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そうして本番が始まった。
鐘崎 は先程周 がスタンバイしていたランウェイ先端の袖から姿を現す。紫月 は反対側からスポットを浴びてのスタートと相成った。
まずはレイの提案通りに互いを見定め合うスローな歩み寄りからだ。まるでモダンバレエさながらの動きで一歩一歩――静かな中にも鋭い視線で相手を捉えながら動く。劇団やバレエ団の公演では見慣れた当たり前の動きだが、ファッションショーの舞台上ではおおよそお目に掛かったことのない演出は確かに斬新で、のっけから観客たちの視線を釘付けにしていった。とはいえ、ワンショルダーの衣装とジャングルのシチュエーションは先程の事務所が演じたのと全く同じ二番煎じと映るのは動かしようがない。舞台袖でステージを見守るスタッフや観客たちも予想通り半ば戸惑った表情でいて、それゆえこの先の動向を見据えるべく視線はランウェイに注がれていた。
そんな場内の思惑を一身に浴びながらも、舞台上では鐘崎 と紫月 がバレエダンサー顔負けの動きで着実に皆の興味を捉えていく――。
ジリジリと距離を縮め合い、互いに手の届く距離まで近付いたところでいよいよ決闘の始まりだ。
初めに仕掛けたのは鐘崎 の方からだった。レイからはある程度本気で――と指示されたものの、まかり間違って怪我などさせてはいけない。そう思った鐘崎 は、とりあえず軽いジャブ程度の攻撃で腕を差し出した。仮に当たっても多少痣ができる程度のパンチである。
ところが――だ。予想に反して紫月 はいとも簡単にそれを見切ってみせたのだ。
スイと軽々、動きをかわされたと驚いた次の瞬間だ。今度は紫月 の方からジャブのお返しが飛んできた。最初に鐘崎 が繰り出したパンチの動きから、思っていた以上にデキると察したのだろう。紫月 からのストレートパンチは案外鋭く、鐘崎 もまた、瞬時に彼の力量を測ることができたようだ。
(強え――。こいつぁ……素人の動きじゃねえ)
(へえ――、なるほどね。レイさんの言った意味が分かったわ)
それからは二人、共に″ある程度本気″の技の掛け合いが始まった。絡み合い、一歩引いては牽制し合う。ポンと軽々身を翻してはクイと背中を丸めて相手を捉え合うその動きは野生の動物そのものだ。まるで本物の黒豹と白豹が自らの縄張りを譲るまいとするような駆け引きの光景が目に浮かぶようだった。
そうして牽制を交わし合い、またひとたび隙を窺いながら攻撃を仕掛け合い、次第に激しさを増していく蹴りやパンチの応酬が続く。出だしこそ遠慮がちに仕掛け合っていたものの、腕を交える内に互いの力量と技に興味が湧いてしまったのだろう。まずはスピード感からして凄まじい速さで、観客らにしてみれば動きに視線が付いていけないくらいの物凄い決闘そのものだ。ステージ上のあまりの迫力に、場内は静まり返ってしまった。
と、ここでバックミュージックが色香と妖しさを含んだムーディーな曲に切り替わる。毛繕いの仕草に移れというレイからの合図だ。二人は決闘をやめると、そこからは稽古通りの絡みの動きへと入っていった。
これまでの激しい動作とは一転、互いに好感を覚えつつ次第に本能を見せ合う欲情混じりの動作へと移っていく。人間であれば相手への興味と同時に自分がどう思われているのかという躊躇の感情が働くところを、野生の動物ならではの本能優先といった素直そのものの感情表現が見事に表されていて興味を引かれる。衣装のワンショルダーに手を掛けて、今にもそれを剥ぎ取らんとする動作、本来の見せどころである新作ブリーフのデザインを強調しながら腰と腰を絡め合う妖艶な振り付けは、あっという間に観客をエロティックな世界へと誘 った。
ステージがハネる頃には各所から興奮さながらの溜め息が一挙に大歓声へと変わり、周 らの挙式シチュを上回るほどの熱狂となって場内を湧かせたのだった。
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