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26 親近感
次の日、天気も上々の中、四人は山梨へと向かっていた。
結局、場所は最初に冰 が見つけてきた教会を目指すことに決まり、車を周 が出しての和気藹々。レッスンを兼ねたピクニックとなった。
「冰 、すまんが住所を言ってくれ」
運転席から後部座席にいる冰 へとそう声を掛ける。助手席には鐘崎 が座っていて、ナビ画面に行き先を登録しようとしているところだった。
「あ、はい焔 さん! 住所は――」
冰 が読み上げた通りに鐘崎 が打ち込んでいく。ごく当たり前な会話だが、ふと違和感に気付いた紫月 がポツリと口走った。
「あれえ? そういや今――二人お互いに名前で呼び合ってなかった?」
つい最近までは『雪吹 』『周 さん』と言っていたはずである。それが知らぬ間に『冰 』『焔 さん』に変わっていたことによって、「あれ?」と思ったわけだ。しかもごく自然に互いをそう呼び合ったことにも驚かされる。助手席の鐘崎 も、そう言われて初めて違いに気付いたようだった。
「そういや――昨日までは苗字呼びだったよな……」
二人に指摘されて、冰 の方は気恥ずかしげにモジモジと頰を染めてみせたものの、周 の方は照れる素振りもなく不敵な笑みまで見せて余裕の堂々ぶりだ。
「実は昨夜からな。これからは名前で呼び合おうと俺が提案したんだ」
きっかけは昨夜のことだ。何度か『雪吹 』と呼び掛けれど一向に気付かないことに痺れを切らした周 が、思わず「冰 !」と呼んだことが始まりだった。その時の口当たりが心地好かったから、今後はそう呼ばせてもらうことにしたのだと言う。
「俺のことは焔 でいいと言ったんだがな。冰 が遠慮しちまって、呼び捨ては恐縮ですとか言うもんだから」
それで『焔 さん』呼びに落ち着いたそうだ。
「ほええ、なるほどねぇ。確かにカップリングの相方なわけだし、溺愛系の二人にはその方が合ってるわな! ってかさ、だったら俺もこれからは冰 君って呼ばしてもらってもい?」
冰 の隣に乗った紫月 が後部座席でのほほん、笑顔でそんなことを口にする。
「も、もちろんです!」
「俺ンことも紫月 呼びでよろしくぅ!」
「あ、はい! ではお言葉に甘えて――紫月 さんでいいですか?」
「うんうん! よろしくなぁ、冰 君!」
そんな二人のやり取りを聞いて、鐘崎 は何とも羨ましい気持ちにさせられてしまった。今は『一之宮 』に『鐘崎 さん』と呼び合っているが、自分たちももっと親近感のある間柄になってみたいと思ってしまうのは、紫月 に仄かな想いを抱く鐘崎 にしてみれば当然といったところか。思い切って、『なあ、俺たちも互いを名前で――』そう言おうと思った矢先だった。
「んじゃさ、俺らも名前呼びにするべか。どう? 鐘崎 さん」
なんと紫月 の方からそう言ってくれたことに、ガラでもなく頰を染めてしまった鐘崎 だった。
「俺ン方は紫月 でいいよ。鐘崎 さんは俺よか年上だしキャリアも長えしな。俺も冰 君に倣って『遼二 さん』って呼ばしてもらうか! それとも『遼 さん』の方が呼びやすいかなぁ」
そんな紫月 に、
「さん――は要らねえ。年上ったってほんの二、三だろう? 俺も呼び捨てで構わねえ。ってよりも――その方が気楽だし……嬉しいしな」
語尾にいくに従って照れ臭さを隠すように気弱な声音になっていく鐘崎 に、隣運転席の周 がニヤっと冷やかすような視線を飛ばしてくる。そしてひと言、
「よし、それじゃ俺が決めてやろう。鐘崎 は一之宮 のことを『紫月 』! 一之宮 は鐘崎 のことを『遼 』と呼ぶ。これでどうだ?」
思わぬ援護射撃にタジタジながらも、
「お、俺は構わんが……」
一生懸命平静を装った鐘崎 だった。そんなドキドキハラハラ感に胸を高鳴らせていることを知ってか知らずか、後部座席からは紫月 が身を乗り出しながら朗らかな声を上げている。
「マジ? んじゃ『遼 』な! 改めてよろしく、遼 !」
助手席の背もたれに手を掛けては顔を覗き込んで満面の笑みを見せてくる。
「あ、ああ……こっちこそよろしく頼む。一之 ……じゃなくて、紫月 ……」
更に染まり掛けた頰の朱色を気付かれまいと、不必要にナビ画面にかじり付く鐘崎 であった。
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