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焔老板(イェン ラァオバン)、お待たせいたしました!」  持参した携帯電話を(ジォウ)へと差し出す。 「ご苦労だった!」 「これで残りの二人と連絡が取れるかも知れん!」  パスワードを破るのに少々手間取ったものの無事にロックの解除に成功、通話履歴から頻繁に連絡を取り合っていたと思われる番号へ架けてみることにした。 「コール音がする――。繋がるといいのだが」  (ジォウ)が逸る気持ちを抑えながら応答を待つ。長いコール音が続いた後、通話が繋がった。 『も、もしもし……』  なんと聞こえてきたのは(ひょう)の声だった。しかも周囲を気にしているのか、低く落とした小さな声音が一気に緊張状態を伝えてくる。 「(ひょう)か!? 俺だ! (イェン)だ」 『――え? (イェン)……さん? 本当に(イェン)さんなのですか?』  ホッとした応答は一瞬で、すぐにまた声を小さくして何かを気に掛ける様子が伝わってきた。 「(ひょう)! 俺たちも今香港に来ている! すぐに迎えに行くから心配せずに待っているんだ」 『――!? (イェン)さんが香港に?』  (ひょう)は驚きつつも安堵した様子が声で分かった。 『(イェン)さん、実は今……僕たちは――』  緊迫感のある声で(ひょう)がそう言い始めた時だ。背後から複数人の男たちの怒号と共に何かを蹴飛ばすようなガラガラという騒音が聞こえてきた。声や物音の反響具合から察するに、どうやらだだっ広い倉庫のような光景が脳裏に浮かぶ。男たちは口々に『隠れてないで出てきやがれ』というようなことを叫んでいるようだ。(ジォウ)を一気に緊張感の渦へと突き落としたのは、直後に聞こえてきた銃声らしき反響音だった。 「(ひょう)――! 今のは何だ!? もしかして誰かに追われているのか?」  先程から怯えた小声でいるのはそれが原因なのだろうとすぐに察しがつく。おそらく追手から身を隠すようにうずくまってでもいるのだろう。 『(イェン)さん、拳銃を持った男の人たちに追われています……。相手は大勢いて……』  (ジォウ)の傍らでは、通話中の電話の位置情報が拾えたと(リー)がうなずく。場所は港付近の廃倉庫、そう遠くはない。 「――分かった。(ひょう)、身を低くしてその場を動くな! すぐに迎えに行く! お前、怪我はねえんだな?」 『はい……僕は大丈夫です。でも……僕と一緒にいる方が一人撃たれて、多分亡くなってしまっているかと……。もう一人は僕を庇って怪我を負ってしまって重傷です。血がたくさん出てて……ここを動くことができないので、あの人たちに見つからないようにとりあえずの小部屋を見つけて隠れたんですが』 「お前を庇って――?」  まさか拉致犯が(ひょう)の盾になったとでもいうのか――にわかには信じられない話だが、(ひょう)が嘘をつくはずもない。 「分かった! お前のいる場所は特定できた! すぐに行くから携帯の電源を落とさずにもう少しだけ辛抱してくれ!」 『(イェン)さん、ありがとうございます! 待っています……!』  涙ぐむ声音からはできる限り早く助けに来て欲しいといった気持ちがありありと伝わってくる。 「必ず助ける! 物音を立てねえようにそのままじっと隠れているんだ。もう少しだけ辛抱してくれ!」  (ジォウ)はすぐさま部屋を飛び出ると、車まで走りながら(ひょう)を励まし続けた。鐘崎(かねさき)紫月(しづき)(リー)源次郎(げんじろう)らも即座に武装を整えて(ジォウ)に続く。 「(ひょう)を追っているのは例のヤサで拉致犯の一人を()った野郎どもか――。やはり拉致犯の三人以外にも仲間がいたということだな」  鐘崎(かねさき)が言う。 「ああ。カジノで得た金を巡ってのことだろう。追手のヤツらにとっても(ひょう)は金のなる木だ。みすみす殺すようなことはしねえはずだが、既に仲間を二人()っちまったことからして悠長にはしていられん! 分からねえのは重傷を負ったという野郎が(ひょう)を庇ったということだが」 「もしかしたら(ひょう)と一緒にカジノ巡りをする内に何らかの感情が芽生えたのかも知れんな。庇ったのも自らの意思というより咄嗟に身体が動いてしまったとも考えられる」 「ああ――。(ひょう)の性格からしてそいつを見捨てることはできねえだろう……。俺たちが着くまで追手に見つからずにいてくれればいいんだが」  (ジォウ)は自らハンドルを握りながら、香港の混沌とした繁華街をカーチェイスの如く車と車の間を縫ってはGPSが示す(ひょう)の元へと急ぐのだった。

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