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「レイさん、すまんが紫月 を借りて行っても構わんか」
そのひと言に、紫月 はもちろんだが周 もまた不思議そうに首を傾げて鐘崎 を見やった。
「カネ――だが一之宮 は」
周 の表情には聞かずとも『こいつは一般人だろうが』と書いてある。だが鐘崎 には確信がある様子だった。
「紫月 にも一緒に来てもらえれば有難い」
レイに向かって『構わんだろう?』と視線を送る。
「――ああ。そうしてくれれば安心だ」
レイが苦笑ながらも快諾を口にする。――とするなら、この紫月 もまた自分たち同様裏の世界の関係者だとでもいうわけか。周 の表情からはそんな思いが読み取れるかのようだった。
「では道ノ瀬由羅 については俺が引き受ける。俺たちが冰 の捜索に動いているということは一切漏らさずヤツをここへ足留めしておく! お前さん方は何としても冰 を無事に取り戻してくれ!」
レイはここへ残って後始末をつけるそうだ。そんな彼に見送られながら、周 らは一路香港へと旅立って行った。
静かになってしまった事務所の社長室で、レイは複雑な思いに苦笑いを抑え切れずにいた。
(どのみちいつまでも隠し立てしておけるものでもない――。というよりも、既にヤツらは聞かずとも互いの素性を薄々感じ取っていやがる。さすがというべきか、当然というべきか)
ふうと深い溜め息をつき、レイは道ノ瀬 グループとの対峙に取り掛かるのだった。
◇ ◇ ◇
一方、冰 の方である。
スーパーで拉致に遭って以来、理由を聞く間もなくスタンガンと銃で脅されながら、あれよという間に空港まで連れて来られてしまった。搭乗口では声を潰す薬を飲まされ、男二人に前後を挟まれたまま抵抗する術もなく飛行機は離陸。行き先が香港ということだけは分かったが、なぜ自分がこんな目に遭うのかという理由すら知らされないまま不安の図中にいた。搭乗機は間もなく香港の地へと着陸するようだ。
(この人たちはいったい誰なんだろう。なぜ僕を――?)
考えられるのは、ショーの衣装に泥を塗られた例の出来事に関連しているかも知れないという想像くらいだ。それ以外にも石をぶつけられたり嫌味を言われたりもしたが、まさか拉致までして海外に連れ去るなど、さすがに常軌を逸している。妬み僻みが原因だとしてもここまでするだろうか。
冰 にとって唯一、不幸中の幸いがあるとすれば、連れて来られたのが生まれ育った香港の地だということだ。
(着陸すれば、今僕を脅して拘束しているこの人たちにも――ある程度安堵する気持ちが生まれるはず。無事に通関して街中へ出れば、日本の警察に追われるっていう心配も格段に減る。何とかこの人たちの神経を逆撫でせずに僕を拐った理由を聞き出せるといいんだけれど)
冰 にとってこの地で言語の心配は皆無だ。自分を拘束している二人が広東語に通じているかは分からないが、それは通関後の行動から探れるだろう。とにかくは機会が巡って来るのを待とうと決めた冰 だった。
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