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かくいう紫月 の方はカップリングモデルに選ばれること自体が初めてのことだった。これまでは単独での活動しかしてこなかった為だ。まあ彼もベテランの類ではあるので、カップリングのシステム自体はよく理解しているようで、相方となる鐘崎 がこれまで誰と組んでどんなコンセプトでやってきたのかということも、よく分かっている口ぶりでいる。
「俺の仕事……見てくれてたのか?」
鐘崎 が訊くと、紫月 はもちろんと言ってうなずいた。
「アンタ、ベテランだし雑誌とかにもしょっちゅう載ってっから。周 さんと雪吹 君のももちろん拝見させてもらってるぜー!」
これまた意外な言葉である。誰にとってもこの紫月 という男は『変人』のイメージが強い為、まさかこんなに朗らかでフレンドリーだとは思わなかったからだ。
唖然としたようにポカンと口を開けたままの三人に、レイがクスッと笑んでみせた。
「お前ら、なんちゅーツラしてる。もしかしてこの紫月 が思ってた印象と違ったってか?」
図星である。
「あー、まあ……な。俺も一之宮 と話すのは初めてだが……」
珍しくも周 がタジタジと苦笑している。
「ペントハウスの変人はその名の通りもっと変わった嫌なヤツだと思ってた――だろ?」
ズバリとレイに指摘されて、三人共にまたしても閉口させられる。
「実はな、紫月 に関しちゃそういうコンセプトでやってくれって、事務所に入った時からの契約だったんだ。見ての通りケチの付けようが無え男前だし、仕事も絶品だが、こういうタイプは私生活を謎めいたものにしといた方が何かと興味をそそられると思ってな」
確かに仕事ぶりだけを見ればどこにも隙のないというか、ともすれば人間離れした恍惚な印象だ。こういう雰囲気は努力しても簡単に出せるものではない。ところが素の性質は噂とは真逆で、ざっくばらんの人懐こさとなれば、オンとオフのイメージが違い過ぎてギャップが出る。それがまたいいという者もいるだろうが、幻滅する者も一定数いそうだ。だからレイは敢えて彼の私生活にベールを掛け、謎に包まれた印象を打ち出したのだと言った。彼を個室に住まわせたのもそういう理由からだそうだ。当然、事務所内のモデル仲間とも一定の距離を取って行動するようにと仕向けたのはレイの経営戦略だそうだ。
それを聞いて、鐘崎 も周 も冰 も妙に納得させられてしまった。
「……そうか。そんな裏があったとはな。実は俺も今日初めて会うまではいろいろと想像しちまってたのは確かだ。まさかこんな……話しやすいとは思ってなかった」
すまないと言って鐘崎 は素直に頭を下げた。
「はは! いいってことよ! 俺、地がおっちょこちょいだからさぁ。レイさんから外ではもっと落ち着きのある態度でいろって口酸っぱく言われててな。間違っても地を出すなって」
ケラケラと朗らかに紫月 は笑った。それを横目にレイが苦笑している。
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