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43 動き出す男たち

 二人が事務所に帰ると、大まかな状況が掴めてきたところのようだった。さすがは鐘崎(かねさき)である。 「(イェン)! 大体の経緯が分かったぞ。やはり道ノ瀬由羅(みちのせ ゆら)による企みのようだ」  鐘崎(かねさき)が『(げん)さん』と呼んだ人物からの報告によって、ここ最近で道ノ瀬由羅(みちのせ ゆら)が頻繁に連絡を取り合っていたと思われる相手が特定できたとのことだった。 「(リー)さんが密かに入手してくれた由羅(ゆら)の通話履歴から暴力団関係者が浮上した。今、うちの者たちがそこの組へ向かってる」  鐘崎(かねさき)の調べによれば、由羅(ゆら)が父親の会社幹部を経て暴力団に渡りをつけ、(ひょう)を拉致するように依頼したらしいことが分かってきたそうだ。 「暴力団だと? つまり目的は単なる妬みや嫌がらせってだけじゃねえってことか――。まさか始末させる――なんてつもりじゃあるめえな」  だが、(ジォウ)にはそうまでして(ひょう)を邪魔にする由羅(ゆら)の目的が理解できないようだ。 「道ノ瀬由羅(みちのせ ゆら)ってのは今いくつだ? どちらにせよ(ひょう)とさして違わない二十歳(はたち)過ぎの若造が、暴力団を雇ってまでただのモデル仲間を消したい理由が分からん。俺たちの知らねえところでよほどの確執でもあったってのか」  (ひょう)の性質からして誰かに殺意を持たれるような言動はしないはずだ。 「理由については分からん。だが――由羅(ゆら)の生い立ちや性質から察するに、物事を軽く捉え過ぎている感が否めねえ。てめえにとってちょいと勘に障る相手だから始末しちまえばいい――くらいに思っているんだろう。ヤツに取っちゃまるでゲーム感覚だ。親に殴られたこともねえ、拳の痛みも知らねえ……とっくに成人越してるいい大人のくせして命の重みも善悪の判断もまるでつかねえ生粋の馬鹿だ」  決して怒鳴っているわけではないものの、鐘崎(かねさき)の一言一句からは相当に憤っているだろうことが窺えた。むろんのこと(ジォウ)紫月(しづき)も同じ思いだ。 「――そんなくだらねえ自尊心だけで拉致なんぞをさせやがったわけか? しかもてめえの手は一切汚さずに金で人を雇うとはな」  由羅(ゆら)の犯行が事実なら到底許し置けないと(ジォウ)が額に青筋を浮かべる。と、その時だった。鐘崎(かねさき)の元に連絡が届き、由羅(ゆら)が雇ったと思われる暴力団から事の詳細を入手できたとのことだった。 『(わか)! ヤツらが口を割りました! やはり道ノ瀬(みちのせ)グループの息子に雇われて雪吹冰(ふぶき ひょう)さんを拉致したそうですが――それよりもまずいことになりました。ヤツらは雪吹(ふぶき)さんを連れて既にこの日本を出国したようです』  鐘崎(かねさき)の携帯の通話口からそんな会話が漏れ聞こえて来る。 「出国だと!? 行き先は!?」 『一時間前に羽田を発った香港行きの便です! 雪吹(ふぶき)さんが香港の出身だったことから、元鞘に送り返してから地獄に叩き落としてくれと道ノ瀬(みちのせ)の息子が依頼したようです」 「――地獄に叩き落とすだと? つまりはなんだ……闇組織にでも売り飛ばそうってか」 『我々もこれから空港へ向かって、監視カメラを当たります! 偽名で搭乗させた可能性も考えられますが、仮に雪吹(ふぶき)さん本人の名前で偽造パスポートを用意していたとするなら相当用意周到です」  つまり、それほど(ひょう)に対する怨みが深いということか――。 「分かった! 俺もすぐに向かう!」  鐘崎(かねさき)は一旦通話を切ると、間髪入れずにまた別のところへ電話を入れた。 「(げん)さん、俺だ! すぐに支度を整えて合流してくれ! 行き先は香港だ」  側で会話を聞いていた(ジォウ)の方でも顔つきがみるみると変わっていく。 「(リー)! (リゥ)! ジェットの手配を! 俺は親父と兄貴に連絡を入れる!」  マネージメント担当の二人に向かって指示を出す。すぐさまそれに応えた(リー)らの口から『かしこまりました老板(ラァオバン)!』そのひと言を聞いて、紫月(しづき)もまた彼らの素性を確信した。 (老板(ラァオバン)――ね。ってことは(リー)さんと(リゥ)さんは周焔(ジォウ イェン)の側近ってわけか。(ジォウ)さんが日本に渡るに当たって龍首(ロンシゥ)が手を回した護衛ってところだろう。(りょう)の言う『(げん)さん』は鐘崎(かねさき)組番頭の東堂源次郎(とうどう げんじろう)氏で決まりだな)  こうなれば自身も加勢すべきところだが、今現在鐘崎(かねさき)らにとって自分はただのモデル仲間という認識しかないだろう。当然、動くのは彼らだけで、自分は置いていかれる可能性の方が高い。  まあ日本に残ったとしてもこちらで助力できることはあるはずだと思っていた紫月(しづき)だが、次の瞬間鐘崎(かねさき)から驚くような助勢依頼が来るとは意外だった。

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