28 / 125

27

 無事にお目当ての教会に着いたのは昼少し手前。午前の陽射しが木々の合間から降り注いでいる絶好の光景に、冰(ひょう)は感激の面持ちでいた。  辺りに人影はなく、教会から少し脇道に入った所には小さな小川が流れていて、水面には太陽の光が眩いほどに反射していて美しい。 「うわぁ……やっぱり来て良かったです。焔(イェン)さん、ありがとうございます!」  両手を広げて思い切り美味しい空気を吸い込みながらキラキラと瞳を輝かせる。遠目には教会が小さく見え隠れしていて、シチュエーションも最高だ。 「こいつぁ正に絶好ってくれえの景色だな。冰(ひょう)、よくこんないい場所を探したな!」  周(ジォウ)は褒めつつ華奢な肩を抱き寄せてはにっこりと微笑んだ。 「よーし、じゃあ早速リハーサルといってみるか。冰(ひょう)、少し距離を取った所から俺の腕に飛び込んで来てみろ!」 「はい、焔(イェン)さん! お願いします!」  いつも稽古場で行っている手順で一通りの動きを再現してみる。同じ振り付けではあるが、やはり自然の木々と緑萌える大地の中では見るもの感じるものすべてがまったく異なる。冰(ひょう)はこれまでよりも伸び伸びとした気持ちで駆け、思い切り周(ジォウ)の懐目指して飛び込む。――と、その瞬間に周(ジォウ)の逞しい腕でヒョイと軽々その身体を抱え上げられては天高く身体が舞い上がる。まるでバレエさながらのリフトも、周(ジォウ)のがっしりと力強い筋肉のお陰か安定していて、冰(ひょう)はまるで背中に羽が生えたような心地になるのだった。  抱き上げてくれている周(ジォウ)を見下ろせば、満面の笑みをたたえていて、本当に相思相愛の恋人に抱かれている気分になる。これはショーの為の演技だと分かっていても、幸せな気持ちで全身が満たされていく気がしていた。 (……幸せだなぁ。焔(イェン)さん、なんてやさしい笑顔を向けてくれるんだろう)  演技でもなくショーの為でもなく、これが現実だったらいいのに――! 思わずそんな思いが脳裏を過っては、図らずも切なくなってしまい、冰(ひょう)は双眸からポロポロと涙の雫がこぼれるのを抑えられなかった。  ポタリ――周(ジォウ)の頬にその一粒が落ちる。  その瞬間、まるで「どうした?」と心配そうに見上げてくる彼に、 「ごめんなさい焔(イェン)さん……あの、僕……」  周(ジォウ)はゆっくりとした動作で抱き上げていた冰(ひょう)を下ろすと、頬を伝った涙をクイと指で拭いながら心配そうに顔を覗き込んだ。 「どうした。リフトでどこか捻っちまったか?」  自分の抱き上げ方がまずくてどこか痛めたのかと思ったようだ。冰(ひょう)は慌ててブンブンと首を横に振った。 「いえ! 違うんです! リフトはとても気持ち良くて――焔(イェン)さん、いつもすごく上手に抱え上げてくださるので安心です! でも――このウェディングっていうシチュエーションのせいでしょうか、なんか現実の人生にシンクロしちゃったっていうか……あんまりにも幸せな気持ちになったら急に涙がこぼれてきちゃったんです」  驚かせてしまってごめんなさいと頭を下げる。 「そうだったのか」  周(ジォウ)はホッとしたように微笑むと同時に、今度はすっぽりと両手で抱き締めてよこした。 「そうか。冰(ひょう)、お前さんがそんなふうに幸せな気持ちになれれば、きっと素晴らしいショーになるだろう。かくいう俺も――お前さんを抱き上げながらすごく幸せな気分になったぞ」 「焔(イェン)……さん」 「嘘じゃねえ。本当だぞ」  この調子で本番も頑張ろうと言っては、大きな掌で両の頬を包み込む。やさし過ぎる周(ジォウ)の仕草に再び涙がこぼれそうになる。そんな思いを懸命に抑えながら、 「焔(イェン)さん……ありがとうございます。はい、良いショーになるように僕も精一杯頑張ります――!」  冰(ひょう)はそう言って幸せと切なさの入り混じった涙を拭ったのだった。

ともだちにシェアしよう!