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番外編①甘夏日和#1
「おっ、甘夏安い」
仕事上がり、近所のマルエツにて。百五十円の値札が付いた一袋三個入りの甘夏が目に留まり、思わず手に取った。俺が立ち止まったことで、斜め後ろを歩いていた乃亜の二の腕が肩にトンと触れる。
「甘夏良いっすね。季節の果物って感じ」
「そーな。剥くのめんどくせーけど、結構好き。買ってこ。あ、茄子も安いじゃん。んー、家に挽肉あったよな……今日は麻婆茄子にすっか」
「うおっ、麻婆茄子大好物っす! めっちゃ嬉しい!」
乃亜は大袈裟なくらい声を弾ませ、心底嬉しそうにキラキラした笑顔を浮かべた。
付き合ったのが去年の十一月。今年の二月に乃亜が隣の部屋に越してきて、現在五月。付き合って半年経っても麻婆茄子程度でこんな風に喜んでくれるわけで、そりゃもう目に入れても痛くない。だとか思ってしまう自分に呆れる。甘夏と茄子をレジカゴに入れつつ目を細め、肩を竦めた。乃亜は前髪が眉より短いから、笑った目元がよく見えて好きだ。
「逆に嫌いなもんあんの? おまえの口から『大好物っす!』しか聞いたことねぇー」
「四季さんが作ってくれんならなんでも大好物っすよ。嫌いなものは……んー……強いて言えば、甘いサンドイッチすね」
「へえ、意外。普段フツーに甘いもん食べてるじゃん」
「甘いもんは嫌いじゃないすよ。パンケーキとかも食べるし。でも、甘いサンドイッチはニガテ。つか、ピーナッツバターが苦手なのかも。小学生の頃、学校側で毎日弁当が用意されてたんすけど、その弁当にピーナッツバター&ジェリーっつうピーナッツバターとジャムのサンドイッチがたまに入っててさー」
タイムセールの商品もほぼ狩り尽くされたひと気の少ない店内を話しながら歩いていく。付け合わせの中華スープ用として、レジカゴに長ネギを追加した。
定時前に直帰出来るような日もあるっちゃあるが、今日も少々居残り残業だった。今年の藤原ハウス中央展示場、及び俺と乃亜の営業成績は絶好調だが、契約を取れば取るほど仕事は増えるわけで、まあ忙しい。今から帰ったら二十時半で、食事にありつけんのは二十一時だ。遅い時間の夕飯だし軽めで良いだろう。
「インターって給食じゃなくて弁当なん?」
「俺が通ってたとこはね。ピーナッツバター&ジェリーって小学生の人気メニューなんすけど、俺は当時から口ん中がジャリジャリする感じが嫌で。砂糖食ってるみたいな感じなんすよ。今でもニガテ」
思い浮かべたのはピーナッツバター&ジェリーの甘い味なのだろうが、乃亜は「べ」と少し舌を出して顔を苦くした。ふとした時に聞く乃亜の昔話は、俺の子どもの頃とは全く違う。だから俺は聞くのが結構好きだ。
「あー、アメリカのピーナッツバターってジャリジャリするもんな。甘いサンドイッチは普通に好きだけど、俺も甘ったるすぎんのはキツい。歳だなー」
「歳って言うけど、四季さん若いじゃん。お肌スベスベだし、髪綺麗だし、顔もかわいーし、エッチの時も……イテッ」
「マルエツ来れなくなんだろが。外でバカ言うな」
周りにひと気はなかったが、口を尖らせて乃亜の手の甲をぎゅっと抓る。へらっとした顔で「すんません」と笑われて、肘で小突いて肩を竦めた。
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