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「当たり前だ。お前さんは見てくれと性質のイメージが違い過ぎるのが唯一の難点なんだ。せっかくそんなに整った容姿を持ってるってのに当の本人はまったく気がついちゃいねえってんだからな」
「あっはっは! レイさんはそーやって持ち上げてくれっけどさー。てめえじゃそんな言うほどイケてるとは思えねんだよねー」
無造作に残りの麦茶を飲み干しながらまた笑う。レイの言葉を借りるわけじゃないが、こういう美麗なタイプは何かにつけて気取りたがるのが普通だろう。美しいということを本人が自覚していれば自然と周りに対しても高飛車になるものだ。ところがこの紫月 にはそういったところは皆無といえる。『汗臭いべ』と腰低く恐縮し、大してイケてるとも思わないと言っては豪快に笑う。あまりにも飾らないそんな仕草が逆に色気を感じさせるようでもあり、鐘崎 にとってはこれまでに感じたことのない興味をそそられるようでもあった。
「レイさん、俺たちのコンセプトだが……ちょっと時間をもらってもいいか? 一之宮 と二人で話し合って決めたいと思うんだが」
鐘崎 が言うとレイもそれでいいとうなずいてみせた。
「二、三日中には決めようと思ってる。そんなに時間は掛けねえつもりだから」
「ああ、構わんぞ。どうせこの後すぐに引越し作業で同室になるんだ。ゆっくり話し合って決めりゃいい」
そうしてひとまず会議を終えると、一同は早速引越し作業へと移ったのだった。
鐘崎 と紫月 、周 と冰 の住む部屋はペントハウスの隣同士だ。そのまた隣にはカジュアル部門担当の清水 と橘 が住むらしい。同階の端にはこれまで紫月 が住んでいた一人部屋があったが、鐘崎 は昨年もカップリングモデルを務めていたので引越しの必要はない。周 もまた同様である。新しく入居する紫月 と冰 の代わりに、昨年度まで鐘崎 や周 と組んでいたモデルたちが出ていくというわけだった。
それぞれが部屋に行くと、旧カップルだった者たちが既に引越し作業の最中であった。
鐘崎 が組んでいたのは綾乃木天音 というレベル・テンのモデルだ。綾乃木 もベテランの類で、鐘崎 より歳も幾分上である。長身で男らしく、この二人のコンセプトはバディタイプだったそうだ。
「よう! もうちょいで終わるから!」
綾乃木 はざっくばらんにそう言って笑った。
「お前さんが一之宮紫月 か。同階に住んでいながらあんまり顔を合わせたことはなかったよなぁ」
彼もまた紫月 が『変人』と呼ばれている噂はよく知っていたようだが、警戒する様子はまったく見られずフレンドリーに話し掛けてくれる。
「初めまして、一之宮紫月 です。よろしくお願いします!」
「おう、こちらこそー。見ての通りこの鐘崎 は大して愛想がねえが、根はいいヤツだからよ!」
安心して一年間頑張ってくれなと笑う。
「で、綾 さんはどの部屋に移るんスか?」
鐘崎 が訊くと、
「俺はオーナーの隣部屋だ。今年度からモデルの仕事を減らして経営の方に携わってくれって言われててな」
「経営? じゃあ……モデル辞めちまうんスか?」
「今すぐってわけじゃねえが、ゆくゆくはそうなるだろうな」
綾乃木 も現役モデルとしてはもういい歳の上、この世界のことを熟知しているし、なにより性質が良く頭脳明晰だ。レイが自らの片腕として数年前から欲しがっていたらしい。
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