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一方、鐘崎 と紫月 の方でも粗方の引越しを終え、部屋で荷解きに取り掛かっていた。
「荷物はこれだけか? なにか手伝えることがあれば言ってくれ」
鐘崎 が茶の用意をしながらそう声を掛けている。
「おー、さんきゅなぁ! あとは服をクロゼに吊るすだけだから」
紫月 がこれまで住んでいた部屋は、この後も誰が使うというわけではないらしく、レイからは倉庫代わりにでもしていいと言われた為、そのまま置いておける物もあり、大して荷物は多くないのだ。
「一之宮 、珈琲でいいか?」
「ん? あー、うん! 悪ィな!」
豆から挽いているようで、次第にいい香りが鼻をくすぐる。
「ちょっと休憩にしよう」
どうやら珈琲が入ったらしく、鐘崎 がリビングのテーブルへと湯気の立ったカップを二つ並べてくれている。
「よっしゃ! クロゼ整理完了!」
紫月 は身軽な動作でやって来ると、鐘崎 の対面へと腰掛けた。
「んー、すっげいい香り! 引越し手伝ってもらった上にいろいろやらせちまってすまねえ」
紫月 は礼を言うと、言葉通り美味そうに珈琲をすすった。
「旨ッ! 酸味が強くなくてすっげ旨え」
「そうか、よかった。俺も酸味より苦味の方が好きでな」
「本格的なのな! いつも豆から挽くの?」
「いや、今日はたまたまだ。前の住人だった綾 さんが置いてってくれたやつをな」
「ああ、綾乃木 さんか。珈琲党だったんだ?」
「いつもせっせと豆から挽いてたわ」
「ほええ。香りからして違うもんな! あ、それ借りてい?」
紫月 は感心しながらもシュガーポットに手を伸ばすと、角砂糖を四つ五つとカップに沈めた。驚いたのは鐘崎 だ。
「……ちょっ、おま……、もしかしてすっげ甘党なのか?」
「んあ? ああ、うん。甘いのは嫌いじゃねえよ。ケーキとかパフェもわりと好きなんだ」
いや、もうそれ『わりと』どころじゃないだろう。紫月 は当然のようにスプーンで掻き回しているが、鐘崎 からすれば見ているだけで胸焼けがしそうだった。
「……それ、どんな味すんだ……?」
どちらかといえば甘い物が苦手な鐘崎 にとっては、もはや興味をそそられるくらいの代物だ。
「あ? 飲む?」
「……う、いや、いい」
飲んでもいない内から嫌そうな顔をした鐘崎 に、紫月 はプッと笑ってしまった。
「あんた、甘いの苦手か?」
「あ、ああ……まあどっちかっていや得意では……ねえかな」
「はは! まあ、あんたのイメージには合ってるよね」
「イメージ?」
「そ! あんたにゃケーキよか酒が似合いそうだもん」
「はぁ……」
互いのカップから視線を外した瞬間に目と目が合ってしまい、二人は同時に吹き出してしまった。
「あっはは! あんた、案外面白えのな! 仕事だけ見てるとすっげ寡黙っつか、硬派なイメージだったけど」
「硬派? 俺が……か?」
「うん。そういやさっきの綾乃木 さんも硬派イケメンって雰囲気だったよなぁ。去年のあんたらのコンセプトはバディ系だったべ?」
俺たちのコンセプトはどうしようかと紫月 は早速仕事の話を始めた。
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