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番外編①甘夏日和#2

「ご馳走様でしたー。やっぱ四季さんが作ってくれたらなーんでも美味い!」 「あーはい、どーもね。乃亜はなーんでも美味い美味いって食べてくれるから作り甲斐あるわ」  食事を終えて対面で笑みを浮かべる乃亜を眺め、釣られて笑った。本日の献立は予定通り麻婆茄子と、長ネギと卵の中華スープ。あとは白米をお茶碗に軽く一杯。  軽い夕飯だったから俺もぺろっと食べ終えて、椅子を引いて立ち上がる。俺が皿を卓上食洗機に並べていき、乃亜はその横でフライパンやら食洗機に入りきらない調理器具を洗い始めた。  料理をする前に部屋着に着替えはしたものの、風呂はこれからだ。明日は休み、とくれば寝る前にやることはひとつな訳で、さっさと風呂に入りたい。が、そういえば、と思い立ち手を止めた。   「そだ、食洗機回す前に甘夏剥いちゃお。洗いもん増えるし。乃亜も食べるよな?」  食洗機のボタンを押す前に甘夏の存在を思い出し、スタートボタンを押すのは止めにして冷蔵庫の扉を開ける。買った三個全部剥いてしまうことにして、袋ごと甘夏を取り出した。 「食べまっす! 家で甘夏食べんのなんて何年ぶりだろー」 「えーそんな久々? 俺はわりと毎年買ってるけどなー。まあ独身の男ってあんま家で果物食べようとか思わねーか」  そう返しながら、去年の春が頭に過ぎった。まだ元カレと付き合っていた頃で、食後に甘夏を出したなぁという記憶がある。一昨年の春も同じ元カレと。その前の春は記憶がないが、別の元カレとも食べた覚えがある。  思い返してみると、一人の時は食べていないかもなと気が付いた。剥くのが面倒臭いから、一人で食べようとはならないわけで。毎度恋人の分も俺が剥いてたから、手間は二倍になってんだけど。甘夏と言うくせ苦い記憶だ。     喜ばせたくて、ついやっちゃうんだよな。でも俺がやって当たり前みたいになって、手伝ってくれることもなく、感謝されることもなく。甘夏だけの話じゃないが。思い返せばダメ彼氏製造機だったなと自省した。そんな尽くし癖を変えたかったものの、結局この春もこうして甘夏を剥いている。 「こーいうのって皮洗うもんすか? 洗います?」 「おー、ついでに洗って。実家では洗ってから剥いてたから洗ってる」  調理器具を洗い終えた乃亜から手のひらを上向けて聞かれ、その手にポンと甘夏をひとつ手渡した。乃亜は「了解っす」と笑い甘夏を丸ごと水洗いして、キッチンの作業台部分に置いたまな板にひとつ、ふたつと洗ったそばから甘夏を置いていく。それに俺が包丁で切り込みを入れ、硬い皮を手で剥き始める。 「甘夏ってさあ、デカいように見えて案外可食部分少なくね? 一個剥いてこんだけにしかならないのかよ、みたいな。ミカンみたいに手だけじゃ剥けないし。でも、めんどくせーけど好きなんだよなー」 「そーなんすか? 自分で剥いたことないから知らなかったなー。食べる時って剥いた状態で出てきてたし」  皮を剥いてはシンクの三角コーナーに捨てていく。乃亜は三個目の甘夏を俎板に置いて、包丁で切り込みを入れた。包丁を置いて、乃亜も甘夏の皮を剥き始める。   「よっ、色男。彼女にやらせてきたわけだ」   「うわ、四季さん意地悪ぃ~。それはまあ、実際そーなんすけど。ほら、野球の練習とか試合の時、タッパーに詰めて持ってきてくれるんすよね。甘夏剥いて砂糖まぶしたやつー」 「ほらなー。ま、俺も高校生の頃は彼女にそういうのもらってたし、昔の話だし良いけどさ。高校生の頃って何年前だよっつう……はー、やっぱ歳取ったわ」  過去は過去。会社の草野球に乃亜が彼女を連れてきたなんて話は聞いたことねーから、社会人になる前の話だろう。とは言え、ピーナッツ&ジェリーのジャリジャリは嫌でも元カノが砂糖まぶした甘夏なら食べるのか、と頭に過ぎって少し焼ける。自分から弄ったくせになんだか面白くなくて、しれっと話を変えた。    「う、高校生の頃とは言えちょっと焼ける……俺の元カノの話聞いても四季さんはケロッとしてんのに~……。まっ、俺は四季さんの超絶可愛い恋人な今カレなんで、元カレだろうが元カノだろうが気にしないっすけど! 過去は俺との今のハッピーに繋がる糧! 四季さん俺のこと大好きっすもんね!」  乃亜は苦い顔をした後、悪戯っぽく目を細めて口角を上げた。  いやいや、俺もちょっと焼いたし。つーか、おまえも大概俺のこと大好きだな。とか思ったら一転面白くなってきて、ついつい噴き出して笑みが溢れた。 「ふはっ! まあ、そうな。乃亜に心底惚れてるから余所見する気はさらさらねーよ。面倒臭くても甘夏剥いて出してやろうとか、そういう風に思うくらいには好き。カニの身だって取ってやるし、魚の骨だって抜いてやる」 「なーんかそれ、ガキ扱いっぽくねーすかぁ? 別の意味で甘やかしてほしいなぁ~ 。甘夏剥くのも、カニの身取るのも、魚の骨抜くのも、全部俺がやるからさ」  乃亜は少し口を尖らせて、冗談めかすように笑った。いくらでも手間暇掛けたいし、面倒なことでもやってやりたい。つー意味で伝えたつもりだったが、ガキ扱いと捉えられたらしい。 「んー、甘夏は二人で剥いた方が早く終わるし、手伝ってくれたら嬉しいけど。別の意味の甘やかしって、例えばどんな?」  外皮を剥いた甘夏をペリペリ剥がして一房ずつに分けていき、上部を包丁で切って丁寧に薄皮を取りつつ問い掛ける。   面倒臭いとは思うけど、代わりにやってほしいわけじゃねーんだよな。それを言ったら、乃亜の方だってやってほしいと思っちゃないだろうけど。 「そおっすねぇ〜、例えば……大好きって言ってチューしてくれるとか? それだけで俺、なんでもしちゃいますよ。片付け掃除洗濯炊事、なーんでも言うこと聞いちゃう」 「やっすい奴。そんなんでいーの?」  可愛らしい甘えたに、喉を鳴らしてククッと笑った。  恋人とキッチンで隣り合って、一緒に甘夏を剥く。なんてそんなのは初めてで、だからちょっとこそばゆくて、だけど嬉しい。  ついつい世話を焼きたがる俺に対して、世話を焼き返そうとしてくるっつーか。俺がやって当たり前にしないで、一緒にやってくれたり、いちいち大袈裟に喜んだり。乃亜のそういうところが、すごく好き。 「ええーっ、じゃあ、もうちょい欲張っちゃっていいっすか? 先に言い訳したいんすけど、恥ずかしがる四季さんが見たいなーっていうのがあってぇ……なんで、またミニスカサンタみたいな服着てほしいっす」 「おまえ、そういうの好きだなぁ……。んー、まあ、乃亜が好きなの買っといて。そんくらいで喜んでくれんなら着るし……脱がせるのは乃亜がやってな」  オッサン臭い願望になって少し呆れ、肩を竦める。まあ、正直全然、嫌いじゃないけど。俺もエロいことすんの好きだし。  ぱちっと目が合い、少し笑って、薄皮まで剥いて器に入れた甘夏をひとつ摘んで乃亜の口唇にくっつける。乃亜は少し目を丸くした後、俺の指ごと甘夏に食い付いた。指を舐められて擽ったい。 「四季さぁん、この甘夏、砂糖まぶさなくてもむっちゃ甘いっすよ。そもそも俺は砂糖まぶさない方が好きなんすけど。いっこ食べちゃおっと」 「やっぱりピーナッツバターだけじゃなくて、ジャリジャリしたのが嫌なんじゃね? んじゃ俺もひとつ味見……」  乃亜は俺の指から口を離し、甘夏をもうひとつ自分の口に放り込む。砂糖をまぶした甘夏のエピソードを思い浮かべつつ、俺もひとつ味見しようとしたら、悪戯っぽく細めた目で覗き込まれた。そのまま顔が近付いて、口唇がそっと触れる。 「んむっ……はぁ……ン……ッ」  舌が口唇を割り入って、口移しで甘夏が運び込まれた。甘酸っぱい味が咥内にじゅわっと広がる。お互い手が甘夏の果汁でベトベトで使えなく、深いキスはし辛くて、咥内の甘夏を転がすように軽いキスで戯れついた。 「ふっ……くくっ……あはっ!」  擽ったさに笑ってしまい、口唇を離して乃亜を見上げた。咥内に入りっぱなしの甘夏を奥歯で噛んで、ごくりと飲み込む。 「んーっとに甘いな。早く全部剥いちゃお。手がベトベトのままじゃ、チューしづらいし?」  甘夏で濡れた手で乃亜の口唇をふにっと撫でると、指を咥えられて舐められた。舐め方が露骨にエロい。もう完全にその気になってんなって感じ。俺も分かって煽ってんだけど。 「……もー、ムラムラさせないでくださいよぉ。残り全部俺が剥くから、四季さんは手ぇ洗ってチューしてください」 「二人でやった方が早く終わるだろ〜。早く終わらせて、食べたらシャワーして、ベッドでチューしよ。あー、その前にドンキにコスプレ買い行く? 明日休みだし」 「すっげぇ、特大の甘やかしだ。俺って超愛されてる〜……」 「ん、超愛してるよ。マジな話。しかしドンキは原と出会しかねないか……? あいつ何もかもドンキで買ってるからなー……」 「うぇっ、突然の原ブロック。まあマジで原居そうっすけど……まずドンキ行ってから駐車場で原に電話かけてどこに居るか確認すんのどーすか? 今何してんの〜つって」  くつくつ笑って、取り留めなく喋りながら甘夏を剥いていく。  時々ちょっかい掛けられては俺からもふざけ返して、全部剥き終え、ベタベタになった手をさっぱり洗った。 「よっしゃ終わりー。やっぱ二人で剥くと早く終わるな」 「そっすね。これで思う存分チュー出来る」  洗ったばかりで冷やっとした乃亜の右手が頬に触れた。にーっと悪戯に細めた目で覗き込まれ、左手も頬に添えられて、両手で頬を包まれる。顔が近付いて、下口唇を軽く食まれた。小さく出した舌で上下の口唇の間をなぞるように這わされていく。自然と口が開き、咥内に舌が押し入ってきた。 「ん……んぅ……ン……」  乃亜の背に腕を回し、ゆっくり瞼を閉じていく。後ろ髪を梳くように右手で頭を撫でて、甘えて絡まる舌に舌を絡め返した。  ぐい、と両足の間に膝を押し込まれ、もっと身体がぴったりくっつく。これ以上はちょっとマズい。いや、良いんだけど。 「ぷはっ……こーら。今食べる? それとも後にする?」 「四季さんを?」 「甘夏の話ですー。食後のデザートにと思ったけど、ラップしてキンキンに冷やしといて、運動した後に食べても良いな」 「じゃ、運動後のお楽しみで。運動してクエン酸摂って寝るって、爽やかで健全で良いっすね〜」  俺より少し背が高い乃亜を見上げて、揶揄うように目を細める。悪戯っぽい笑みを返されて、ちゅ、と俺から口付けた。 「……どーする? コスプレがいい?」 「んや、もう買いに行く時間も待てない。から、今日は四季さんが好きなやつでどーすか? 目隠し拘束プレイ」 「良いけど、爽やかでも健全でもないプレイだな……」  コスプレも爽やかでも健全でもないけど。顔を見合わせて噴き出して、どちらからともなく口唇を重ねた。

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