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55 狂い始めた歯車

 その日の夜、(ジォウ)ら一行は(ひょう)が現れるだろうと思わしき各店舗にて万全の体制を敷いた。ところが、夜の九時を過ぎても(ひょう)の姿は確認できない。 「おかしい――。昨夜の店で監視カメラに映っていたのは間違いなく(ひょう)だった。カジノ巡りをしているという俺たちの想像が当たっていたのは確かだろうに」  連日では怪しまれると思ったのか、それとも既にこの香港を出てマカオ辺りに移動したとでもいうわけか。焦燥感が募る中、(ジォウ)らの元に驚愕の知らせが届いたのはそれから間もなくのことだった。拉致犯のヤサを張っていたファミリーの若い衆たちからの一報だった。 『焔老板(イェン ラァオバン)! ちょいとややこしい事態が起こりました。拉致犯と思われる男の一人がヤサで殺されました!』  報告によると、(ひょう)と共にカジノの監視カメラに映っていた男で間違いないという。 「殺されただと――? どういうこった!」 『ええ、実は――』  見張り組によると、その男はたった一人でヤサに戻って来たとのことだった。(ひょう)の姿は見当たらず、仲間とおぼしき者もおらず、本当に一人きりだったそうだ。 『何かの用事でヤツ一人がヤサに戻って来たというところでしょうか。えらく慌てている――というよりも酷く周囲の目を気に掛けているといった様子でコソコソと家に入って行ったんです。とにかくは男がヤサから出て来るのを待って取り押さえる算段でいたところ、我々とは別に彼を待ち受けていた男たちがいたようで先を越されました』  若い衆らの言うには、男を待ち受けていた数人が家へ踏み込み、しばらくして出て行ったそうだ。その後、当の拉致犯がなかなか出てこないので様子を窺いに行ってみると、部屋の扉に鍵はかかっておらず、室内で刺殺体を発見したそうだ。 『踏み込んで行った男たちは四、五人でした。勝手知ったる様子でヤサへ入って行ったことから、おそらく拉致犯連中とは顔見知りといったところでしょう。風貌からしてゴロツキのような印象でしたが、これで(やっこ)さんが周囲の目を気にしている理由に合点がいきました。もしかしたらその男たちに追われていたとも考えられます』  つまり、何らかのトラブルによって仲間割れでもしたということだろうか。 「それで(ひょう)は!? (ひょう)の姿は見なかったのだな?」 『はい。(やっこ)さんはたった一人で帰って来ましたし、ヤサの隅々まで捜しましたが雪吹(ふぶき)様の姿はありませんでした』  ということは、(ひょう)は別のどこかに居て、殺された拉致犯の仲間と今も一緒だということか。 『それから焔老板(イェン ラァオバン)、殺された男のズボンのポケットからヤツの物と思われる携帯を見つけましたので、今そちらへお届けに向かっております! ヤサを出て行った男たちの方には尾行をつけておりますので』 「――! 承知した。世話を掛けたな」  (ジォウ)は若い衆らを労うと同時に彼らの到着を待つことにした。そしてすぐさまその情報を鐘崎(かねさき)らにも共有、各カジノで(ひょう)を張っていた彼らとも一旦合流することにした。  数分後、鐘崎(かねさき)紫月(しづき)らが散らばっていた各所から戻って来た。 「店舗周辺にはファミリーの皆さんが残って見張ってくれている。(ひょう)たちが現れればすぐに連絡をくれることになっている」 「けど、(ひょう)君と一緒に動いてた拉致犯が()られたってどういうことだ」  鐘崎(かねさき)紫月(しづき)が息咳切らして(ジォウ)の元へとやって来る。 「カネ、一之宮(いちのみや)! ご苦労だった! どうやらヤツらの間で仲間割れが起こったようだ」 「仲間割れか……。消されたのは昨夜(ひょう)君と一緒に監視カメラに映ってた野郎ってわけだよな。もしか(ひょう)君が稼ぎ出した金の取り分を巡って争いにでもなったってことか?」 「そうかも知れん。若い衆からの報告ではヤサに踏み込んだのは男が四、五人だったそうだな。ヤツら、いったい何人で動いていやがるんだ」 「実はな、カネ。ついさっき日本にいるレイさんからも新たな情報が届いたところだ。レイさんの話では日本で(ひょう)を拐ったのは男二人だったそうだが、そいつらがこの香港で(ひょう)を引き渡した相手の人数は三人ということだった。その内の一人が殺されたってことは――残りの二人は今も(ひょう)と一緒にいる可能性が高い」  それにしても踏み込んで来た四、五人の男たちとはどういった関係なのか。 「元々ヤツら全員が同じ組織の仲間だったのかもな。ただ、(ひょう)がカジノで稼ぎ出した金を山分けするのが惜しくなった三人との間で揉め事になったのかも知れん」  つまり、殺された男は仲間の追手から逃げている最中だったというところだろうか。  と、そこへ殺された男の携帯を持ってファミリーの若い衆が駆けつけて来た。

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