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24 郊外での稽古

 (ひょう)が密かにそんなことを考えていた週末のことだ。  休みを前にした或る晩、リュックのような物に何かを詰め込んではタブレットで地図らしきものを凝視している(ひょう)の様子に気付いた(ジォウ)が、不思議顔で声を掛けた。 「雪吹(ふぶき)――?」  後ろから呼べども、よほど集中しているのか気付かないようだ。 「雪吹(ふぶき)。おい、雪吹(ふぶき)――」  再度呼び掛けてもまだ反応がない。 「(ひょう)――!」  今度は少し声を大にしてそう言うと、やっとのことで振り返った。 「あ――! は、はい周焔(ジォウ イェン)さん……!」 「さっきっから呼んでいたんだがな」 「す、すみません気付かなくて……あの……」  なんとも挙動不審といったように視線を泳がせる。少々強い口調で声を掛けたせいか、怯えさせてしまったのだろうかと思い、(ジォウ)は咄嗟に謝ってみせた。 「驚かせちまったか? すまなかった」 「いいえ! 僕の方こそぼうっとしてて……すみません!」 「いや。それより――何処かへ出掛けるのか?」  彼が懐に抱え込んでいるタブレットの画面が気になってそう訊いた。まあ明日は休みだから、どう過ごそうが彼の自由ではあるわけだが、それにしてもここ二、三日は夜遅くまで調べ物などをしていた様子を思い出して尋ねてみたのだ。 「あ、はい、あの……実はちょっと行ってみたい所がありまして」  そう言いながら慌てて覆おうとしたタブレットの画面にチラリと映し出された画像をついつい覗き込んでしまった(ジォウ)である。 「教会――か?」  (ひょう)が隠しそびれたタブレットの画面には、森の中に佇むチャペルのような光景が映し出されていた。 「……はい、あの……今度のショー、森の中の教会で式を挙げるということですから、それに近い雰囲気の場所を実際に見ておきたいと思ったんです」  はにかみながらそんなことを言った(ひょう)の言葉を聞いて(ジォウ)は驚いた。 「――そうだったのか」  きっと彼なりに良いステージにしたいと思って考えついたのだろうことが聞かずとも分かったからだ。 「なあ雪吹(ふぶき)――俺も一緒に行って構わんか?」  その申し出に今度は(ひょう)の方が驚いたようである。 「え――? (ジォウ)……さんが……一緒にいらしてくださるのです……か?」 「ああ、お前さんが良ければだが」  迷惑にならないだろうか――と、腰を屈め、瞳を細めて微笑み掛けた。 「も、もちろんです……! (ジォウ)さんがいらしてくださるのでしたら……すごく嬉しいです!」  瞬時に頰を染めては真っ直ぐなキラキラとした瞳が見つめてくる。 「そうか、良かった。なら一緒に行かせてくれ」 「あ……りがとうございます!」  言葉の通り本当に嬉しそうにはにかむ笑顔がなんとも可愛らしい。(ジォウ)は思わずポンと掌で彼の頭を撫でてしまった。  突然のスキンシップに(ひょう)の方も驚いたようでいたが、幸いにも嫌だという感情は持っていないようだった。それどころかますます頬を染めてはモジモジと落ち着かない様子でいる。ドキドキと高鳴り始めた心拍数に気付かれやしないかといったように、恥ずかしそうにうつむく様があたたかい気持ちにさせてくれるのだった。 「で、行き先は何処だ」  ウキウキとした声音で(ジォウ)が訊いた。 「はい! 山梨です」 「山梨?」 「はい、インターネットで検索して、ちょうどイメージが合いそうな教会を見つけたんです。電車とバスを乗り継いで三時間弱みたいなので、日帰りで行って来られるかと」 「――電車で行くつもりだったのか?」  だったら俺が車を出そうと(ジォウ)は言った。 「……よろしいのですか?」 「もちろんだ。森の中の教会というなら(あし)があった方が何かと都合が良かろう」 「ありがとうございます……! お世話をお掛けしてすみません」 「いや、ショーはお前さんと俺、二人で作り上げるものだからな。逆に年も上の俺が気が付くべきだった」 「……(ジォウ)さん」  ニコッと笑うその笑顔が男前過ぎて、(ひょう)はまたしてもモジモジと頰を染めたのだった。

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