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第24話 クリスマスイヴ

「四季さーん、しゃぶしゃぶ肉半額になってますよお。買っていーすか?」 「おー、半額で二千円? いーじゃん、買ってこ」  左手にレジカゴ引っ提げた乃亜が右手に牛しゃぶ肉のパックを持ち見せてきて、ウキウキした調子でカゴん中に肉を入れた。  本日水曜、クリスマスイブ。仕事を終えて、乃亜と一緒に俺の自宅近くのスーパーで今夜の鍋の買い出し中だ。 「何鍋にしますー? 肉が主役んなる鍋がいーっすねー」 「しゃぶしゃぶでいーんじゃん? 昆布だしでさ」 「いーっすねーお上品な感じ。そーしましょ!」  懐っこい笑みを向けられて、釣られて俺もふっと頬が緩む。かわいーな、っていうか、愛おしいな、とか思ったり。  乃亜と付き合い始めてひと月と少しが経つ。喧嘩をすることもなく、毎日が平穏に過ぎている。付き合い立てのラブラブと言えばラブラブな蜜月で、だけど付き合い方はそうキラキラせず、初めて一緒に過ごすクリスマスイブが家で鍋になるくらいには堅実で現実的だ。まあ、俺が鍋にしよって言ったからだけど。  レジカゴに入ってんのは、今入れたばっかの肉に、椎茸、長ネギ、水菜、白菜、人参。後は豆腐と卵を買えば良いだろう。家に戻れば日本酒の飲み比べセットが届いてる。熱燗にしてお猪口で軽く飲むつもり。買い物をさっと済ませ、買ったもんを俺の車の二列目シートに積み込んだ。俺が運転席に、乃亜が助手席に乗り込んで車を発進させる。 「なーんかクリスマス感ねーなぁ。クリスマスっつーか、もう年末感。一年早ぇ〜」  ハンドルを握って進行方向に顔を向けたまんま、そう口にした。今年は色んなことがあったなぁ、としみじみ思う。  一月に新店長になって、張り切って仕事して、五月に前の恋人に振られて、忘れるためにますます仕事に精出して、十一月に乃亜と付き合い始めて――で、現在。十一月からがやたら濃い。平和な毎日ではあんだけど。  まさか一ヶ月足らずで二度プロポーズされることになるとは思ってもみなかった。呆気に取られたまま頷いてしまったが、ちゃんと嬉しいから良しとする。  これまでは上手くいかなかったかもしれない。だけど、乃亜は元カレたちとは違うから大丈夫――なんて安心して信じきれるほどガキでもないけど、今度もダメかも、なんて不安がっても良いことねーし。ここまで積み重ねた不安はすぐに消えてくれるものじゃない。どれもこれも、乃亜から受けた傷じゃないことは分かってる。 「まだしみじみするには早いですって、今年終わるまで一週間ありますよ。今夜はケーキがあるじゃないっすか。それにとっておきのクリスマスプレゼントがもらえるし〜」 「……まあ〜、かわいー恋人の頼みだから買いはしたけど、あんま期待すんなよ。ガッカリすんぞ」 「ガッカリなんてするわけねーっすよ。はー、楽しみだな〜」  ニコニコと笑みを浮かべている乃亜に釘を刺したが、聞く耳持たずだ。クリスマスプレゼントに多大なる期待をされている。あんま期待されるとハードル上がってちょっと困る。  くだらねー話をしているうちにアパートの駐車場に辿り着き、一袋ずつレジ袋を持って自宅に向かう。 「ただいまでーす」 「はいはい、おかえりー」  玄関ドアを開けて中に入り、ただいまとおかえりを交わしながら廊下に上がった。手洗いだけして、ダイニングテーブルの上にクリスマスプレゼントとして乃亜から貰った卓上IHをセットする。二人キッチンに並び、食材を食べやすい大きさにカットしてボウルに入れていき、ボウルごとテーブルに運んだ。半額の牛しゃぶ肉はパックのまんまテーブルの上に置く。  これまた乃亜から貰った土鍋に水と昆布と酒を入れて卓上IHで煮立て、切った食材を土鍋に入れた。土鍋はクリスマス前にもう届いてたけど、折角だから最初に使うのは今日にしたいと思って、使うのは今日が初めてだ。  熱燗とお猪口の準備もオッケー、溶き卵の準備もオッケー。乃亜と向かい合ってテーブルに着き、鍋がぐつぐつ煮立ったところで火力を弱めた。自分のお猪口と乃亜のお猪口に熱燗を注いで、お猪口を肩くらいの高さまで持ち上げる。 「ほんじゃ、メリークリスマス」 「メリークリスマス!」  乾杯の挨拶をして、ぐびっと熱燗を喉に流し込んだ。かあっと喉が熱くなる。 「熱燗うまっ! クリスマス感ねーけど」 「いーじゃないすか、気持ちの問題っすよ、気持ち。高級フレンチに赤ワインーとかもいーっすけど、やっぱ何を食べるかより誰と食べるかが重要でしょ。クリスマスの日に四季さんと向かい合って二人で食事出来てんのが、俺からすりゃあ人生サイコーのクリスマスです」  幸せいっぱいです、って感じの顔で乃亜がへにゃーっと笑うもんだから、俺も釣られて頬が緩んだ。牛しゃぶを湯に潜らせ、溶き卵に付けて口に放り込む。 「いーこと言う。所長に呼ばれて気ぃ揉みながら食う高級しゃぶしゃぶより乃亜と食べる半額しゃぶしゃぶの方がうめーわ。いやまあこないだ所長と行った店美味かったんだけど」 「気ぃ揉んでも美味いもんは美味いっすからねー。でも半額肉も負けてないっしょ。半額でも黒毛和牛だし、何より愛がありますから」 「そーな、愛で肉が甘く感じる気ぃする」  バカップルらしく知能が低下した会話をしながらしゃぶしゃぶに箸を進めていく。野菜も出汁がよく染み込んでいて、少しポン酢をかけて食べるとさっぱりして美味い。 「やっぱ冬は鍋がいいよなー。楽だしあったまるし。コタツで鍋してえー。うちの部屋の雰囲気には合わねーか」 「オシャレなコタツもあんじゃないですか? でもコタツなんて置いたら、俺、四季さん家から帰れなくなっちゃいそ〜。ここに住んじゃダメっすかぁ?」 「引っ越すなら本社に申請上げねーと。住所同じだって気付くの本社の事務方だけだろーし別に良いけど、自分が世帯主になってねーと家賃補助出ないんじゃね? 同棲つーか、近くに住めば? 乃亜、今のアパート展示場から距離あんじゃん。隣のカップルが来月引っ越すっつってたから隣空くぞ」  そういや最初っから同棲したいみたいなこと言ってたなー、とか思い返しながらそう口にする。ウチに住んでも別に全然良いけど、1LDKでガチ同棲は荷物がキツそうだ。2LDKに越して一人分の補助しか受けられないよりは、近くの1LDKを二部屋の方が補助の恩恵を受けられて良い気がしなくもない。 「へー、隣空くんだ。マジで越してきてもいーすか? 隣の人結婚でもするんすか?」 「全然いーよ。隣同士で借りて行き来すりゃ広く使えんじゃん。そ、子ども出来たから入籍して、出産前に2LDKに越すんだってさ。お祝い言いつつ家建てる際は是非ウチでって名刺渡しといた」 「抜け目ねぇー。じゃー配置転換の発表出て中央展示場残留確定したら俺マジで隣に引っ越しますからね。冗談じゃないっすよ」 「わーってるって。乃亜のマジは本気のマジだって流石に学んだ」  目を見て軽く頷き、ちゃんと理解していることを示しておく。その場のノリで適当に言ってるワケじゃなく、乃亜のマジはガチのマジだ。さらさら〜っと水のように話が流れるから聞き流しそうになってしまうがマジで言っている。  さらさら澱みなく喋りつつ、ペロッと食事を終えて手早く片付けまで済ます。お互い風呂に入って寝支度を終え、あとはもう寝るだけだ。寝る前にまあ、やることやるんだけど。抱かれる準備もしっかり済ませたし。  そういうわけで俺は先に寝室に篭り、乃亜をリビングに閉め出している今である。 「四季さん、もう入っていーっすかー?」 「待っ……待って、やっぱ恥ずい」 「もー裸見てんだしヘーキですって、裸より服着てた方が恥ずかしいってあります?」 「あるよ、あるだろ、服ちぎれそう」 「腹括ってください。そもそも四季さん恥ずかしいの好きじゃないすかー。入りますよ?」  こいつ知った口聞きやがって。と思ったものの、辱められるのが嫌いだと言えば嘘になる。正直結構好きだからぐうの音も出ない。ガチャッと寝室のドアが開く音に反応してビクッと身体が跳ねた。

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