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第32話 THE ONE

 なんか眠りが浅かったみたいで、アラーム鳴るより早くカーテンの隙間から差し込む朝日で自然と目が覚めた。四季さんはまだ隣でスヤスヤ眠ってる。  俺らが泊まった部屋は、一階のリビング抜けた先の短い廊下の、右のドア開けた先の北東角の洋室。シングルベッドが二つ置かれてて、帰省の際はここかリビング横の和室で寝ているらしい。折角ベッドが二つあるのに、ぎゅうぎゅうにくっついて一つのベッドで一緒に寝ちゃったから、ちょっと寝違えた感じがする。  まあご実家だし元々エッチする気はなかったけど、昨夜はエロいこと考えるような暇もなくただ話してた。時々ハグしたりキスしたりとかはしてたけど。  充電に繋げたタブレットを床からひょいと手に取って開くと、話しながらに取ったメモの画面がパッと映る。仕事でも使ってるタブレットとタッチペンを俺が持参してきてたから、あーだこーだ話しながらここにメモを取っていた。PDFで保存して四季さんにも送信済みだ。  メモ書きの一ページ目は、名前を書いた下に自分が思ってることを箇条書きにしてあって、その横に相手からの所感が添えられてる感じ。 『■乃亜  ・俺じゃなくても良かったんじゃねーかって凹む←ちゃんとめっちゃ好き。特別。乃亜じゃなきゃダメ。  ・釣り合ってないんじゃねーかって引け目感じる←俺は隣に乃亜が居てほしい。そのまんまの乃亜が好きだし、自分より劣ってるとか思ってない。  ・俺が本気で好きになったのは四季さんしか居ないのに四季さんは今までも沢山ちゃんと恋愛してるから思いに差がある気がする←過ぎた話。今恋愛的に好きなのは乃亜だけ。今とこれからを大事にしたい』  表示されてる一部分を読んだだけでも胸がぎゅーっとする。何か思っても、これ読めば解決するみたいな。議事録の形をした基本のキのマニュアルみたい。そのままスクロールしていくと、お互い書いた相手の好きなところが表示された。 『四季→乃亜』と書かれている部分に視線を這わせる。 『丸ごとそのまんま全部好き。正直言うと元々見た目がタイプ。社内恋愛無し派だから本気で付き合いたいとかは思ってなかったけど、付き合う前からいーなとは思ってた。もち見た目だけじゃなくて中身が好き。一生懸命なとこが好き。基本前向き。懐っこくて可愛い。気が優しい。明るい。いつも笑ってる。一緒に居ると楽しい。俺の意見を尊重して大事にしてくれる。色んなこと一緒に楽しんだり喜んだり共有してくれる。へらーっとして軽く見えんのにクソ真面目。誠実で正直で素直。好きだって繰り返し伝えてくれる。あとエッチが上手い。エッチの時ねちっこくてちょっと意地悪なとこもあるけどそれが好き。きもちい』  読みながら、小さく息を吐く。じわじわ心が温まる。  一番下には、お互い所感を一言添えた。 『四季さんのこと好きになってから、結構面倒臭くてジメジメしてて重いって自覚した。なんか凹みそうな時は、凹みそうって自己申告する。自己完結しない』ってのが俺の所感。  四季さんの所感には『未来の不安が過ぎったりして、穿ちすぎてたし、気遣いすぎてたと思う。話し合って安心できた。それでももし何か不安を抱いた時は、乃亜に不安じゃないかとか訊くんじゃなくて、自分の気持ちを伝える』って書いてある。 「印刷して額に飾りてぇー……」  独り言を呟いて、まだ眠ってる四季さんの顔をじっと眺めた。  誰かのことが特別好きって、変な気持ちだ。この世界には星の数ほど人が居て、無数の選択肢があるはずなのに、そん中のたった一人、四季さんだけが俺のTHE ONE。  タブレットの上部に小さく表示されてる現在時刻は六時五十八分。ほんとに日が出てすぐの時間だ。四季さんは『早く家帰って二人で過ごしてーし、早く起きてさっさとスツール作り行こ』って言ってたし、だから七時には起きようって話してたからちょうど良い。 「……四季さーん。朝ですよー。起きてー」  同じ布団に潜ったまんま、四季さんの眉下まで落っこちてるセットされてない前髪を指で横に分けながら声を掛けた。嫌そうに四季さんの眉間に皺が寄る。夜遅かったし、まだ眠いんだろう。かわいーなって目を細めて、皺が寄った眉間を親指ですりっと撫でた。 「ね、朝ごはん食べて、スツール作りに行きましょー」 「んー……まだアラーム鳴ってねーだろー……今何時……」 「六時五十九分。あと一分でアラーム鳴りますよー」 「うぐ……おもいー……」  四季さんの身体の上にのしかかってみると、苦しげな声が返ってくる。まだ目を開ける気は無さそうで、眉間には皺が寄ったまんまだ。四季さんは毎日キッチリ早起きしたいタイプに見えて、意外とダラダラ寝んのも好きなタイプ。付き合ってから知った。背中に腕が回され抱き寄せられて、四季さんの肩に俺の顎が、俺の肩に四季さんの顎がくっつく。 「乃亜布団あったけー」 「んね、重いけどあったかくて最高っしょ? でも早く起きましょーよー、ほらー、アラーム鳴っちゃった」 「やーだ、もーちょっと寝る」  四季さんの頬に頬くっつけて、耳にチュッと軽くキスする。四季さんは目閉じたまんまアラームが鳴る方に手を伸ばして、スマホのアラーム止めちゃった。 「えー、せめて歯磨きだけしに行きません? チューしたいー」 「んー、そう言われるとまあ、起きるかあー……リビング行かんで歯磨きだけしたら即部屋戻っからな。俺の親に捕まんじゃねーぞ」 「俺は四季さんのご両親とお話したいっすけどねー」 「大工しながら話せんだろ。ふぁ〜……、ねむ……」  俺の肩口にぐりぐり顔埋めた後、四季さんはチュッと俺の頬に軽くキスをする。そんでうとうとした目が薄く開いて、ニーッと笑った。胸がぎゅうーっとする。 「……おはよ」 「んへへ……おはよーございます」  照れ照れデレーっとしながら挨拶返して迎えた今年最終日の朝。今年のことは今年のうちに。不安なんて全部どっか消し飛んで、ハッピーしかない年の瀬だ。  これから何があっても、絶対に大丈夫。てか、これまでだって何が何でもずーっと好きなまんまだし。 「うあー、今すぐ歯磨きしてぇ〜……早く行きましょ」 「ふはっ、歯磨きが隠語みてえになってるな。んー、歯磨きしよ」  お互いベッドから足を下ろして立ち上がる。肩並べてするっと四季さんの腰を抱くと、ペシッと手を軽く叩かれた。 「こら。イチャイチャは部屋ん中だけ。腰抱いたまま移動NG」 「分かってますよぉ。ドア開けるまでのちっとの間でも俺はくっつきたいんですぅ〜」 「俺だって思う存分くっつきてーよ。もうさっさと帰りてぇー」 「えへ、帰ったらイチャイチャしましょーね」  たまにしか会えないご両親より、毎日会える俺と二人で過ごしたいって言ってくれんの嬉しい。野球部の飲み会行った時の俺みたい。四季さんの帰りたいは、ご両親に対して照れ臭いからって理由が八割くらいな感じもするけど。  洗面所行って、顔洗って歯磨きして、部屋戻って、口にチューして、エロいことはナシでくっついて、満足したところでリビングに向かう。お母さんがご飯用意してくれてて、お父さんはもう外でスツール作る準備してたけど、戻ってきて四人で朝メシ食べた。  四季さんのちっさい頃の話とか聞きながら大工体験して、四季さんが作った売り物みたいに綺麗なスツールと、まあ頑張ったんじゃんって感じの俺が作ったスツールを車に積んで、夕方頃に東京に帰ったのだった。

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