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自分がゲイだと自覚したことはないし、これまでも相方になった男と疑似恋愛的な立場を演じてはきたものの、仕事を離れて実際に恋愛するのなら相手は女性だと思っていた。だが、相手が男か女かに限らずモデル業だけでも正直なところいっぱいいっぱいだったということもあり、恋愛までは気が回らなかったのは事実だ。もちろん気晴らしにお茶や食事くらいには出掛けたこともあるが、それも打ち合わせを兼ねて仕事の延長という感覚の方が強かった。
ただ今回、オーナーのレイからカップリングモデルの内示があった時からこの一之宮紫月 に関してひどく興味を引かれたのは確かだった。内示後すぐに彼のこれまでの仕事ぶりなどを見てみたが、まずは容姿と雰囲気に目を惹かれた。一枚のスチールの中に彼の作り出す独特の世界観が見事で、一分一秒毎に心が彼でいっぱいになっていく。単にファンになってしまったとでもいおうか、そんな紫月 と相方を組めることに高揚していたのは確かだ。
しかも噂で聞いていた変人とは真逆の人懐こいこの性質。彼と公私を共にできるこれからの一年を思えば、危ういほどに気持ちが浮かれる思いでいることは否定できない。もしかしたら本当に嵌まってしまうかも知れない。そしてその想いが実らなかったとすれば苦しむことになるかも知れない。鐘崎 は漠然とそんな未来を想像しては、危うい不安を抱き締めるのだった。
(いかん、いかん……。まだ今年度が始まったばかりなんだ。こんな調子じゃ満足な仕事がこなせなくなる。せめて仕事の上では一之宮 の足を引っ張らねえようにしっかりやらんと)
頭を切り替えんとギュッと拳を握り締める。ちょうどその時だった。タイミングよくか隣の部屋から賑やかしい声が聞こえてきた。周焔 と雪吹冰 が引越しの荷物を運んできたようだ。
「どうやら隣も引越し作業を始めたようだな。ちょっと様子を見に行ってみるか。俺たちのコンセプトの件は……またレイさんにも相談して決めることにしよう」
鐘崎 はそう言うと、紫月 を誘って周 らの部屋へと向かった。
「よう! 早速引越しか。お前さん方もご苦労だな」
「おう、鐘崎 か。そういうお前らはもう済んだのか?」
どうやら鐘崎 と周 は互いによく知った仲らしい。えらくフランクなやり取りからも明らかである。
「お陰様でな。一之宮 の荷物も少なかったし、今さっき片付いたところだ」
そんな会話をしている側から紫月 がひょっこりと顔を出した。
「ほええ、こっちも部屋の造りは一緒なのな!」
窓からの景色が若干変わるだけで配置などはまるっきり同じようだ。
「鐘崎 さん、一之宮 さん! お疲れ様です」
周 の背後から顔を覗かせながら冰 がにっこりと挨拶をしてよこす。
「おーっす! 雪吹 君もお疲れなぁ! 俺ン方は引越し済んじゃったからさ。なんか手伝える事があれば言ってー」
「ありがとうございます! すみません、皆さんにまでお手を煩わせてしまって」
「いんやー、全然! 部屋も隣同士だしさ、これからはしょっちゅう顔合わせっことになんだろうから!」
よろしくなぁと言って、早速荷解きを手伝ったりしている。そんな紫月 の姿を横目に、鐘崎 はまたもや胸の奥が熱くなるのを感じていた。
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