51 / 60
50
その頃、周 の実家の龍首では、冰 らしき日本人の青年の足取りを特定すべくファミリーの精鋭たちが各所で尽力してくれていた。周 が日本を発つ際に送った冰 の顔写真をはじめとした体格や髪の色などを含めた詳細な情報を共有しながら香港の街中に散って手掛かりを探す。空路で入国することは明らかだったので、すぐに空港に出向いて出入国をチェックする者や繁華街の路地裏や廃倉庫などでそれらしき動きを探る者――と、幾手にも分かれて調べを進めてくれていた。入国時にどんな輩と一緒だったか、通関後はどの交通機関を使って何処へ向かったかはもちろんのこと、冰 を売り買いする動きについても探りの網の目を張っていく。周 や鐘崎 らにとっては何より心強いことだった。
一方、その冰 の方では拉致された当初からは考えられないくらい意外な事態に陥っていた。カジノで目の当たりにした彼の腕前に興味を抱いた男たちが、闇市に堕とすのは勿体ないと思い始めていたからだ。
「なあ、兄ちゃんよ。ものは相談だが、お前さん俺たちと手を組む気はねえか?」
言葉尻も丁寧に――というよりは親しげにといった方が近いか、まるで仲間内に話し掛けるように接してくる。
「手を組む……ですか?」
どういうことでしょうと冰 が首を傾げる。男たちは、ますます身を乗り出しながら先を続けた。
「実はな、暴露しちまうとお前さんは本来、俺たちの手で闇市に沈められることになってたんだ」
「闇市……ですか?」
「ああ。早い話が臓器だけ抜いて始末する予定だったってわけだ」
「臓器って……僕のですか? それって僕は本当は殺されるはずだったということですか?」
「まあ……当たりだ。お前さんをここに連れて来た男たちからはそういう条件で依頼を受けてたんだが――正直なところ、この先どうするも俺たちの一存で決められるってわけよ。臓器を売ったところで上がりは知れてる。アンタだって理由も分かんねえまんま殺されるなんてのは嫌だろう? それよりも俺たちと組んでよ、カジノで一稼ぎしねえか?」
「カジノで……ですか?」
「ああ。お前さんの腕前は実証済みだ。今度はあんな闇カジノじゃなく、もっとデカい店に行って勝負してえとは思わねえかい? この香港にも一応カジノと呼べるモンは幾つもあるが、お隣のマカオで堂々稼ぐのも手だしよ。何ならベガスにも殴り込むか!」
お前さんの腕前を持ってすれば、世界中のカジノで荒稼ぎも夢じゃない――と、男たちは大乗り気の様子でいる。
「はあ……そうですね」
ここで断ることも出来るが、そうすれば臓器を売られた挙句に殺されるのは必至だ。考えるまでもなく同意するしか道はない。
この男たちとて平気で人身売買やら殺人を引き受けるような輩だ。決して善人ではないものの、生かしてくれるというなら従うしかない。どんな手立てであってもとにかくは今を生き延びることこそが最優先といえる。そう思った冰 は、男たちの提案を受け入れることに決めた。
「分かりました。僕もまだ死にたくはありませんし、皆さんがそう言ってくださるのでしたら有り難くお受けします!」
快諾の言葉を聞いた男たちは大喜びで舞い上がったのだった。
ともだちにシェアしよう!

