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「遼二 ――それはどういうことだ」
風 が訊く。
「はい、黄 氏は腕利きのディーラーだったわけですよね。その御仁が育てたのなら、冰 もまたその道には明るいんじゃないかと思っただけです。冰 は先日のショーの苦境にも見事な機転で事態を引っくり返した男です。もしかしたら今回も拉致犯相手に何らかの策を思いついたとも考えられるかと」
周 もまた、同じことを考えていたと言った。
「カネ、やはりお前さんもそう思ったか。実は俺もだ」
二人の意見に兄の風 がどういうことだと首を傾げる。その問いに、周 が思い当たったことを説明し始めた。
「これまでの経緯からすると、冰 はこの香港で始末されるか売り飛ばされる予定だったと思われます。ヤツ自身も自分に命の危険が迫っていることは薄々感じたはずです。拉致犯が冰 に『お前を始末する』と言ったかどうかは分かりませんが、連れて来られたヤサを見ただけで自分の行く末を想像できたはずです。冰 はとにかく一刻も長く生き延びる為の手立てを考えたのではないでしょうか」
「……それが今回のカジノ荒らしだと?」
「例えばです。レイさんの話では、冰 は幼い頃から老黄 にディーラーの技を仕込まれて育ったということでした。彼に秀でた才能が有ったとして、老黄 同様にカジノの勝負に於いて長けていたとします。このまま殺されるくらいならカジノで大金を稼ぎ出し、拉致犯にその実力を認めさせようと考えたのではないでしょうか」
つまり、殺すには惜しいといった感情を植え付けたのではというのだ。
「……雪吹 君は拉致犯にとって″金のなる木″だと思わせることが目的だということか?」
「ええ――。それには僅かな勝ち金では到底納得させられない。だからこの短時間に途方もない額を稼ぎ出してみせた――と考えれば」
「雪吹 君は現在も無事でいて、拉致犯と共にカジノを巡っている可能性が高いということか!」
「確信はありません。ですが冰 ならばそのくらいのことを考えついても不思議じゃないですし、またそれを実行に移すだけの賢さと度胸を兼ね備えた男です。調べてみる価値は充分にあるかと」
この仮説に皆の視線が期待に輝く。
「これまで狙われたのが潜りの闇カジノ、次いで中堅クラスの店となれば、次は更に大きな店で勝負を仕掛けてくると思われます。冰 はこの香港で生まれ育ったわけですし、育ての親が腕利きのディーラーだったというのでしたらカジノの規模も場所もしっかりと把握しているはず。もしかしたら今夜あたり父上のカジノか――あるいは同等の店に現れる可能性が高いのではないかと」
周 が予測する傍らで鐘崎 が続けた。
「それと同時に同じ香港内で派手に荒稼ぎすれば当然目を付けられることも想定内でしょう。各カジノオーナーたちが騒ぎ出す頃にはすっかり姿を消して、別の国へ移動することも考えられます。香港では小手調べとして実力を示した後、いよいよ本腰を入れて稼ぐ為にマカオ、あるいはアジア圏を抜けてベガスなども視野に入れているかも知れません」
となれば、今夜の香港を最後に高跳びすることが考えられる。
「冰 を救出できるのはおそらく今夜が最後のチャンスと思われます。各カジノに網を張って待っていれば、あるいはそこで出会えるかと」
「――なるほどな。正直なところ、このまま闇雲に捜索を続けても雪吹 君の所在を突き止められる可能性は低いだろう。焔 や遼二 の仮定で動いてみるのが賢明かも知れんな」
風 は早速にファミリーが携わるカジノはもちろん、他の主たる店にも人員を配置して機会を待とうと言ってくれた。
「兄上、それと同時に先程お帰りになられたカジノオーナーにも助力を願って、昨夜の監視カメラの映像を拝見させていただければと思うのですが」
「承知した! すぐに手配しよう」
もしも冰 が監視カメラに映っていれば、周 と鐘崎 の予想は的中ということになる。皆は一丸となって万全の体制に取り掛かったのだった。
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