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「だろうな。鐘崎 に周 といやぁ、ファンも濃いの多いからなぁ。去年だってまずまずのベテランと組んでたにも関わらず、それなりに波風はあったらしいしな」
「あの人らの相方に選ばれた一之宮 と雪吹 のことも推してる、もしくはまあ好みだってんならまだしも、そうじゃねえヤツらは嫉妬とか凄そう!」
「推しは鐘崎 だけとか周焔 だけっていう一途なファンだろ? 相手が誰だろうと他のモデルと組ませるなんて許せないってタイプのコアなファン」
「コミュニティ板とかで推しとアンチがバチバチ火花散らして大荒れすること間違いねえな」
コミュニティ板というのはこのモデル事務所のファンたちが立ち上げたチャット形式の掲示板である。非公式ではあるが、事務所代表のレイ・ヒイラギも特には禁止したり口出ししたりはしていない。当初はファン同士で萌えを発散する微笑ましい板だったようだが、時には推しとアンチでバチバチと火花を散らす荒れた雰囲気にも発展していったようだ。板自体は覗くだけなら誰でも可能で、モデルたちにとっても自分が世間からどう思われているのかという興味や指標でちょくちょく見に行っている者も多いらしい。カップリングモデルが決まる年度末には普段にも増して書き込みも爆発的に増えるから、熱烈な応援も無論のことあるが、手酷く辛辣な書かれ方をすることも多いそうなのだ。
「うはぁ、熾烈ぅ! そう考えると俺は抜擢されなくて良かったと思えてくる!」
「あー、それ言えてる。一之宮 の方は年齢的にもいってるし、キャリアからしてレベル・エイトならそんなに酷くはないかもだけど、新人同然の雪吹 は叩かれまくるだろうな」
「アタシのイェンさんに近付かないで! とか?」
「つーよりもアンタなんかイェンさんの隣は務まらないわよ! とかさ。もっと別の人に変えてくれとかそっちの方じゃね?」
「おお、コワッ! やっぱ俺、選ばれなくて良かったわー」
「でもまあ、これでまた一年間は鐘崎 さんも周 さんも他人 の旦那になっちまうんだなぁと思うとさぁ。切ねえのも事実だよねぇ」
つまんねえとばかりに肩を落とす。
この事務所が抱えているのは男性だけである。したがって他人 の旦那もなにもないのだが、モデルたちの間ではトップモデルの相方として同じ土俵に立てることが誰にとっても夢なのだ。抜擢されれば仕事だけでなくオフの時も夫婦か恋人のような立ち位置で年中側にいられるわけだ。尊敬する彼らからモデルとしてのキャリアも学べるし、内外共に注目度が半端でないので否が応でも名が売れる。なにより憧れの的であるトップモデルの隣を勝ち取ったということで、チヤホヤされるし自尊心も満たされるというわけだ。
まあ妬みや中傷といった負の遺産もついて回るのは必至だから、一概にいいことばかりとは言えないものの、一度は抜擢されてみたいと思うのが本心であった。
「しゃーない、決まっちまったモンはすっぱり諦めるが正解ってやつよな。来年度に期待するしかないね」
「俺らもそれまで精進するとしますか」
夢と愚痴を口にしながら男たちは談話室を後にしたのだった。
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