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第35話 今年もよろしくどーぞ

「うお、カウントダウン始まった。ほんとに今年も終わりだなー」  速攻で蕎麦を食べ終え、乃亜と肩を並べてソファに腰掛けてテレビを見ていると、カウントダウンが始まった。  長いようで短くてギュッと濃かった今年も、もうあと五秒経てば終わりだ。 「ですねー。よん、さん、にー、いち……ハッピーニューイヤー! 四季さん、明けましておめでとうございまーす!」 「明けましておめでとー。今年もよろしくどーぞ」 「不束者ですが、末永ーくよろしくお願いします!」 「おー、末長くよろしくな」  目をキラッキラ輝かせて笑みを浮かべる乃亜に、ふっと笑ってそう返す。チュッと軽いキスが口唇に落とされた。 「ふへ、新年初チュー。楽しい一年にしましょーね」 「そーな。今年何したい?」  嬉しそうな乃亜に向け、小首を傾げて問い掛けた。テレビでは新年祝いで賑やかな音が流れてる。 「したいことっつーか確定っすけど、スノボ旅行行って、引っ越しして、四季さんの誕生日祝って、クリスマスには温泉旅行。仕事もバリバリ頑張って、店長なんのに必要な資格取って、目標はでっかく年間契約二十棟獲得で。あとは、どっかのタイミングで最高のプロポーズを決める!」 「ふはっ、忙しねえー。けどま、乃亜なら出来そう。仕事の場じゃ依怙贔屓になるような特別扱いはしねーけど、俺に出来ることは協力するよ。仕事もプラべも充実した一年にしよーな」  拳をグッと握ってやる気満々な乃亜の調子に噴き出した。年明け早々メラメラと大志に燃えているらしい。 「四季さんが協力してくれりゃー百人力っす。四季さんは今年何したいっすか?」 「そぉなぁ〜。まずは、今年もバリバリ仕事頑張るわ。もし今後会社にカミングアウトするってなった時、付き合ったことで相乗効果が出たんだなーって思われてーし、東京一位も維持してーし。目標は……二十四棟にしとこ。月二件ペースで」  ガッチリした肩にコツンと頭を凭れて、背伸び気味の目標を口にした。全国一位までは届かんけど、二十四取れば本当にほんの一握りのトップクラスだ。  営業は数字至上主義。契約取りゃ取っただけデカいツラ出来る。ザ体育会系のノンケの巣窟だろうと、成果出して全部捩じ伏せちゃる。勿論取るだけ取って終わりじゃなくて、アフターフォローも万全に。 「なんかこう……四季さんが俺との将来のために、自分に出来るベストを考えて尽くそうとしてくれんの、カンムリョーっす……」 「乃亜もそうだろ。乃亜がそうだから、俺も頑張って上目指そって思えんの。あーあと、入籍旅行に向けて英会話勉強したいな。教科書で習わんタイプの英語の表現がサッパリ分からん」 「えっ、そしたら一日五分とかでいーんで俺と英語で喋んのどーすか? いくらでも練習付き合います!」 「いーな、それ。付き合ってくれたら嬉しい」  乃亜はジーンとした調子から、パッと顔を綻ばせて笑う。英語で喋るの強いられんの嫌じゃねえかなー、とかちょっと頭を掠めたけど、素直に喜んでるとこに水を差さなくても良いだろう。 「俺、四季さんには何でも教えてもらってばっかだから。俺が教えられんの嬉しーっす。親に感謝」 「んぇー、そうかぁ? 俺、乃亜に色々教えてもらってると思うけど。んじゃ明日、てか今日から教えてもらおっかな。とりあえず、今は歯磨きしてさっさと寝て、起きれたら初日の出」  笑いながら『親に感謝』って言葉が乃亜の口からポロっと出たのが、ちょっと嬉しい。乃亜がそう思えたんなら良かったなって、それだけ。 「俺が四季さんに教えたことなんかあったっけ? てーか起きれたらって、ちょっと起きる自信無くなっちゃってるじゃねーすか。俺頑張って起きて叩き起こすから、頑張って多摩湖まで行きましょーよ」 「自分で気付いてねーだけで、乃亜から教わったこといっぱいあるよ。歯磨きしよーって起こしてくれたら起きれっかもー」 「そうかなぁ? そうだったらうれしーっす。六時までには起きて歯磨きしましょーね。そんで、今はフツーの歯磨きをしに行きましょっか」 「ふはっ! 他人に聞かれたらこの会話マジで謎だなー」  思わず噴き出して笑い、ソファから立ち上がって、肩を並べてリビングの扉まで歩いてく。  乃亜に教えてもらったこと、沢山あると思う。例えば、幸せとか?  もう何も不安ない。とか言えない。一緒に居れば、ぶつかることもあるだろうし。けど、大丈夫だなって思える。思うことが違っても、なんか不安に思っても、分かんなくても、ちゃんと擦り合わせが出来るから。  楽しみな予定が詰め込まれてる今年一年が楽しみで、今年を過ごすうちに、また来年の楽しみが増えていくんだろう。楽しみな未来の約束に追い付いても、その先にもまた未来の約束があって、追い付いて、そんな繰り返しが乃亜となら出来ると思う。  洗面所でフツーの歯磨きをして、二人で並んで寝られるサイズのベッドにぎゅっとくっついて、教えてもらった幸せを噛み締めながら眠りに就いた。

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