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「そういや思い出した! そいつ、一之宮紫月 って……もしかしてペントハウスの個室に住んでるヤツじゃね?」
「はぁ? 個室住まいだぁ?」
「そうそう! 人付き合いが苦手だとかで、変人って呼ばれてるヤツ。うちの事務所でも割と長く居る古参モデルの間では有名って話をどっかで聞いたような……」
「へえ、変人……ね。ってかさ、この宿舎に個室なんてあるの? カップリングモデルさんたちはそれこそペントハウスで二人一部屋だけど、その他は大体が四人か六人の大部屋じゃん!」
現に自分たちもそうだと言って皆が口を尖らせる。まあ大部屋といえどもプライベートは守られていて、各人には十五畳ほどのワンルームに加えて風呂とトイレも各々の部屋に整備されている。リビングとキッチンが共同というだけで、造りも外観同様にクラシックで豪華な設えだ。若手モデルにとっては贅沢な待遇であるのは確かだった。
そんな中でもやはりペントハウスは格別なフロアといえる。しかも個室とくれば妬みが出ても仕方ない。
「だいたいさぁ、ペントハウスなんてオーナーとベテランのトップモデルさんたちだけが出入りできる特別階じゃん! いくらレベル・エイトだからって個室まで与えてもらってるなんて贔屓もいいところじゃんかー」
「同意!」
すっかりブーイングの嵐である。
「その一之宮 なんたらさん? この談話室でだって一度も見掛けたことないし、今の今までウチの事務所にそんな人がいるなんて知らなかったしー!」
人一倍文句を垂れているのはレベル・ファイブの若手だ。彼は鐘崎 の隣を夢見ていて、いつかは必ず自分が相方になってみせると意気込んでいたようだ。
「ま、しゃーねえだろ。一之宮 ってヤツ、腹も立つけど実際超がつくほどの男前だし、フォトショット見たって仕事が絶品ってのは事実だ。所詮、俺らとは住む世界が違うってことよ!」
「そうそ! それにペントハウスの個室ってのがホントなら、オーナーが認めてるってことだろ? 俺ら下っ端が何言ったところで太刀打ちできゃしねえっての!」
それより他のカップリングモデルは誰と誰が抜擢されたんだと、男たちの興味は他に移りつつある。
「メンズアンダーウェアが鐘崎 さんと一之宮 なんちゃらだろ? だったらフォーマル部門とカジュアル部門は誰に決まったのよ?」
フォーマル部門とはその名の通り、パーティや結婚式など改まった場面で着る服の部門だ。雑誌はもちろんだが、このフォーマル部門に選ばれた者たちはファッションショーのステージに立つ機会も多い。カジュアル部門も服の種類が違うだけで、活躍の場はフォーマルと似たようなものだった。
「もうネットにも発表が出てる。えーっと、フォーマルはイェンさんと、相方は……雪吹冰 だって」
「イェンさんって周焔 さんのことだろ?」
「そうそう! イェンさんも鐘崎 さんと同じく本名は公表してない人だわ。てか、雪吹冰 って……まさか去年ウチの事務所に入った一年坊主のこと?」
「ええー! そんならまだ新人じゃん! 俺のダチがヤツと同部屋だったぜ、確か」
「うっはぁ、マジかよー! めっちゃショック……」
周焔 というのは、香港生まれの香港育ちで、母親が日本人の混血である。むろんのことレベルは最高位のテンだ。オリエンタルなオトナの雰囲気満載で、鐘崎 同様事務所の二大巨塔と言われているベテランモデルであった。容姿・人気・実力共に遜色ないこの二人に優劣をつけるのは難しく、あえてどちらが上かと訊かれれば、あとは好みの問題だ。
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