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「ちょっと待ってろ。ああ、あったあった! 一之宮紫月(いちのみや しづき)、こいつだ!」  誰かがパソコンを開き、事務所のモデルリストをスクロールしながら雄叫びを上げる。と同時に、その周りは黒山の人だかりと化した。 「ちょっと! 見えねえって!」 「頭退けろよ!」 「前にいるヤツ、しゃがんで画面見せろって!」  わいのわいのと組んず解れつの大騒ぎである。 「一之宮紫月(いちのみや しづき)、公式名は――こいつも鐘崎(かねさき)さんと一緒でローマ字表記のShizuki(シヅキ)で登録されてるみてえだぜ。キャリアはーっと……なんだ、案外いい線いってんじゃん。レベル・エイトだと!」  十段階中の八ならベテランの類だ。いずれはトップモデルが確約される立場といえる。 「ふぅん? キャリアは……まあまあってところだな」 「でもShizuki(シヅキ)なんて名前、聞いたことないし! そいつってどんな仕事やってんのよ!」 「そう急かすなって。今調べてる!」  パソコンを操作している男が目を皿のようにして一之宮紫月(いちのみや しづき)の経歴と各界から寄せられたレビューを読み上げる。 「えーっと、なになに? 歳は二十七。ってコトは鐘崎(かねさき)さんの三コ下だな。主な仕事は雑誌のモデルみてえだぜ。モードからコンサバまで卒なくこなしー、何を着せても似合ってしまうオールマイティな活躍ぶりで、女性顔負けと言えるほどの美貌。特筆すべきは真珠の如く麗しき美肌の持ち主! その美麗な容姿からキング・オブ・ドールと呼ばれている……だってよ」 「キング・オブ・ドールだぁ?」 「なにそれ! ワケ分かんね!」  男たちがざわつきを見せる中、彼のポートレートをクリックした瞬間に場が静まり返った。 「うわ……ッ、すっげ……!」 「……ウチの事務所にこんなヤツいたんだ……?」  画面に映っていたのはレビュー通りケチのつけようがない美麗な男のショット、しかも着る服によってガラリと雰囲気を変えている。凄味のある男臭さの中にも色香漂うショットからは、図らずも奇妙な欲情をくすぐられるような気にさえさせられる。ダークなスーツのジャケットを素肌に纏い、手にしたシルクハットから垣間見える視線はある意味挑発的であるものの、ドキりとさせられるのは確かだ。女性ならばほぼ満場一致で惹かれるだろう男前である。と同時に、同性には自分もこんな服を着てこんな雰囲気の男になりたいという憧れをそそり、ともすれば性的な意味で組み敷いてみたいとさえ思わせるアダルトギリギリの艶めかしいショットといえる。  かと思えば、次のページに出てきたのは今のダークアダルトな雰囲気とは真逆で、純粋無垢な球体関節人形を連想させられるような一枚だった。白いシフォンのブラウスにはふんだんに使われたフリルとラインストーンが散りばめられており、大人の男にはおおよそ似合わないような服だが、これまたそそられるショットに違いない。なんと言おうか、例えば秘密の部屋に鍵を掛けて、誰にも知られないように飾って眺めていたい美しい人形の如くだ。この一枚だけを見ても、キング・オブ・ドールと言われるのもうなずける。そんなショットだった。

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