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 (ジォウ)らが現場へ到着すると、既に兄・周風(ジォウ ファン)の側近である曹来(ツァオ ライ)という男が待っていた。彼はファミリーの顧問弁護士をも兼ねていて、周風(ジォウ ファン)の第一側近ともいえる精鋭だ。 「(イェン)君! ご苦労だったね」 「(ツァオ)先生! ご無沙汰しております。この度は兄上にも先生にもご足労をお掛けして恐縮です!」 「いや、(イェン)君も元気そうで何よりだ。実は周風(ジォウ ファン)――キミの兄君も一緒に来るはずだったんだが。彼は現在別件で少々気に掛かる事案を抱えていてね。後程本宅で会おうとの伝言だ」 「そうでしたか。兄上にも手を煩わせて申し訳ない」 「それよりも(イェン)君。キミのモデル仲間――雪吹冰(ふぶき ひょう)さんだったな。彼がここの連中の元へ連れて来られたのは間違いないと思われるんだが、生憎部屋には人の気配がしない。出掛けているのか、それとも既に雪吹(ふぶき)さんを連れて移動したのか――最悪は始末に向かっているということも考えられる」  悠長にしていられる事態ではないということだ。 「今、龍首(ロンシゥ)の若い衆がこの近辺を聴き込みに回っている。上手くすればここに住んでいるヤツらの生活形態や交友関係が分かってくるはずだ。ヤツらと連絡が取れれば雪吹(ふぶき)さんの状況が掴めるだろう」 「(ツァオ)先生、ご助力に感謝します!」 「無事でいてくれると良いのだが――。このヤサは若い衆に見張ってもらう。一旦お邸へ戻ろう」 「ええ、そうですね」  とにかくはファミリーの本拠地へ行って兄・周風(ジォウ ファン)らと合流することに決めた。  邸に着くとちょうど兄・周風(ジォウ ファン)が客人を送り出すところだった。先程、曹来(ツァオ ライ)が言っていた別件での気に掛かる事案とはこの客人の要件だったようだ。 「ああ、(イェン)! 出迎えに行けなくてすまなかったな」 「兄上! いえ、私の方こそファミリーの皆さんにもご足労をお掛けして恐縮です」 「とんでもない! 実は雪吹冰(ふぶき ひょう)君の育ての親というのは、我々にとっても良く存じ上げたお人でな。(ウォン)といって、既にお亡くなりになっているんだが、彼は俺たちの父上のカジノでディーラーとして活躍してくれていたのだよ」 「そうだったのですね。私も日本を発つ前にレイさんからうかがって驚きました」 「うむ、我々にとっても老黄(ラァオ ウォン)のご子息である雪吹(ふぶき)君は大事なお人だ。全力を上げて捜索に当たる」 「ありがとうございます! 兄上もご多忙のところ申し訳ございません。何か急ぎのご用があったとか」 「ああ、それなんだがな。実はここ二日ばかりの間にちょっとしたカジノ荒らしというような事案が起こってな。今帰られた御仁はそのことで相談に見えていたのだ」 「――カジノ荒らしでございますか? というと詐欺が疑われると?」 「いや、それが一概に詐欺とまでは言い切れんのだよ。経緯としては客がルーレットで大勝ちしたというだけなんだが、問題はその額だ。金庫にストックしてあった五分の一ほどがほんの一瞬で吸い上げられたそうだ」 「五分の一ですか。それはまたえらいことですね……。では先程の御仁は」 「被害に遭った――という言い方が正しいかは何とも言えんが、そのカジノの経営者だ。店の規模としては中堅クラスだが、それとは別に実は同じような案件がもう一件あったそうでな。そちらはいわゆる治安も最悪と名高い潜りの闇カジノだったそうだが、やはりほんの小一時間程で大金を持って行かれたという話だ」  (ジォウ)家でもお隣マカオに大きなカジノを持っているわけだし、非合法とはいえこの香港内にもファミリーの息の掛かった秘密裏の店はある。同じくそういったカジノ経営者たちの間ではちょっとした震撼の騒ぎになっているというのだ。 「雪吹(ふぶき)君の育ての親、老黄(ラァオ ウォン)もディーラーだったからな。カジノ繋がりと言うのも変な話だが、不思議なこともあるものだと思っていたところだ」  兄・周風(ジォウ ファン)は単に偶然と思っているようだったが、(ジォウ)には何だか無性に胸が逸るような気がしてならなかった。 (もしかしたら今回の(ひょう)の件と無関係じゃねえのかも――)  その思いは鐘崎(かねさき)も同じだったようだ。 「(イェン)、それに(ファン)の兄貴――。ひょっとするとその大勝ちした客っていうのは(ひょう)という可能性も考えられませんか?」  そのひと言で皆はハッとしたように互いを見やった。

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