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39 焦燥
ショーから数日が過ぎた頃にそれは起こった。なんと、冰 が突然姿を消してしまったのだ。
「冰 が帰って来ねえだと?」
同室の周 がレイを訪ねたことから事態が発覚。聞けば、夕方買い物に出かけたきり夜になっても戻らないというのだ。今日は周 の方に雑誌の撮影が一件入っていたが、冰 はフリーだった。帰宅した時にはリビングのテーブルの上にメモが置いてあって、いつも行くスーパーに食材を買い出しに行ってきますと書かれてあったそうだ。きっと夕飯を作ってくれようとしていたのだろう。休みの日をどう過ごそうと自由ではあるが、律儀な冰 は同室の周 に心配を掛けまいと、こうして自分の予定を知らせてくれるのはいつものことだった。
「しばらく待っても帰って来ねえから、スーパーまで迎えに行ったんだが姿は見当たらなかった」
急いで部屋へ戻ってみてもまだ帰っておらず、携帯に連絡を入れ続けているものの電源が落ちているのか何度架けても通じないというのだ。もしかしたら何かあったのかも知れないと不安が過ぎり、レイに知らせたということだった。
「俺が帰宅してからかれこれ三時間だ。近所のスーパーに行ったにしては遅過ぎる。それ以前に携帯に繋がらねえのが不可解だ」
「ふむ――何かあったのか」
レイもおかしいと感じたようだ。
「焔 ――GPSは確かめてみたのか?」
「ああ……今、李 に言って確認してもらっている」
すると、そこへ少々慌てた顔付きで李 が飛び込んで来た。
「ああ、やはりこちらにおられましたか! 雪吹 さんのGPSですが――探査に反応しません!」
そのひと言に場が焦燥に包まれた。
「電源が落ちているのは間違いなさそうです!」
近所のスーパーへの行き帰りで電源を落とさなければならない事情など無いだろう。もしくはどこかで落としてしまい、その際に壊れてしまった。冰 は壊れたことを知らずに失くした携帯を探し歩いていて遅くなっているということも考えられる。
「その程度のことならいいんだが――まさか先日のショーの時みてえに嫌がらせにでも遭ってるんじゃ……」
あの時、冰 の衣装に泥をかけたと思われるのは事務所内のモデル仲間という線が強かった。周 としてはその延長で理不尽な目に遭っているのではと心配なわけだ。
「仮に誰かに呼び出されでもして――行き過ぎた目に遭わされているとしたら」
行き過ぎたとは例えば暴行を受けたり金を巻き上げられたりという卑劣な行為だ。どう見ても冰 は腕っ節が強いタイプではない。怪我などを負わされていたとしたら――と考えれば周 は居ても立っても居られない思いでいるのだった。
そんなおりだ。隣室の鐘崎 と紫月 が雑誌取材の仕事を終えて帰って来た。レイのもとへ今日一日の報告がてらやって来た彼らだったが、焦燥感あふれる周 らの様子に何かあったのかと察したようだった。
「ああ、おめえら! ちょうど良かった。実は冰 が――」
周 から大まかな事情を聞いて、二人もまた眉根を寄せた。
「――そっか、冰 君が……。それで――今現在うちの宿舎の連中がどこで何してるかってのは当たってみたか?」
紫月 が訊く。
「いや、まだだが――」
「だったら一応全部の部屋を訪ねてそれとなく全員の所在を確かめてみるべ」
紫月 も周 と同様に、ショーの際に嫌がらせをしただろう人物が冰 に更なる悪事を働いている可能性を案じたようだった。ところがその時、レイがひと言、少々驚くようなことを打ち明けて寄こした。
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