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通話を終えると冰 はもう大丈ですよと言ってロナルドを励ました。
「僕の同僚がここへ向かってくれているそうです! もうすぐで助かりますよ!」
「……同僚……?」
「ええ! 職場の先輩です! 僕を追ってこの香港まで来てくださったんだそうです! 拳銃を持った人たちに追われていると伝えたんで、きっと警察の人を連れて来てくれると思いますから!」
「……警察」
「はい! ですからもう少しだけ辛抱してください。焔 さんたちが来てくれたらすぐに病院に運びますから!」
「焔 さん……ってのは……お前さんの先輩か?」
「そうです! とっても頼りになる方ですから」
ところが、ロナルドは冰 の手をガシっと掴んでは「そいつはいけねえ」と言ってとめた。
「来るのは……警察だけにしてもらえ……。こっちは銃を持った危ねえ連中の……集まりだ。おめえの先輩ってのに怪我を……負わせたくねえだろ」
「大丈夫です! 焔 さんはその辺りもちゃんと分かってくださるお方です! 警察の人に任せて、ご自分が直接踏み込むような無謀なことはしないはずですから」
周 のことだ。通話を切った直後に通報して、警察を動員するよう手配してくれるはずだ。警察が動けばもう安心だと思う冰 だったが、反してロナルドは望み薄と認識しているようだった。
「警察……か。いねえよりかは幾分マシだが、万々歳ってわけにゃいかねえだろうぜ。俺らを追って来たヤツらは……チンピラまがいだが……だからこそとことん極悪非道な連中さ……。警察のヤツらを撃ち殺すくれえ……平気でやりやがるだろう」
ロナルドは、まあそういう自分もその″チンピラまがい″の一人には違いないが――と言って苦笑した。
「そんな……!」
「仮にヤツらを……鎮められる人間がいるとすれば……そいつぁもう龍首 の幹部連中くれえだ……ろうぜ」
「龍首 ……?」
「ああ、あちらさんは俺たちチンピラと違ってモノホンのマフィアだ。おめえさんもその名前くれえは聞いたことがあるだろ?」
「龍首 って……香港を仕切る巨大マフィアって言われてる……あの龍首 ですか?」
「そ……うだ。まあ……いい。警察の連中が来て……運良く助かったら……おめえさんだけでも……無事に……」
ロナルドはそこまで言うと、ついぞ事切れたのかガックリと意識を失ってしまった。
「ロンさん!? ロンさん! しっかりしてください! 目を開けて! お願い――」
必死の思いで心拍数を確かめると、微弱ながらも鼓動を感じてホッと胸を撫で下ろす。とにかくもまだ息があるということに安堵しながらも、つい今し方ロナルドに言われたことを思い返した。
(もしもロンさんの言うように焔 さんが自らここへやって来たら危険な目に遭わせてしまう……! さっきは僕、焔 さんの声を聞けただけで安心して――これでもう助かるだなんて思ってしまったけど――よく考えたら焔 さんを危険な目に巻き込んでしまうってことに気付かなかったなんて……!)
そうだ。ロンさんの言う通りだ。今からもう一度電話を架けて、ここへ来るのは警察だけにしてもらわないと!
冰 はすぐさまリダイヤルで周 へと連絡を入れた。
『どうした! 冰 !』
通話に出たのは鐘崎 だった。
『焔 は運転中だ! 間もなく着くからもうしばらく辛抱してくれ!』
「鐘崎 さん! すみません、来るのは警察の人たちだけにしてください! ここには拳銃を持った人がたくさんいます! 来れば皆さんが危険です!」
冰 が必死に訴えるも、すぐにスピーカーに切り替わったのだろう。通話口からは周 の声が聞こえてきた。
『冰 ! 心配するな! お前のいる倉庫が目視できた! すぐに行く』
「焔 さんッ! ダメです! 危ないですから! ロンさんもそう言っています!」
『ロンさん――?』
「僕を庇って怪我を負った方です! 僕らを追って来た人たちは極悪非道な連中だから……警察をも平気で殺しかねないって! あの人たちを抑えられるとすれば、それはもうこの香港のマフィア・龍首 くらいだってロンさんが……。だから絶対にここへは来ないでッ」
必死に訴えたが、周 はスマートフォンの向こう側で不敵な笑みを浮かべたようだった。
『大丈夫。俺たちを信じろ――』
「焔 さんッ! ダメです! 鐘崎 さんッ!」
焦燥感いっぱいにスマートフォンを握り締める冰 の背後から車のブレーキ音と同時に突如物凄い銃撃戦のような爆音が鳴り響いた。
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