15 / 17
第15話 今すぐ、むちゃくちゃ欲しい
「はー、やっと着いたぁ。夕方って道混みますねぇー」
「ちょうど帰宅ラッシュだったしなー」
上条さんの家に着き、ショッパーを玄関に置いて、上条さんに選んでもらいその場で履き替えてきた靴を脱ぐ。良い靴は良い場所に連れて行ってくれるらしい。上条さん家、つか、上条さんが居るところが俺にとっての良い場所だ。
「ちょい冷えたし、風呂でも沸かすかー。準備するから、荷物リビングに持っていって」
「はーい」
上条さんは一旦座るとかナシで、帰ったらまずやること先にやっちゃうタイプ。だから上条さんは風呂を沸かすためにさっさと風呂場に向かい、俺はショッパーやら荷物を持ってリビングへと移動した。殆ど上条さんの買い物で、俺が買ったのは靴だけだ。
上条さんは金持ってるし、自分の欲しいもんは自分で買う。何かクリスマスプレゼント用意したいけど、何をあげて良いもんかよく分からない。何あげたって喜んでくれそうな気はすんだけど。ネタに走れば笑ってくれそうだし、ちゃんとしたもん渡しても喜んでくれそうだし。
「湯張りセットしたー。五分くらいで溜まるかな。下瀬、こっち来て、隣座って」
「はぁーい」
上条さんがリビングに入ってきて、ぼすんとソファに腰掛ける。俺も呼ばれるまま隣に寄ってソファに腰を下ろした。上条さんは口角を上げて悪戯っぽく目を細め、ちゅっと俺の口唇にキスをする。横から肩を抱かれて、俺の肩に上条さんの頭がこてんと乗っかる。あやすように頭をよしよし撫でられた。
「よーしよし。良い子。一日俺の用事に付き合ってくれてありがと。今度は下瀬が行きたいところにも行こうなー。下瀬はどこ行きたい?」
「上条さんが居るなら、なんでも良いっす。上条さんがしたいこと、全部楽しみだし。俺、野球くらいしか趣味ねえし、上条さんの好きなこと一緒にしたいなぁ」
帰ったら甘やかしてくれると言った通り、早速甘やかしてくれるらしい。撫でる手付きが心地良くて、冷えた身体がポカポカしてくる。上条さんの方に顔を向けると、視線が絡んだ。引き合うみたいに口唇が触れ合って、ちゅ、ちゅ、と軽く啄むキスを続ける。
閉じた上条さんの口唇を舌先でつうっとなぞると、口唇が薄く開く。開いた隙間から舌を捩じ込み、絡めて、ゆっくりとソファの座面に身体を押し倒す。
「んむ……んぅ……はぁっ……」
上条さんの頬を両手で包んで、深くキスした。上条さんからも舌を絡め返してくれて、口唇の端からは甘ったるい吐息を漏らしてる。背中に腕がするっと回され、抱き締められて、求められる感じにグッとくる。
――今求められてんのは俺。俺で良いよね?
上条さんは誰に対しても優しくて、博愛主義って感じがするからちょい不安。そんなん分かってたことだけど。誰に対しても優しい、裏表無いとこが好き。中央展示場勤務になってから好き好きアピールしてたつもりではいる。おかげで若干意識してくれてはいたらしいし、俺のこと『特別好き』とも言ってくれたけど、強引に口説き落とした自覚アリ。
でもま、始まりがどうあれ、こっからもっと好きになってもらえりゃ良いわけで。微かな不安より今が幸せだって思う。とか思いながらキスに夢中になっていたら『お風呂が沸きました』のアナウンスに邪魔された。
「ん……下瀬、先風呂入っていーよ」
「一緒に入んのはダメ?」
「お前と俺で入ったらギッチギチだろ。下瀬一八五、俺一七七あんだぞ。溜めた湯が全部溢れるっつの」
「それはそうかもだけどー」
甘えて口を尖らせてみるものの、ぐしゃっと髪を撫でられてふっと笑われた。
「風呂上がったら髪乾かしてやっから。ドライヤー、恋人っぽくていーだろ?」
「はぁーい」
昨晩俺が言ったことを返されて、ふにゃっと頬が緩む。風呂に送り出されて、ささっとシャワーして、五分くらい湯船浸かって、風呂上がったら廊下からパタパタ足音がして上条さんが来てくれた。ドライヤーしてくれる間に向かい合ってチューしたりして、恋人って特権を使いまくらせてもらう。
俺の髪が乾いたところで上条さんが交代で風呂入って、上がったら今度は俺が上条さんの髪乾かして、チューして。お互い風呂に入って、歯磨きも済ませて、準備万端だ。上条さんの腰を抱いて、頬にキスしながら短い廊下を歩く。
「おーい、ベッタリだな。擽ったいって」
「まあ、甘えたなんで。甘えた嫌っすか?」
「ヤじゃねーけど。でも、俺にも甘えさせてよ」
くつくつ喉を鳴らして笑われ、頬にキスを返される。今俺がこの世の幸せを全部吸い取ってるかもしれない。やべえ、今日嫌なことあった人とか居たらごめん。俺のせいかも。
イチャイチャしながらベッドに向かおうとしたところで、ソファ前のテーブルに置いてあった上条さんのプラベのスマホが鳴って邪魔された。
「あーごめん、誰だろ……寺田さんだ。どうせくだんねー用事だろーけどちょい出て良い?」
「うぃっす」
上条さんはスマホの画面を見るとちょっと申し訳無さそうな顔で俺に視線を向けた。西展示場の寺田さんかららしい。上条さんは「すぐ終わらせっから」と断りを入れて応答ボタンを押して、ソファにぽすんと腰掛けた。俺もその隣に腰掛ける。
「もしもーし。なーんすかぁ、寺田さん。俺今取り込み中なんで手短にお願いしまーす。人と居んの。えー、ナイショ」
上条さんは目を細め、明るい懐っこい声を電話に向ける。寺田さんは上条さんより三つ年上で、上条さんが新人の頃の指導係だ。俺も普通に良くしてもらってるし、寺田さんが居る飲み会は大抵上条さんも顔を出している。二人が仲良いのは知ってるけどマジで仲良いよなあ、と若干複雑な心境になる。が、細めた目が俺に向けられてニッと笑い掛けられた。
「そう思うなら邪魔しないでくださーい。そーだよ、恋人と居るの。つい最近ー。めちゃかわいーよ。だから邪魔すんなって。他を当たってくださーい」
めちゃかわいーよ、とか電話しながらわしゃわしゃ髪を撫でられて、胸がキュンとする。俺ってめちゃかわいー恋人らしい。
「うちのなら多分中谷行くんじゃね? 原はなぁー、行ったら流石にマミちゃんと破局になりそうだし。もし別れたら誘ってやれば? 下瀬ねー、あいつは行かねーっすよ、多分。知らねーけど。はいはい、また今度ねー。はーい」
電話を切って、上条さんは「ごめんごめん、やっぱくだんねー話だった」と言って笑った。寺田さんの声は聞こえなかったけど、飲み行こうぜーって話だろう。原が行ったらマミちゃんと破局になりそうということだから、ガルバもしくは女の子が居る飲み会とか。
「俺、めっちゃかわいー恋人っすか?」
「お前しかいねーだろ。めっちゃかわいー恋人だよ」
ちゅ、と頬にキスされて、愛されてるみたいな自信が湧いてくる。職場の人相手に恋人出来たとか言ってくれんのも、すげー嬉しいし。
「上条さぁーん……」
「なーんだよ、どした?」
上条さんはソファから腰を上げて、笑みを浮かべて俺に手を差し出した。その手を掴んで立ち上がり、口唇を奪うように口付ける。
「んぅ……っんン……ぷはっ……下瀬……」
「ね、ベッド行きましょ。上条さんのこと、今すぐ、むちゃくちゃ欲しい」
息が苦しくなるくらいに深くキスして、口唇をそっと離した。上条さんの頬は薄っすら赤くなって、目元がとろんと蕩けてる。
「うん」と一言頷いた上条さんの腰を抱き、寝室まで連れてった。
ともだちにシェアしよう!

