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 一方の鐘崎(かねさき)紫月(しづき)の方でも、(ジォウ)らから少し離れた所で毛繕いのリハーサルが行われていた。 「んじゃ、綾乃木(あやのぎ)さんの振り付け通りに流してみるべ」  毛繕いの振り付けをしたのは綾乃木(あやのぎ)だ。モダンバレエが得意な彼だから、今回はそういった動きを軸に振り付けが考えられたようだ。  まずは二手に分かれて、ジャングルの大地を悠々と踏みしめながら動く二匹の豹を意識して歩み寄るところから始める。実際のランウェイ上ではステージの先端と袖からの登場となるわけだ。双方ゆっくりと距離を縮めて様子を探り合う。互いに触れ合える距離まで近付いたところで手と手を絡め合って、次第に唇を肌に寄せながら顔を上下していく。毛繕いの仕草だ。  この密接でいてエロティックな動きの振り付けに、稽古場でも胸の鼓動を抑えながらやっていた鐘崎(かねさき)であったが、自然の中で行うそれはやはり臨場感が半端でない。普段は恥ずかしさやら胸の鼓動を気付かれまいと緊張気味だったこともあって、どこそこ動きがギクシャクしていたわけだが、今は驚くほど自由で解放された気持ちにさせられるから不思議だった。  肌に唇を寄せて腰をくねらせ、互いに身体と身体をなすりつけ合う仕草も、ごく自然にできてしまう気がする。まるで自分たちが本物の黒豹と白豹になったような気分である。 「うーん、(りょう)! アンタのしてくれる毛繕い、ほんっとに気持ちいーべ」  言葉通り気持ち良さそうに背伸びをしながら太陽の光を目指して紫月(しづき)が高々と腕を上げる。その腕を絡め取るように鐘崎(かねさき)も一層背筋を伸ばして白豹を抱き締める。 「そう言ってもらえて――これ以上なく嬉しいぜ、()……(づき)」  大自然の開放感が追い風となってか、心のままに素直な胸の内を言葉に乗せる。その声音は色香をふんだんに含んでいて、バリトン系のローボイスが耳元で欲情を焚き付けるかのようだ。 「な、(りょう)……」 「ん――?」 「アンタ、色気有り過ぎ……。このまんま毛繕いされっとさぁ、なーんかやべえ気分になりそうだ」 「――やべえ? どんな?」  恍惚と太陽を見つめる紫月(しづき)の表情と、普段の気恥ずかしさを払拭して雄の本能で支配してくるかのような鐘崎(かねさき)の色気が重なり合う――。 「紫月(しづき)――」 「……うん?」 「確かにやべえ気持ちになりそうだな。ついでに――もっとやべえくれえお前さんを」  このまんま組み敷いて絡め取っちまいてえくれえだ――! 「……ん?」 「――いや、なんでもねえ」  あわや変調をきたし始めている自らの雄を宥め制するように、鐘崎(かねさき)はギュッと拳を握り締め――。 「ん! いい感じに出来上がったんじゃねえか? あとはモダンバレエの動きをみっちり稽古せにゃならんが」  パッと身体を離して無理矢理笑顔を作る。 「あ、うん。そだな。こんまんま本番でも頑張るべ!」  今度は紫月(しづき)の方が照れ隠しといったように少々焦った笑みを見せる。  出会ってからこのかた、これまではまさに探るように一歩一歩互いの距離を縮めてきた二人だったが、大自然という開放感の中で素直になれた気持ちが一気に互いの距離感を取っ払った――そんな瞬間だった。

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