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「――所在を確認する相手は一人でいい。今は二階の大部屋に住んでいる道ノ瀬由羅 だ」
少々苦い表情でそう言い切った。
「道ノ瀬由羅 ? どこかで聞いたことのあるような名前だが――レイさん、なぜ調べるのはそいつだけでいいと?」
鐘崎 が首を傾げながら訊くも、答えを知る前にその理由には見当がついたようだ。
「もしかしてレイさん――そいつが例の……」
「ああ、その通りだ。この間のショーで冰 の衣装に泥を塗った張本人だ」
「――そうだったか。やはりあなたは下手人が誰かということを調べていたってわけだな」
「そうだ。あの時、犯人を捜すことはしないでおこうと言ったのはこの俺だ。だがな、今後もまた同じことが起こらねえ確証は無え。表沙汰にはしないまでも俺くらいは事実関係を知っておく必要があると思ったのでな」
なるほど――。そうであったかと皆も納得したようだ。例え下手人を突き止めたとて、それを暴くことはしないと言っていたレイだが、実際に誰がそんな卑劣なことを行い、冰 に対してどの程度の悪意を持っていたのかなどは知っておいて損はない。そう思って密かに調べを進めていたのだろう。
「李 、すまんが急いで道ノ瀬由羅 の所在を確認してくれ」
レイの指示で李 がすぐさま大部屋へと向かった。
ところが、なんとその道ノ瀬 本人はちゃんと部屋にいて、しかも今日一日は稽古が終わってからどこへも出掛けた形跡がないとのことだった。急ぎ戻って来た李 が息咳切らしながらそう報告する。
「彼がずっと部屋に居たことは大部屋の数人が確認しています。念の為、表玄関と裏の通用口で警備員に出入りを確かめましたが、道ノ瀬由羅 が出入りした様子はありませんでした」
その代わり、表玄関の警備員は冰 が買い物に出るのを確かに見届けたとのことだった。冰 は一人で出掛け、その時特に変わった様子は見受けられなかったそうだ。いつも通り柔和な笑顔で「夕飯の買い出しに行って来ます」と挨拶をしてくれたとのことで、それにしては帰りが遅いことを警備員も心配していたそうだ。それが事実なら、道ノ瀬由羅 というモデルが冰 の後をつけて連れ去ったという可能性は無いということになる。
ではいったい冰 はどこへ行ってしまったというのだろうか。まあ彼も一応は名の知れたモデルだ。しょっちゅうテレビや動画に出ている著名な芸能人というほどではないにしろ、ファッション関係に興味のあるファンなどの間では顔が知れているということになる。レイらが考えている道ノ瀬由羅 による嫌がらせや暴行といった観点とはまったく別の、ファンや業界関係者によってどこかへ連れ去られたという可能性もゼロではない。
ふと、鐘崎 がこうつぶやいた。
「道ノ瀬 か――。もしかして道ノ瀬 グループの関係者か?」
それというのは国内でも名の知れた、いわゆる財閥系の会社である。一部上場の大企業といえるだろう。少々珍しい名前なので、鐘崎 は一族ゆかりの者かと思ったようだ。
「その通りだ。道ノ瀬 グループの現代表の一人息子だ」
レイが渋い顔つきでうなずいた。
「道ノ瀬由羅 は親父さんから是非にと頼まれて我が事務所に引き取った男でな。確かに見てくれはそこそこモデル向きと思えたし、本人もやる気があるとのことだったんで預かることにしたわけだが――」
ただ、事務所に入ってからの言動といえばあまり褒められたものでもなかったそうだ。
「ヤツは財閥当主の一人息子だ。いわば甘やかされて育ったわけだろう。お世辞にも真面目とは言えず、稽古もサボりがちで、そんなふうだから未だ研修生の域を出ない立場でな。実際にプロとしての仕事場に立たせたことは無えんだが」
事務所内のレベル的にもまだ下位の方だという。
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