、超WELCOMEです」 「英語で発音すんな帰国子女」  打ち合わせに使う資料をプリンターで印刷しているうち相田が「おはようございまーす」と出勤してきて、次に事務の山本さん、中谷、原と出勤してくる。  さて、本日俺の打ち合わせは十時ジャストから。九時五十八分になったところで来場を知らせるチャイムが鳴り、下瀬の隣から腰を上げて玄関へと赴いた。  ここは藤原ハウス中央展示場。今日も今日とて、誰かの幸せを作るお手伝い。 「――上条さん、お疲れさまです!」  午前の打ち合わせを終えて事務所に戻ると、俺の幸せを作ってくれるらしい営業担当に笑顔で出迎えられた。

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