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と、そこへ息咳切らしてやって来た男が一人。よほど慌てていたのだろうか、ゼイゼイと肩を鳴らしながら扉の取っ手を握り締めては汗を拭っている。
「悪ィ、遅くなった!」
現れたのは鐘崎 の相方を務めるShizuki(シヅキ)こと一之宮紫月 であった。
「おう、紫月 。お疲れだったな! まだ打ち合わせは始まったばかりだから、そう慌てんでもいい」
「マジ? 良かった……。アンタらも待たせちまってすまねえ」
これは相方となる鐘崎 含め既に集まっていた三人に向けての言葉である。パンッと両手を顔前で合わせて、「悪ィ悪ィ」と謝罪する。シャツの襟をバフバフとさせて仰ぎながら、やっとのことで顔を上げた彼を見た瞬間に、鐘崎 は図らずも瞳を見開いてしまった。
一之宮紫月 ――彼のことは知っていた。むろん、面と向かって話したことはなかったが、彼の載った雑誌は見たことがあったし、相方になるという内示があった時点で過去の仕事ぶりなどに一通り目を通してみたわけだ。
いわゆるイイ男だとは思っていた。仕事も絶品、容姿はケチのつけようがないほどの美形だ。体格こそ細身だが、高身長で程よく筋肉もついている。彼のような男には、いずれモデルとしても抜かれるかも知れないと思えるような印象が、ある意味強烈でもあった。
また、それとは裏腹に、一方ではペントハウスの個室を与えられている変人という噂もチラホラと耳にしていた。人付き合いが苦手で、態度は高飛車。おおよそ関わりたくはない野郎だと、そこかしこで噂が絶えない男だった。
他人の噂などはあてにしない鐘崎 だが、この一之宮紫月 という男についてはなにかと気に掛かっていたのも事実だ。
仕事は絶品、だが性質は最悪。そんなふうに言われる男が実際はどんな人物なのかと興味をそそられる。幸か不幸か、そんな彼と相方を組まされることが決まった時は、さすがに微妙な心持ちにさせられたものだ。鐘崎 にとっては一之宮 と対峙できる今日この瞬間が、良くも悪くも気になって仕方なかったのだった。
想像するに口数も少なく人見知りで、初対面では満足に会話すら成り立たないかも知れない。そんなふうに思ってもいた。上から目線の態度にイラッとさせられるくらいは覚悟しておこう。そう身構えていたものの、当の本人はのっけから低姿勢で、開口一番に遅れたことを謝ってよこした。しかも仕事の撮りでの遅刻なのだから、本来ならば謝る筋合いもないはずなのに――だ。
その紫月 は未だ治まらない息遣いのまま皆の元へとやって来ると、ソファに並んでいる三人を見渡しながら、
「えっと……アンタが鐘崎 さん……だよね? うっは、写真で見たまんまの男前じゃん! んで、そっちが周焔 さんと雪吹 君だろ? お初ー! 俺、一之宮紫月 ってんだ。よろしくなぁ!」
そう言って爽やかに微笑みながら、ごく当たり前のように鐘崎 の隣へと腰を下ろした。
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