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「振り付けなんざ要らねえ。毛繕いの前にジャングルの雄同士が初めて顔を合わせて威嚇し合う決闘シチュをぶち込むんだ!」
「決闘……だ?」
「それって……例えば殺陣 みてえな動きを入れるってこと?」
二人の問いに、レイは「その通りだ」と言った。
「流れはこうだ。ジャングルで出会った黒豹と白豹、初めの内は互いの力量を見定めるように遠目から威嚇し合う。しばらくそのままゆっくりと距離を詰めていって、互いに手の届く範囲になったら一気に決闘を始める。これでどうだ」
勝負をつける必要はないと言う。
「腕を交えて互いの力量が互角だと悟ったところで、初めて情が生まれる。その後は予定通りお前らの色気を充分に爆発させた″こってりエロ満載″の毛繕いの仕草で締めるんだ」
「こってり……?」
「エロ満載って……」
鐘崎 も紫月 もタジタジと苦笑いだ。
確かに、レイの案は素晴らしいと思えるものの、問題はその決闘の部分である。鐘崎 も紫月 も現時点で互いの腕が立つという事実を知らない。振り付けすら無く、殺陣 の稽古もしない状態で決闘の動きを演じろと言われても戸惑うところではある。
――が、レイは二人の素性を知っている。鐘崎 は生まれた時から裏の世界で育てられた男だ。空手を軸に実弾が飛び交う中でも戦える実績を持っている。一方の紫月 も武闘家の家系に生まれ、特技は合気道で、剣術は神技と誉れの高い。いわば″裏の世界に生きる素性″を互いに知らないというだけの話なのだ。
「殺陣 も振りも必要無え。お前さん方がある程度本気で相手を倒すつもりで自由に動けばそれでいいんだ」
レイは自信たっぷりにそう言い放ったが、鐘崎 と紫月 の二人にとってみれば無謀としか言いようがない。戸惑う彼らを前に、レイは不適な笑みと共にこう付け加えた。
「いいか? あくまでも″ある程度の本気″で腕を交えろ。間違っても持てる力量の一〇〇パーセントを出し尽くしたりするなよ。ここはあくまでファッションモデルが立つショーのステージだ。本気の技を見せる必要は無え。というよりも見せてもらっちゃ困る」
言っている意味は分かるな――? と、二人を見つめる。
つまり、これはモデルとしての″表″の仕事であって、裏の世界の素性を晒す舞台ではないと言っているのだ。
「……言いてえことは――何となく分かるが」
鐘崎 がつぶやく傍らで、
(ある程度本気出せったってさ……。見たトコ、遼 も喧嘩じゃ負けなさそうっつか、腕っ節は立ちそうな気がすっけども……)
それでも武闘家が使う技の前ではそもそも基礎からまるで違うわけで、殺陣 だの振りだの以前にまるっきり動きが合わなくておかしなステージになるんじゃないか? と、紫月 は紫月 で不安顔でいる。
ところがレイはそんな二人を鼻で笑って得意顔をしてみせた。
「まあ案ずるより何とやら――だ! 心配しねえで俺の言ったことを信じろ。ひとたびおめえらが手を合わせりゃ、互いの力量なんざすぐにも掴める!」
いいか、ある程度本気で――だぜ! しつこいくらいにレイはそう言って、二人をランウェイへと送り出したのだった。
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