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第33話 良い歳して何やってんだか
「はぁー、ただいまー。狭ぇけどやっぱ自宅が落ち着く……」
「言うて俺の部屋の倍は広いじゃねーっすか。おかえりなさーい。アンドただいまー」
お互い大荷物を抱えて俺の自宅アパートに到着した。乃亜のスノボセットは車に積んだまんま、俺のスノボセットと互いの手荷物、あとは父さん指導の元で作ってきたスツールを玄関にドサドサ置いた。
夕飯を食べてくようにせっつかれて早めの夕飯を十七時手前にもらい、十八時頃に家を出て、現在時刻は二十時半だ。普段高速使って実家から車で二時間弱のところ、年末でちょい混んでたから二時間半くらいかかった感じ。
「もー荷物片すのは後にしよ。シャワー浴びるわ。特番でも観てて」
「んえ、スツール作った後に汚れたからって一緒に風呂入ったじゃねーすか。もっぺん俺も入った方がいい?」
「乃亜は別に入らんでいーよ。歯磨きの先までするだろ? って話。てっきり帰ったらすぐするもんかと……じゃなくて、俺がしたいからしよ。から、準備してくるわ」
廊下に上がって乃亜を見上げると、言わんとしていることに気付いたらしく、ふにゃっとしたいつもの笑みが返ってきた。
「しまぁす! てか、したいっす! 爪切っとこーっと」
「あーね。じゃ、さっさと入ってくるから――ん……」
荷物置きまくった狭い玄関で抱き寄せられて、口唇がちゅうっと吸われる。そのまんま舌が入り込んできたから、広い背中に腕を回した。求められるまま求め返して、しばらく耽った後に名残惜しく舌が離れる。
「……えへ。良い子で待ってまーす」
「ん、すぐ戻る」
嬉しそうな乃亜の頬を撫でて、目を細めた。離れがたいけど、もっとくっつきたいからシャワーに向かう。準備無しで即出来たらいーのに、とも思う。けど、準備するのはそんなに嫌いじゃない。今から抱かれるんだなー、って自覚して、エッチの前からじわじわ温まる感じが好き。そうは言いつつ、急いじゃうんだけどさ。
しっかり準備を済ませて、上は着ていたトレーナー、下はパンイチ姿でリビングの扉を開けた。ソファに座って歌番組を観ていたらしい乃亜がこっちを振り向き、笑みを浮かべる。
「ちょーどリステの出番すよー。やっぱ四季さんシゲと顔似てますねー。四季さんの方がかわいーけど」
「シゲと似てるは聞き飽きてるー。好きな歌手とか出る?」
そう訊きつつ乃亜の隣に腰掛ける。テレビ画面の中では、男性デュオアイドルのリステージが歌ってた。特別好きというわけではないものの、職場の飲み会じゃ毎回歌わされるから聞いちゃいる。腰に手が回されて軽く抱き寄せられた。肩に乃亜の頭が寄っかかる。
「んー、特には。そも、これ好きって思う曲はあるけど、その歌手の曲全部好きーとか、誰が好きーとか無いし。最近推し活とか聞くけど俺的にはマジで謎……四季さんは推しとはちげーもんなー」
「ナナがめっちゃアニメのキャラにハマって推し活してるわ。まあーリスペクトみたいなもんじゃね? 俺らがメジャーリーガーとかサッカー選手好きなのと似たようなさあ。俺もあんま分かんねーけど」
「ああ、そんなら分かるかも。ちっせー頃は好きなバッターのホームランの録画繰り返し観てた。あれが今で言うところの推しかあー」
乃亜の頭に手を置き、手慰みに髪を撫でる。トレーナーの裾から乃亜の手が入ってきて、脇腹に指先が触れた。
「ん……、そーだ、シャワー出たらナナからメッセ届いててさ。なんで私が帰る頃まで居てくれないのーって怒ってた。乃亜のこと見たかったらしい。写真送っていい?」
「もち、喜んで。ナナちゃん俺も会ってみたかったなー。てか俺らマジで一緒に写真撮らなくねーっすか? スノボでも撮んなかったし。今一緒に撮って送りましょーよ」
「ええー、家で並んで写真撮んのぉ? ナナ、ぜってー姉ちゃんとかに見せて回るから嫌すぎ……恥ずいって意味で。ナナに送るのは乃亜単体にして、一緒に撮る写真は送んねーなら可」
そういや乃亜から写真撮りたいって言われたのに未だにツーショで撮ってねえなと思い返した。別に写真はさして好きじゃないけど、明確に形に残るものを増やすってのは良いかもしれない。昨夜の議事録みてーなメモも、完成したときゃ乃亜がめちゃくちゃ喜んでたから。
「りょーかいっす。じゃー先俺ピンで撮ってください」
「外カメで撮るからちょい離れて。撮るぞー」
ちょっと身体を引いて、くしゃっと笑った乃亜をパシャパシャ撮った。適当に十枚ほど撮ったから、順番に表示するとコマ送りみたいで面白い。全部よく撮れてる。なんかこう、俺のこと大好きーみたいないつもの顔。
「単体でも俺が撮るとなんか恥ずいな……まあ、これナナに送っとく。インカメにするから、今度は寄って」
「はーい、俺が撮りまーす」
乃亜はそう言うと、俺に寄ってスマホをパッと取る。インカメでお互い画面の方向いて、カシャカシャ乃亜がシャッター切りながら俺の方向いて、不意打ちで頬にキス。吹き出して乃亜の方向くと、口唇にキスされてまたシャッター音。含み笑いしながら目を閉じて、今度は不意打ちじゃなくてちゃんとキスした。最後にカシャッと音が鳴って、目を開ける。
「ふはっ! 良い歳して何やってんだか」
「たまにはいーじゃないっすか。大晦日だし」
「それ関係あるかぁ?」
「あるある。今年のうちに写真撮れてよかったー。俺のスマホにも送りまーす」
乃亜は今撮った写真をバーッと選択して自分のスマホに送り、俺にひょいっとスマホを手渡した。付けっぱなしのテレビではいつの間にかリステの出番が終わっていて、次の歌手が歌ってる。
「……乃亜、テレビまだ観る? 消していい?」
「消していーすよ。電気も消しちゃお」
乃亜がリモコンでテレビを消して、俺の手を引いて立ち上がる。
くつくつ喉鳴らして笑いながら寝室のドア開けて、代わりにリビングの電気を消した。
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